平成29年(2017年)12月20日(水) / 日医ニュース
「輝ける未来を築く子どもたちのために~今、学校医ができること~」をメインテーマに
平成29年度(第48回)全国学校保健・学校医大会
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平成29年度(第48回)全国学校保健・学校医大会(日医主催、三重県医師会担当)が11月18日、「輝ける未来を築く子どもたちのために~今、学校医ができること~」をメインテーマとして、津市内で開催され、日医からは、横倉義武会長を始め、今村聡副会長、石川広己・道永麻里・釜萢敏各常任理事が出席した。
午前には、「『からだ・こころ(1)』成長曲線・生活習慣病・学校健診 他」「『からだ・こころ(2)』感染症・健康教育・運動器検診」「『からだ・こころ(3)』こころ・心臓検診」「耳鼻咽喉科」「眼科」の5つの分科会が行われ、各会場では、研究発表並びに活発な討議がなされた。
続いて行われた都道府県医師会連絡会議では、鹿児島県医師会を次期担当とすることを決定。池田琢哉鹿児島県医師会長より、平成30年10月27日(土)に鹿児島市内で大会を開催する旨の説明が行われた他、今回初めての試みとして、文部科学省から最新の学校保健行政に関する報告がなされた。
学校保健活動に対する長年の貢献を顕彰
午後からは、まず、開会式と表彰式が行われた。
開会式であいさつした横倉会長は、本年3月に委員に就任した中央教育審議会において現在検討中である「第3期教育振興基本計画」に学校保健分野で取り組むべき課題が盛り込まれることで、その重要性がより明確に位置づけられることから、学校医への支援のため、学校三師、専門医会、学校保健会、教育委員会など関係者が連携する「仕組み」の構築を繰り返し求めていることを報告。その上で、「教育の目的は心身の健康も兼ね備えた人材の育成であり、学校現場で子ども達への健康教育、健康管理に寄与する学校保健関係者には大きな役割と使命がある」と強調し、学校医活動の円滑な推進に向けた更なる協力を求めた。
表彰式では、長年にわたり学校保健活動に貢献した中部ブロックの学校医(6名)、養護教諭(7名)、学校関係栄養士(6名)の代表者に対して、横倉会長が表彰状と副賞を、青木重孝三重県医師会長が記念品を、それぞれ贈呈。受賞者を代表して岩佐敏秋氏からは、今回の受賞に対する感謝と、子ども達の身体と心を守るために更なる研鑽(けんさん)を誓う旨の謝辞が述べられた。
シンポジウム「学校における子どもたちの健康教育について」
引き続き、「学校における子どもたちの健康教育について」をテーマとしたシンポジウムが行われた。
「小児がん治療の進歩とトータルケアについて」と題して基調講演を行った平山雅浩三重大学大学院医学系研究科小児科学教授は、治療技術の進歩に伴い小児がん患者の約75%に長期生存が期待できるようになる一方、長期入院や治療の副作用、晩期合併症等の影響から学業や就労に支障が出るなど、身体的、精神的(患者及び家族)、経済的、発達・学業面への負担などの課題が山積していると指摘。今後は病気を治すだけでなく、その後の全人的なケアが求められるとして、トータルケアに向けて三重大学小児科が行っている(1)院内教室と復学支援、(2)病名告知とチーム医療、(3)晩期合併症と長期フォローアップ、(4)緩和ケアと終末期医療(在宅医療)、(5)AYA世代患者、きょうだいへの対応―等の取り組みを説明した。
また、治療や告知への精神的負担軽減にチャイルドライフスペシャリストによるサポートを行う他、患児の原籍校へのスムーズな復学に向け、病院、院内教室、復学先の学校の3者で密に情報交換を行っていることなども紹介し、「特に、不幸な転帰をたどる子どもに対するケアは重要であり、緩和・終末期ケアの更なる整備が必要になる」とした。
3人のシンポジストによる発表では、まず、菅秀国立病院機構三重病院副院長が、小児肥満は成人肥満やメタボリックシンドローム発症リスクにつながるとして、学童期あるいは小児期までさかのぼった肥満児対策が極めて重要であり、特に高度肥満児は高リスクを有するため早期の介入が求められると強調。肥満の原因には発達障害や肥満児に対する社会的な背景など多面的な因子が関与していることから、学校など公的支援を含めた包括的な支援体制の構築と共に、子どもの生活習慣病は社会全体が生み出したものであるとの認識の下、社会全体で生活習慣を改善していく努力が必要との考えを示した。
村松温美市立伊勢総合病院産婦人科部長は、性感染症や思いがけない妊娠、人工妊娠中絶など、子どもの性を巡る現状を説明。性教育はトラブルを回避するだけでなく、「生きていく上で大切な心の教育である」と述べ、教育現場での限定的な性の指導だけでなく、日頃から家庭や学校など、周囲の大人が性を話題にできる関係づくりの重要性を指摘した。
また、学校現場に対しては、性教育と構えずに機会あるごとに多くの先生が関わり、子ども達がトラブルに巻き込まれないよう、正しい選択ができる力を育成していくことを求めるとともに、性教育への父親の積極的な参加が望まれるとして、保護者に対する啓発を求めた。
長尾圭造長尾こころのクリニック院長は、三重県内の中学校(生徒数150人)で実施したメンタルヘルスに関する調査結果から、16%の子どもが何らかの精神的なサポートが必要な状態のまま学校生活を送っている現状を問題視し、その対応策として、三重県医師会が学校現場と協働で実施する子どものメンタルヘルスへの取り組みを紹介した。
また、調査では(1)学校生活、(2)個人の内面生活満足度、(3)困難度(健康症状)―等150項目からなる質問により子ども達全員の気持ちを聞き、その結果を基に医師と担任が児童・生徒への学校での配慮について繰り返し検討し対応を重ねたことで、子ども達の満足度が著しく増加した結果を示し、教育と医学をつなぐ新たな分野として、「学校メンタルヘルス」の構築を提唱した。
特別講演「伊勢の神宮と日本の精神文化」
その後行われた特別講演「伊勢の神宮と日本の精神文化」では、清水潔皇學館大学長が、伊勢神宮の式年遷宮について、20年ごとに社殿だけでなく全てのものを古式のまま新しく建て替える遷宮は「元々本々(はじめをはじめとし、もとをもととす)」の思想が根底にあり、そこには原初への甦(よみがえ)りを繰り返すことによる無窮の祈りがあると紹介。
その上で、「今、世界では宗教を原因とした紛争が続いている。異なる価値観、異なる神々との共存による新たな世界秩序が求められる中で、神道の持つ、人間の力では計り知れない自然や生命の神秘に対する畏敬の念がますます重要になってくるのではないか」との考えを示すとともに、「人間の身体が何十兆とも言われる細胞が調和して成り立っていることは素晴らしいことである。健康でこの場にいることができることに感謝せざるを得ず、同じような感動は式年遷宮からも感じることができる」と述べた。