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平成30年(2018年)6月5日(火) / 南から北から / 日医ニュース

65年ぶりの再会

 医療現場では、いろいろな患者さんに遭遇する。モンスター患者は恐ろしく、シスター(修道女)が患者さんの時は少しどぎまぎし困惑した。
 患者さんが聖職者らの場合、ベテラン医師でも診察、治療をするのが何となく難しく感じるのではないだろうか。ローブやべールなどの修道服を着てロザリオを持っている場合は特に緊張する。これは、研修医が初めての患者さんを診察する時のようなドキドキ感に近いものかも知れない。
 いつものように外来の診療をしていると、頭にベールをかぶった2人のシスターが患者さんとして入ってきた。姿勢を正し、少し緊張して問診を始めると、お一人は、何と65年前に私が通っていたカトリックの幼稚園のシスターであった。
 この幼稚園と(母体を同じくする)教会の場所は今も変わっていない。上品で知的な異文化の建築であり、ベージュ色の素朴な石造りはちょっと素敵である。教会ではクリスマスの礼拝などが行われた。私達園児は奇麗なカードとか甘いボンボンなどを頂いた記憶がある。たわいもないプレゼントではあったが、欧米の香りと雰囲気があり、スイートな思い出である。
 当時、私は3歳児。シスターは22歳で、まだ修道女にはなっておらず、私服を着ており、キリスト教に奉仕し始めた信徒の卵であった。これは半世紀以上も前の園児とシスターとの再会の話であった。
 現在、私は68歳でシスターは87歳となった。いまだに年齢の差は19歳で同じである。お互いに顔をじっと見て「うーん、シスター老けたな」「君だって」と思う。本当はあまり変わっていないのかも知れない。イメージの先生は丸顔であったが、目の前のお顔を拝見するとトンガって角張っていた。これは年齢のせいだろうと思った。目の奥をのぞき込むと、若い時のシスターが砂場で園児達と遊んでいる姿が見えたような気がした。
 わずか3、4分で65年間のギャップは無くなり、懐かしく話が弾んだ。私とシスターとの再会は、思いがけない小さな奇跡であった。
 そして右膝関節にヒアルロン酸の注射をすることになった時、シスターは「痛くないように。しっかり治療してください」と、私の顔を見て、小声ではあったが園児に話すようにハッキリした口調で言った。

(一部省略)

宮城県 仙台市医師会報 No.634より

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