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令和7年(2025年)12月5日(金) / 日医ニュース

社会保障のあり方を一人一人が「自分事」として考える重要性を共有

社会保障のあり方を一人一人が「自分事」として考える重要性を共有

社会保障のあり方を一人一人が「自分事」として考える重要性を共有

 シンポジウム「社会保障のアップデート~豊かな未来をデザインする~」を11月11日、日本医師会館大講堂で開催した。基調講演やトークセッションを通じて、社会保障への理解を深めてもらうとともに、国民一人一人が社会保障のあり方を「自分事」として主体的に考えていく重要性などを伝えた。
 冒頭、あいさつした松本吉郎会長は、医療に必要な財源は「税金による公助」「保険料による共助」「自己負担による自助」の三つで構成されている点を紹介した上で、「これら三つのバランスをしっかり取ることが大切。病に苦しむ患者さんの自己負担だけを上げるようなことがあってはならない」と訴えた。
 その上で、「離れて暮らす親への仕送りや医療・介護を心配することなく、能力と適正に応じた場所で活躍できることが、子どもの有無にかかわらず社会保障における現役世代のメリットではないか」と全ての国民の健康と生活を支える重要性を述べた。
 茂松茂人副会長の司会の下、基調講演では日本赤十字社の清家篤社長が登壇。「日本の経済・社会を持続可能にする社会保障制度」と題して講演した。高齢化社会を持続可能なものにしていくには、経済社会の支え手としての高齢者を増やしていく必要性があると指摘。例えば、労働力人口の減少に伴って生産や消費が減れば、その結果として社会保障財源の減少につながるとし、労働力人口の減少を緩和させるための手段として、生産の支え手となる高齢者の就労を増やす方向性を提示。高齢者の雇用が増えれば、勤労所得税と社会保険料が増加し、若者の負担軽減につながる点などにも触れた上で、支え手となる高齢者を増やすためにも、健康寿命の延伸が大切になるとした。
 また、健康寿命の延伸のために、(1)定期的な健診や生活習慣病予防のための保健指導、予防接種などの拡充、(2)かかりつけ医による日頃の健康管理、(3)高齢期の疾病を高度医療で治療できる医療提供体制の整備―など、「投資としての医療」が果たす役割はますます重要になっていると指摘した。
 更に、世界に冠たる社会保障制度を持続可能な形で将来世代にしっかりと伝えていく重要性にも触れ、「社会保障制度のオーナー(主人)としての側面を持つ国民が賢明な選択・議論を行い、社会保障制度を我々の世代で食い潰すことなく、次世代につないでいくことが求められている」との見方を示した。

251205d2.jpg 続いて、早稲田大学人間科学学術院の松原由美教授が「未来をつくる社会保障」をテーマに講演。社会保障を巡る神話を取り上げ、(1)肩車社会に未来はない?、(2)日本の医療福祉分野は生産性が低い?、(3)社会保障は日本の足かせ?―といった神話に対して私見を述べた。
 (2)では財政制度等審議会(財政審)の資料で、医療・福祉分野の労働分配率が60%と、他国の80~90%と比べて低いとの指摘を問題視するとともに、福祉医療機構のデータでは、社会福祉法人の労働分配率は94・4%、医療法人の労働分配率は96・7%であったと説明。その他、内部留保について誤った認識による主張が展開されたことなどにも触れた上で、「不適切なデータ・評価は最前線で闘う現場の士気を下げ、社会的共通資本である医療・介護・福祉分野を脆弱(ぜいじゃく)化させ、社会を分断させる恐れさえある」との危機感を示した。
 また、より良い未来をつくる社会保障構築のためには、①性別や年齢、障害の有無、家庭環境等にかかわらず、その人の能力を発揮しやすい環境づくり②社会保険の適用拡大③低所得者層へのサポート―などの視点が求められることも強調した。
 トークセッションでは黒瀬巌常任理事が司会を務め、清家社長と松原教授の他、患者の視点からささえあい医療人権センターCOMLの山口育子理事長と、若い世代を代表してファッションモデル・タレントのラブリ氏が加わって意見を交わした。

251205d3.jpg ラブリ氏は、「若者世代は社会保障にあまりなじみがなく、社会保障の恩恵を受けている実感が薄いと感じている」とした上で、例えば、社会保障を身近に感じられるようにするため、若い世代になじみのあるSNSを活用するなど、若者に対する社会保障の見える化を要望した。更に、子育て中の母親の立場としても意見を表明。妊娠や出産、子どもが病気になった時も含めて、日々、社会保障のありがたみを感じる一方で、社会保障が本当にどこまで必要か線引きをすることは難しい点にも触れた。
 この発言を踏まえ、黒瀬常任理事は「社会保障制度が充実しているからこそ、逆にどこまで頼っていいか分かりづらい部分もある」と理解を示した上で、「そういう時のために皆さんにぜひ覚えておいて欲しいのは、かかりつけ医をもつということ。家族のことを含めて気軽に相談できる、そういった関係の医師をもってもらえれば、そのような悩みを解決する一つのきっかけにもなる」と呼び掛けた。

251205d4.jpg 清家社長は、社会保障の給付について、年金・医療・介護に比べると、子育て支援の給付は比率的に少ない現状に触れた上で、そのような中でも、「子育て支援を受けた際に、社会保障のありがたみを感じた」と、ラブリ氏が発言したことに感銘を受けたとし、給付の面で若者が社会保障を実感できる形に更にシフトしていく必要性を訴えた。

251205d5.jpg 山口理事長は「産まれる前から産まれた後の生活、仕事、病気になった時、そして亡くなるまでの間、自分達の人生に寄り添ってくれるのが社会保障だ」と説明。一方で「自分事」として社会保障に向き合うことができていない面もあるとし、「これからどれだけ『自分事』として位置付けられるか。社会保障の財源も含め、今後、社会の中で皆さんと一緒に考えていく必要がある」と指摘した。
 その上で、患者の視点で考えると、特に高額療養費制度の財源問題が危惧されるとし、「このままだと財源がもたないからと、突然はしごを外されたら、路頭に迷う患者さんがたくさん出る。そうならないためにも、誰がどのように負担するのかを自分達の問題として考えないといけない」とも訴えた。
 松原教授は、今の日本社会が「若者と高齢者」「病人と健康な人」といった二項対立による分断が進んでいることに懸念を示し、「皆で支える」という視点の重要性を強調。今後の社会保障のあり方について、「短期的な視点で損得を考えるのではなく、長期的な視点で見たら、『社会保障は非常に得なのだ』『支え合った方が得なのだ』ということを皆で共有していくべきだ」と訴えた。

 最後に角田徹副会長が閉会のあいさつを行い、シンポジウムは終了となった。

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 本シンポジウムの模様は後日に採録を朝日新聞全国版朝刊並びに朝日新聞デジタルに、動画を日本医師会公式YouTubeチャンネルに掲載します。ぜひ、ご覧下さい。

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