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平成30年(2018年)8月5日(日) / 日医ニュース

「東京オリンピック・パラリンピックに向けて」をテーマに

「東京オリンピック・パラリンピックに向けて」をテーマに

「東京オリンピック・パラリンピックに向けて」をテーマに

 第1回外国人医療対策会議が7月4日、都道府県医師会外国人医療対策担当理事連絡協議会も兼ねて日医会館小講堂で開催された。
 当日は、6都道県からの実情報告、二つの講演の他、協議では、①法的問題②コミュニケーション③医業経営―の3点について説明並びに質疑応答が行われた。

 担当の松本吉郎常任理事の司会で開会。冒頭のあいさつで横倉義武会長(今村聡副会長代読)は、「政府の方針によって訪日外国人数が急増し、在留外国人数も増加が見込まれる中、国籍を問わず、患者に対して適切に医療が提供される体制が重要となる。同時にそれは地域医療を守ることと両立するものでなければならない」と述べ、個々の医療機関や地域の努力に委ねるのではなく、国を挙げた体制の構築が必要との認識を示した。
 また、政府において、自民党のプロジェクトチームの提言を受け設置された、「訪日外国人に対する適切な医療等の確保に関するワーキンググループ」に松本常任理事が参画していることを紹介した上で、「今後は具体的な実行が課題であり、医療部門への十分な財源確保とともに、多様な部門間の連携が不可欠となる」と強調した。
 続いて、自見はなこ参議院議員があいさつをした後、講演等が行われた。

講演「日本の医療の国際化に向けて」

 渋谷健司東京大学大学院医学系研究科国際保健政策学教授は、(1)なぜ今、外国人医療なのか、(2)日本人患者と何が違うのか、(3)どこまでやるのか、誰がやるのか、(4)外国人医療対策は現場に何をもたらすのか―について説明。
 (1)では、現在、国内の外国人数及び割合が増えていることをデータで示した上で、「ある日、外国人が貴院を訪れる可能性は想像以上に高い」と述べ、当事者意識を求めた。
 (2)では、応招義務は外国人患者にも適用されるとする一方、医療費の設定は1点イコール10円である必要はないとの見解を示した。
 (3)では、わが国の医療機関の外国人患者受け入れ体制は不十分であり、「単純に通訳を雇ったり、スタッフが外国語を話すことができれば解決する問題ではない」と強調。地域や医療機関でそれぞれ異なる特性を考慮した対応が必要だとした。
 (4)では、「体制整備自体が医療機関や医療関係者の負担となることのないよう、社会システムの設計が重要となるが、それは同時に日本人患者における課題解決や経営力向上の契機にもなる」と総括した。

現場6都道県からの実情を報告

 現場からの報告では、医療者のみならず、行政関係者や関係業者も集う中、6都道県医師会が現場の実情を報告した。
 伊藤利道北海道医師会常任理事は、北海道における外国人医療の現状を報告。本年5月から6月にかけて北海道医師会が行った「外国人患者受入に関するアンケート調査」の結果を基に、具体的な問題事例や医療機関の意見を紹介した他、外国人関係の困難事例に対応できる行政及び院内の窓口が必要との認識を示し、併せて、問診票等のスタンダードな様式が誰でも見られる形で公開されること等が求められているとした。
 島﨑美奈子東京都医師会理事は、都医における東京オリンピック・パラリンピックに向けた外国人医療対策を報告。現在行っている外国人への具体的な医療情報提供方法や、東京都と協力して進めている事業等について説明した。
 また、今後の課題として、①地域特性を考慮した外国人医療連携体制の構築②医療通訳の質の向上③利便性のある翻訳ツールの開発―等、八つの項目を挙げた。
 齊藤典才石川県医師会理事は、電話による医療通訳の実証実験の概要や取り組みについて報告した。同県が観光に力を入れる中で外国人宿泊者等が増えていることなどから、電話医療通訳「メディフォン」を利用した実証実験を実施していることを紹介。その利点として、さまざまな課題はあるものの、県単位で同じシステムを利用することで、多くの医療機関で外国人向け電話医療通訳を活用できるようになったことや、講習会が行いやすいこと等を挙げた。
 加藤雅通愛知県医師会理事は、同県の「あいち医療通訳システム推進協議会」の活動を報告。通訳者の派遣や電話通訳が可能な「あいち医療通訳システム」の派遣までのプロセス、電話通訳の料金利用実績等、具体的な内容を紹介した。
 更に、愛知県下324病院に行った医療通訳に関するアンケート結果から、「経営母体が大きい病院等でないと通訳にかかる費用の負担は厳しい」と分析し、費用面が大きな課題との認識を示した。
 城間寛沖縄県医師会理事は、「外国人観光客患者受入実態調査」の結果について報告。外国人患者の受け入れ数が急増している中で、コミュニケーションや診療に要する時間、公的な相談窓口の未整備等の問題が発生しているとして、「医療分野以外の複雑な事例への対応も必要だが、個々の医療機関が手探りで対応するには限界がある」と述べた。
 その一方で医療費未払いの問題や医療通訳への対応に関しては、行政による対応が徐々に進んできているとの認識を示した。
 堀部和夫千葉県医師会副会長からの成田空港を有する同県についての紹介の後、成田赤十字病院の浅香朋美氏より、同院における、(1)医療通訳、(2)未収金、(3)法・倫理―等に関する具体的な問題事例を紹介。(2)では、2017年度の外国人患者の未収金は136件、1145万1829円に上るとした。
 同氏は、これらの問題事例を踏まえ、医療通訳の充実や医療コーディネーターの育成、旅行保険加入の啓発強化等の検討を求めた。

講演「国の政策概要について」

 藤本康二内閣官房健康・戦略室次長は、訪日外国人に対する適切な医療等の確保に向けた総合対策の概要等を説明。「医療を受けた時には通訳等の費用も含め、適切な形で料金を支払ってもらうことが原則」と強調した上で、(1)外国人観光客自身の適切な費用負担を前提に、予期せぬ病気やけがの際、不安を感じることなく医療等を受けられ、安全に帰国できる仕組みを構築する、(2)可能な限り多くの外国人観光客の加入を目指した旅行保険への加入勧奨に取り組む、(3)観光の振興に主体的に取り組む地域ごとの多様な関係者の連携による環境整備を支援する―こと等を進めているとした。
 引き続き行われた協議では、①法的問題②コミュニケーション③医業経営―の3点について、関係省庁や関係業者等から現状や今後の展望等について説明がなされた後、質疑応答が行われた。
 その中では、在留外国人と訪日外国人の対応の違いや、キャッシュレス化への対応、行政はどのようにすべきか等、参加者からさまざまな質問が出され、今村副会長の総括により、会議は終了となった。

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