夏休みは自由に遊べることが楽しみであった。いわゆる「ど田舎」である私の近所には1学年1~2名くらいの子どもしかいなかったので、遊ぶ相手はいつも決まっていた。私の家の隣に4つ上の「お兄ちゃん」が住んでいた。
4つ上というのは近いような遠いような年の差で、何をしても越えられないところばかりで、憧れの存在のような、勝てない悔しさのような入り混じった感情をいつも持ちながら遊んでいた。何でもそつなくこなすお兄ちゃんとは違い、私はみんなの足手まといで、いつもお兄ちゃんから「教育的指導」を受けてばかり。暑い夏が目に染みた。
お兄ちゃんとは同じ中学、高校であったが、4年の学年差で同じ時期に通うことなく時が過ぎた。私が医学部に入った頃、お兄ちゃんは外国の企業に勤めているらしいと両親から聞いた。
そこからあっという間に30年。お兄ちゃんが私を訪ねてきた。「久しぶりです」と言うその人はまさにお兄ちゃん! お兄ちゃんは大学卒業後に私達と同業界の某企業に入り、多くの重要プロジェクトを手掛け、ヘッドハントされること3回という業界での超エリートになっていた。
立場が全く変わってしまった私達だが、昔の名前で呼び合うと、あの夏休みの頃に戻り、あっという間に超エリートは「お兄ちゃん」になる。あの頃の空気が、色がよみがえる。何も変わっていないお兄ちゃんである。時を経て、お兄ちゃんに勝てるかなと想像していたが、お兄ちゃんは相変わらず越えられない存在であった。これも何も変わっていない。悔しい......。