2016~2017年度の武見フェローである江口尚氏(北里大学医学部公衆衛生学助教)並びに大川純代氏(東京大学大学院医学系研究科国際地域保健学教室特任研究員)による帰国報告会が7月18日、日医会館で行われた。
武見国際保健プログラムは、1983年に武見太郎元日医会長の「国際保健における医療資源の開発と配分」の構想に着目したハーバード大学が、日医の協力の下、同大学公衆衛生大学院にその名を冠して設置した学際的研究プログラムであり、日医から毎年2名の研究者を派遣している。
報告会は道永麻里常任理事の司会により、横倉義武会長を始めとする日医役員、日本製薬工業協会、武見フェローOB、日医総研研究員、JMA-JDNら72名の出席の下に行われた。
冒頭あいさつした横倉会長は、昨年ボストンで同プログラムを視察した際に、ミシェル・ウィリアムズ学院長から、ハーバード大学内においても同プログラムが高い評価を得ているとの説明を受けたことを紹介。「各国の公衆衛生の向上にも貢献している同プログラムを、日医としても引き続き支援していきたい」と述べるとともに、日本製薬工業協会の日頃の支援に対して感謝の意を示した。
報告では、まず、江口氏が「日本版職場のソーシャル・キャピタル尺度の開発」と題して、職場のソーシャル・キャピタル(WSC:workplace social capital、そこに属する個人の行動を促進する社会構造の特徴)への関心が高まる中で、日本人の労働文化を考慮したWSCに関する6項目の尺度を開発し、一定の信頼性・妥当性が確認できたことを説明。
より精緻なモデルを使って検討した結果、組織レベルのWSCが個人レベルのストレスに影響していたことが明らかになったとするとともに、ストレス軽減のため、管理職は、運動会や社員旅行、お花見などの組織レベルのWSCを改善するような取り組みに関心を持つ必要があるとの考えを示した。
また、今後については、「開発した尺度を用いて、組織レベルのWSCが健康に関するアウトカム〔HbA1cや高感度CRP(炎症性マーカー)等〕ともリンクしていないか、検討していきたい」と述べた。
続いて、「母子保健サービスにおけるケアの継続、ケアの質」と題して講演した大川氏は、武見プログラムで行った3つの研究活動のうち、「ガーナ国母子保健継続ケアパッケージのインパクト評価」について概説した。
「継続ケアカードの使用」など、継続ケア強化の介入パッケージを開発し、妊産婦死亡率、新生児死亡率が依然として高いガーナにおいて実施した結果、産後ケアの受診回数とケアの質が向上する一方、受診することと質の良いケアを受けることには大きな格差が見られたと指摘。その上で、母子の健康を更に改善するためには、十分な受診を促進するとともに、保健医療施設の設備改善や人材の育成など、ヘルスケアシステムの強化が必要になるとした。