最近の私にとっての一大イベントは、上の子が今春小学校を卒業したことだった。子どもが生きてきた分、私は親として生きてきたわけで、いろいろあったけどお互い何とかここまでよくやってきたねと背中をたたいて健闘をたたえ合いたい気分である。
「仕事と育児の両立は大変だったでしょ」とよく言われたが、子ども達は保育園でたっぷり遊ばせてもらい、調理師さんの作った昼食とおやつを食べさせてもらっていたので、病気の時以外は仕事中に子どもの心配をしたことがなく、仕事をしている時の方がかえって安心なくらいだった。
むしろ大変だったのは仕事のない日、つまり保育園が休みの日だった。夫が仕事でいなければ一人で離乳食と幼児食と大人食と3パターンを準備して、子ども達に食べさせていたが、おむつ交換やトイレのお世話で中断してばかり。手がガサガサになるくらい何度も手洗いして、やっと作った離乳食を食べさせようとしたら子どもが寝てしまっていたこともよくあり、そんな時は、痩(や)せてないし保育園で食べているから、家で食べなくても大丈夫と自分に言い聞かせていた。
わが家に夜間カレーが登場したのはそんな頃である。
当時私達夫婦が勤めていた病院には、22時からの当直業務の他に17時から22時までの夜間外来業務があり、若手が当直、ベテランが夜間というのが暗黙の了解だった。
ところがある日、夫が私に「しばらく当直じゃなくて夜間外来にしてもらったよ。その方が俺が朝はいるから、少しでも楽でしょ」と言った。その言葉にほっとしたのを覚えている。
夫が夜間外来業務と分かっている日はあらかじめ前日にカレーを作り置きするようにした。これが夜間カレーである。
カレールーを入れる前に子ども達の分を取り分けて、離乳食には薄味をつけてすりつぶしたり刻んだり、幼児食には子ども用カレールーで甘めに味付けして具も細かくした。
食事の時はどれだけこぼされても大丈夫なようにテーブルの下に敷物を敷いて、子ども達にポケット付きの前掛けを着けた。子ども達もカレーが好きでスプーンで一生懸命食べていたが、なぜか最後は手づかみで顔中カレーだらけになってごちそうさまのパターンだった。
その後また夫が当直をすることもあり、泊まりの出張もあり、たまに私の出張もあり、そういう時もやっぱり夜間カレーだった。子どもが成長するにつれ、甘口カレーをみんなで食べられるようになり、大人は適時辛味をトッピングするようにした。
勤務先が変わって夜間外来と呼ばなくなり、今はお互い月曜日が遅くなるので、日曜日に作っておく月曜カレーになった。
小学生になった子ども達に、なぜうちはカレーが多いのかと聞かれ、気づいていたんだとびっくりした。
最近は子どもが塾に行き出したので、その帰りを待って食べる遅めの夕食はやっぱり夜間カレーである。学校のこと、塾のこと、競争するようにしゃべる子ども達に相づちを打ちながらも、お腹が空いているのでスプーンは休みなく動かしている。
甘口カレーのような子ども達の無邪気な幼年時代は二度と戻らないと思えば寂しいが、子どもはぐんぐん成長し、大人は少しずつ老いていき、家庭のカレーも変わっていくのが当たり前。どのように変わっていくのか、変わっていこうか、未来を思いながら日々過ごせることが単純にうれしい。
(一部省略)
秋田県 秋田市医師会報 No.547より