波はどのようにしてできるのか?
波は海の表面を吹く風によってつくられる。しかし、波乗りに適したクオリティーの高い波(表面が鏡のように整い、サイズが大きく、頂点から崩れる、張りのある波)は、ある程度の期間をかけて起こる特定の気象条件が重なってでき上がる。
長い時間、海の広範囲にわたって強い風が吹き続けると、エネルギーが海面に伝播(でんぱ)する。このエネルギーが小さなさざ波を起こし、風が吹き続けると、サイズと強さが増していく。より長い時間、より強く風が吹けば吹くほど、波は大きくなっていく。
グランドスウェルと呼ばれるハイクオリティーの周期の長い波は、はるかかなたの沖合の風によってつくられ、長い距離を旅して海岸線にたどり着く。台風が日本のはるか遠いところで発生し、そのウネリが台風よりも先に太平洋沿岸に数日かけてエネルギーを蓄えながら届くと、波のサイズ、形は最高級なものになる。
そして、どんなに良い波も、どんなに小さい波も二度と同じ波はない......一期一会。そう、そんな最高の波を求めて日々旅しながらサーフィンをして暮らせたら幸せなのだが。
波乗りは、実に人生に似ていると思う。
サーフィンと言うと波に乗っている姿を連想されるだろうが、その波に乗るためには岸からパドリング(腕で漕ぐこと)して沖に出ないとならない。向かってくる波を乗り越えて出るわけだが、当然波が良い時は、大きい波が容赦なく襲ってくる。まさしく人生の荒波にもまれている状態だ。
そして、やっと波のウネリを捕らえるポイントにたどり着くと、そこには同じように乗り越えてきたサーファー達が波を待っているのだ。
波乗りには"one wave one man"(一つの波に一人)という絶対的なルールがある。人が乗っている波に途中から乗ってくる輩(やから)が時々いるのだが、これはsneak in(こっそり入り込む・前乗り)と言い、やってはいけない。このような暗黙のルールとマナーの中で、いかに良い波をつかまえるかという作戦が必要になってくる。競争社会や受験戦争を勝ち抜いていくかのように......。
波の性質上、セットと呼ばれる大きな波が来るタイミングがあり、そのウネリに合わせて乗れれば一番良い。その見極めは、はるか遠くにウネリのスジを見つけ、反応しないといけない。
さて、波に乗るには、波と同じスピードに合わせる必要がある。そのためにはパドリングが非常に重要で、「この瞬間に全てのエネルギーを使う」と言うと少し大げさだが、それくらいにスパートをかける。そして、波とシンクロできると、自然とボードが流れ出すように進む。波と一つになるこの瞬間こそ、波乗りの醍醐味(だいごみ)を感じる。
実はここに、目に見えないメンタル面の競争が起きている。それは他のサーファーも同様なアクションをしており、この波に自分が乗るという意思をアピールしてくる。
だが、ここにも優先権があり、ピーク(波の崩れ始める場所)に近いサーファーが、また早くtake off(ボードに立ち上がる)した方に優先権がある。
この勝負には、「この波は俺が乗る!」という強いオーラを出すメンタルをキープしていないと、いつのまにか他のサーファーにどんどん波を取られてしまう。
つくづく「波乗りはメンタルスポーツだなあ」と、調子が悪いと考えてしまう。
夏の間は日の出も早く、早朝の4時前から海に入れる。実は仕事の前に波乗りして、定時の診察に間に合わせるというウルトラC的な事もやっている。
そうでもしないと、なかなか上手(うま)くならないのが、他のスポーツとの大きな違いだ。
なぜなら波乗りは、ゴルフの打ちっ放しや、スキー場のリフトのように、コンディションを毎回同じようにセットできるスポーツではないからだ(海外では完成度の高い人口波プールが完成しているが)。
2020年の東京オリンピックにサーフィンが正式な種目としてエントリーされ、波乗りへの関心が高くなって欲しいと思いつつ、自然が相手のスポーツだけに、クオリティーの高い波がその時に届くように祈りたい。
Keep on Surfing!
(一部省略)
東京都 東京都医師会雑誌 第678号より