今村聡副会長は5月15日、参議院厚生労働委員会に参考人として出席し、今国会に上程されている「医療法及び医師法の一部を改正する法律案」(以下、改正案)について意見陳述を行った。
本委員会での改正案に関する審議は4月19日以降、一時中断していたが、約1カ月ぶりの開催となったこの日は、今村副会長の他、松田晋哉産業医科大学医学部教授、立谷秀清相馬市長/全国市長会副会長、植山直人全国医師ユニオン代表の3名が参考人として招致された。
意見陳述で、同副会長はまず、改正案について、「数値化やエビデンスに基づく対策が打ち出されており、強制的な対策も回避され、日医と全国医学部長病院長会議による『医師の地域・診療科偏在解消の緊急提言』を踏まえた対策も盛り込まれていることから、評価できる」とした上で、改正案の対策のうち6項目に関して以下のとおり見解を述べた。
また、医師確保対策については、2008年度から緊急医師確保対策や医学部の臨時定員増が行われ、臨床研修を修了した医師が既に臨床の現場に輩出されていることや、わが国が人口減少社会に突入したことに鑑み、数の手当てから偏在対策に移行すべきであることを強調した。
(1)医師少数区域等で勤務した医師を評価する認定制度の創設に関しては、認定された医師を管理者の要件とする病院は、一定の地域医療支援病院とすべきだとした。また、「医師少数区域の設定などは一律に指標を当てはめるのではなく、地域の実情が十分に反映される仕組みとする必要がある」と述べた。
(2)都道府県における医師確保対策の実施体制整備については、本改正案に「医療勤務環境改善支援センター」と「地域医療支援センター」の連携や、医師のキャリア形成支援が盛り込まれたことを評価した上で、さまざまな検討の場が「地域医療対策協議会」に集約され、医師会等の参画の下、実効ある会議体として運営されることが必要だと指摘。その上で、医師が自身の健康を守りながら誇りをもって働いていくことを支援することが重要だとした。
(3)医師養成過程を通じた医師確保対策の充実に関しては、「今後、将来推計人口等に鑑み、医学部入学定員がマクロで縮小されることがあっても、恒久定員枠の中で、地域枠や地元枠医師が確保できる仕組みが必要である」と地域枠・地元枠の活用の重要性を訴えた他、専門研修に係る厚労大臣の要請、意見聴取規定については、謙抑的に運用されるべきだと主張した。
(4)地域での外来医療機能の偏在・不足等への対応については、患者数など医療需要のデータを基に、あるべき医師配置に自主的に収れんされるようにすべきで、地域医療構想と同様に、不足する外来機能が次第に充足される視点で進めることを要請した。
(5)都道府県知事への権限移譲に関しては、医師少数区域における医師確保計画等の立案に当たり、地域の特性や実情を反映させるため、都道府県単位の地域医療対策協議会の活性化と、同協議会において「地域医療構想調整会議」の協議の内容や結果を重要視する仕組みが不可欠だとした。
(6)臨床実習における医師法の規定の検討については、日医と全国医学部長病院長会議が主張するように、①共用試験(CBT、OSCE)を公的なものとする②診療参加型臨床実習の実質化を図り、Student Doctorとして学生が行う医行為を法的に担保する③国家試験を抜本的に見直し、国家試験への出題は診療参加型臨床実習に則したものに限定し、CBTとの差別化を明確にする④臨床研修を卒前教育・専門医研修と有機的に連動させるべく内容を見直す―ことが必要だとした。
今村副会長は最後に、「今回の法改正は医師偏在の解消に向けた第一歩であり、法案成立後の実施、運用が重要である。その効果を速やかにかつ定期的に検証した上で、更なる対策の必要性の有無を検討することが肝要だ」と強調し、日医としても地域医療を守っていく立場から積極的に関わっていくとの姿勢を示した。
4名の参考人が意見陳述した後、8名の与野党議員より各参考人に対して、医師の養成、地域医療の確保、働き方改革などに関する幅広い内容の質疑があり、同副会長は7名からの質問に回答。その中で、政府における社会保障費の抑制の議論に触れ、「地域医療が適切に提供されていくためには医療機関の経営の安定が必須である。医師の働き方改革を進めるにも財源が必要になる」として理解を求めた。
なお、改正案は5月18日の参議院本会議で、与党などの賛成多数で可決され、衆議院に送られた。