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平成30年(2018年)11月5日(月) / 日医ニュース

「HPVワクチンについて考える」をテーマに開催

「HPVワクチンについて考える」をテーマに開催

「HPVワクチンについて考える」をテーマに開催

 日本医師会・日本医学会合同公開フォーラムが10月13日、「HPVワクチンについて考える」をテーマに日医会館大講堂で開催され、有識者による8題の講演が行われた。
 今回のフォーラムを受けて、日医では、HPVワクチン接種に対する多様な意見も踏まえ、引き続き正確な情報を国民に提供していくこととしている。

 門田守人日本医学会長、釜萢敏常任理事の総合司会で開会。冒頭のあいさつで横倉義武会長は、HPVワクチンの積極的接種勧奨の差し控えが実施されて以降、①ワクチン接種後に多様な症状を訴える患者の診療支援と救済を最優先に取り組むべきとの考えの下、本ワクチンの取り扱いについて、厚生労働省と継続的に対応を協議した結果、予防接種法に基づく健康被害救済の着実な実施などの取り組みが進められている②患者やその保護者に対する支援体制の充実を目的として、現場で対応に当たる医療機関等を対象に、診療に際しての基本姿勢や対応等を示した「診療の手引き」(平成26年12月)を作成した―ことなどを説明。
 その上で横倉会長は、「現在、子宮頸がん患者数は年間約10000人、死亡者数は約3000人で年々増加傾向にあるが、医師だけでなく、国民、特に接種対象となる方々やその保護者の方々に、蓄積された科学的エビデンスを基にHPVワクチンを理解して頂くことが重要になる」とし、本フォーラムがその契機となるよう期待を寄せた。
 続いて、釜萢常任理事が「序論」として、WHO推奨予防接種と世界における公的予防接種の実施状況やワクチンを巡る課題、HPVワクチンに係るこれまでの経緯等を説明した後、シンポジウムが行われた。

HPVワクチン接種の重要性を指摘する意見が相次ぐ

 宮城悦子横浜市立大学医学部産婦人科主任教授は、日本において子宮頸がんによる死亡者数や患者が若年層で増加傾向にあることを問題視。その予防のためにも、①HPV感染と子宮頸がんの関連について、思春期から成人まで継続的な教育・啓発を行う②HPVワクチンの効果と安全性を国民に伝えていく―ことが最重要課題であるとして、理解と協力を求めた。
 シャロン・ハンリー北海道大学大学院医学研究院生殖・発達医学分野産婦人科学教室特任講師は、「HPVワクチンの接種勧奨差し控えによって、今後50年間に7000人の予防可能な子宮頸がん死亡者が見込まれる」などの自身の研究結果を報告。HPVワクチンへの国民の信頼を再び得るためには、政府からの強力なサポートやさまざまな団体の協力が不可欠とするとともに、「自然災害は防ぐことができないが、子宮頸がんは検診やワクチンで防ぐことができる」と強調した。
 祖父江友孝大阪大学大学院医学系研究科環境医学教授は、「全国疫学調査」などの結果を紹介。「接種歴のない者でも"多様な症状"を有する者が一定数存在した」とする一方、「これまでの調査はHPVワクチン接種と"多様な症状"との因果関係に言及する調査ではない。因果関係を明らかにするためには、データ収集可能な仕組みの構築が必要」との考えを示した。
 牛田享宏愛知医科大学医学部学際的痛みセンター教授は、HPVワクチン接種後に痛みなどが生じて受診した46人の患者に対する分類調査の結果について、「接種の関与が否定できない症例も接種と無関係の症例と遜色ない改善が得られる一方、改善が得られないケースも20%以上見られたこと」などを報告。慢性痛に関しては、身体治療や体づくり、教育を行うことで恐怖や不安のない状態にすることが重要とした。
 奥山伸彦JR東京総合病院前副院長は、HPVワクチン接種と接種後の"多様な症状"の医学的因果関係は肯定も否定もできないとした上で、今後求められる診療体制として、「小児科医の積極的参加」「一人の主治医による切れ目のない診療」「情報共有や教育・医療負担を含めた社会的支援」「担当医に対する相談窓口の整備」「地域医師会と小児科関連学会によるサポート体制」を挙げた。
 榎本隆之新潟大学大学院医歯学総合研究科産科婦人科学教授は、日本におけるHPVワクチンの有効性を検証した結果、「HPV感染率の減少(HPV16/18型)」への有効率は90%を超えていたことなどを報告。「HPV感染は子宮頸がんだけでなく、男女共に、さまざまな部位でのがん発生の原因になる他、前がん病変の際に行う円錐切除術は早産のリスクを伴うため、出産を控える若い女性にはワクチンによる予防が重要になる」と述べた上で、積極的勧奨差し控え世代への救済措置と共に、男子への接種、検診受診勧奨の強化を求めた。
 及川馨日本小児科医会業務執行理事・公衆衛生担当は、HPVワクチン接種により多くの人々がその恩恵を受けてきたにもかかわらず、そのリスクのみが顕著化している現状を危惧。接種後の健康被害対策として、予防接種制度とは別の補償、または支援制度の早急な確立を求めた。
 その後、フロアとの質疑応答が行われ、門田日本医学会長が、「今回のテーマは非常に重要なテーマであり、国民一人ひとりの意見が求められている。国民と共に存在するという姿勢の下、今後もこの問題に関する議論への国民の皆様の積極的な参加を期待している」と総括し、終了となった。

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