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令和7年(2025年)12月5日(金) / 日医ニュース

生涯教育(慢性腎臓病、アトピー性皮膚炎、睡眠障害)、厚労省関係で5つの講演が行われる

 第69回社会保険指導者講習会(日本医師会・厚生労働省共催)が10月26日、日本医師会館大講堂で、令和元年10月以来、約6年ぶりに開催された。当日は延べ265名の参加があった。
 今村英仁常任理事の司会で開会。冒頭、ビデオメッセージであいさつを行った松本吉郎会長は、今回の講演はいずれも非常に関心の高い内容であり、AI時代には審査や指導の医学的判断がますます重要だとして、「各テーマに係る最新の医療情報を業務に活用頂きたい」と述べた。
 また、2040年に向けて人口が減少し、高齢化率がピークを迎えるのに伴い、医療需要や受診行動の変化に柔軟に対応した医療提供体制の構築が求められる一方、今般、特に賃金・物価の急激な高騰に対し、病院・診療所共に十分な対応が難しい状況が続き、貴重な人材が他産業に流出していることにも言及。
 新内閣に対しては、病院・診療所共に非常に逼迫(ひっぱく)した経営状況にある現実を認識するよう求めるとともに、「このまま医療機関の危機的な経営状況が続けば、地域医療の崩壊は避けられず、国民の健康にも影響が及ぶことを重く受け止めて頂きたい」とした。
 更に、今後については引き続き今年度中の補助金と診療報酬の両面による、医療機関における賃金・物価上昇への機動的な対応の他、令和8年度診療報酬改定でも、賃金・物価上昇に加え、医療の技術革新にも対応した大幅なプラス改定の実現を求めていくとした。

生涯教育講演

 上野賢一郎厚労大臣(森光敬子厚労省医政局長代読)のあいさつに続き、午前は今村常任理事、午後は長島公之常任理事が座長を務め、3題の生涯教育講演が行われた。

251205e1.jpg 岡田浩一埼玉医科大学医学部腎臓内科教授は日本の慢性腎臓病(CKD)対策について説明した。
 まず、CKDは末期腎不全に加えて心血管病のリスク因子であることが判明し、その対策が本格化する一方、透析患者は35万人弱で年間医療費は約1・6兆円に上ることを踏まえ、2018年に「腎疾患対策検討会報告書」が取りまとめられた他、かかりつけ医と腎臓専門医による2人主治医制のCKD病診連携システムが構築されたこと等を解説。また、糖尿病関連腎臓病(DKD)は複数の医療従事者によるチームアプローチで全死亡・腎死リスクが半減することが実証され、診療報酬上の評価に結実した他、標準治療への上乗せ効果を目指す新薬開発が行われている状況等を概説した。
 更に、CKD対策はかかりつけ医の協力が必須であるとした他、都道府県ごとの進捗・効果の差が大きいとして、全国でその均てん化を目指すべきとの考えを示した。

251205e2.jpg 井川健獨協医科大学医学部皮膚科学講座主任教授はアトピー性皮膚炎(AD)について概説。ADは一部に遺伝的状況が関与する可能性があり、全年代で発症する上、病歴の長期化で中等症以上が増える他、他の皮膚疾患と比較してQOLへの影響が非常に強いことを指摘した。
 また、ガイドラインで示された治療の目標、標準治療は(1)増悪因子対策、(2)スキンケア、(3)薬物治療―の3本柱からなる他、ADは①皮膚バリア機能障害②Type2炎症反応③痒み―の三つが相互に影響して増悪すること等を説明した。
 加えて、井川主任教授はADの症例や新薬開発の状況等を紹介した上で、現在の新規治療の問題点として①高額②治療対象は手探り③治療の終了地点が見えない④超長期の安全性の問題⑤治療効果は高いが単剤では不十分―があることを挙げた。

251205e3.jpg 三村將慶應義塾大学予防医療センター特任教授は睡眠障害について解説。睡眠は免疫機能の向上等に必要であり、免疫反応と睡眠の質に負の相関がある他、中途覚醒が多いとアルツハイマー病に関わるアミロイドβが脳内に蓄積すること等に言及した。
 また、睡眠障害は不眠症の他にレム睡眠行動障害等もあるとした他、同センターで行われた睡眠評価の実験の結果について報告。更に、不眠症の4大症状は、(1)入眠障害、(2)中途覚醒、(3)早朝覚醒、(4)熟眠障害―であるが、その治療のためには昼間の眠気を最も確認すべきだと指摘するとともに、睡眠障害とうつ病の深い関係性や睡眠障害に有効な非薬物療法・薬物療法等に触れた。
 その他、睡眠時無呼吸症候群の特徴として①大きないびき②睡眠時無呼吸③昼間の眠気―等を挙げ、「本人は気付かないことが多く、見逃さないことが重要」と指摘した他、快適な睡眠を取るためのポイントを紹介した。

厚生労働省関係講演

 続いて、矢野好輝厚労省保険局医療課課長補佐が座長を務め、2題の厚労省関係講演が行われた。

251205e4.jpg  森光医政局長は2040年に向けた厚労省の取り組みや課題について、(1)地域医療構想、(2)医師偏在対策、(3)医療人材確保、(4)医療分野の省力化―を中心に説明。(2)では、県全体で医師数が増加しても、その多くが県庁所在地等の中心部で働いており、周辺地域に広がっていないと指摘。北海道を例に、医療インフラが人口減少よりも速く引き揚げられているとして、「人や産業がある地域から医療がなくなると、地域の根幹が揺らいでしまう」と警鐘を鳴らした。
 (3)では、看護師養成所の定員充足率が下落していることに触れ、人材養成の仕組みの簡素化や、他業界より魅力があることのアピール等が必要だと指摘。更に、2040年に向けた課題については、厚労省でその対策を引き続き検討していくとした他、「各地域の取り組みを全国に展開したい」と述べた。

251205e5.jpg 林修一郎厚労省保険局医療課長は令和8年度診療報酬改定に向けた課題と展望について説明。社会保障審議会で議論している「令和8年度診療報酬改定の基本方針」に関して厚労省は、診療報酬上求める基準の柔軟化により医療従事者の業務効率化や負担軽減等を図ることを提案しているとして、「医療の質を下げない範囲で議論すべき」と主張した。
 更に、中医協で議論している(1)医療機関を取り巻く状況、(2)医療提供体制等、(3)外来医療、(4)入院医療、(5)在宅医療―について報告。(1)では賃上げに関して、「社会全体でしっかりと賃上げを行い、それに伴い保険料収入が上がるという循環にならないと社会保険が維持できなくなる」と指摘した他、「約1000万人が働いている医療・福祉だけ賃上げが進まないことはあってはならない」と強調。また、医療DXや指導監査の状況についても言及した。
 最後に総括を行った長島常任理事は、本講習会を今後の活動に活用するよう求めるとともに、現在は医療を取り巻く状況が極めて厳しいとして、「社会保険に関わる皆様方が一丸となって、国民・住民の医療を守るために取り組んで頂きたい」と呼び掛けた。

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