松原謙二副会長と釜萢敏常任理事は11月9日、日医会館で宮本真司厚生労働省医薬・生活衛生局長らと面談を行い、乾燥BCGワクチンを溶かす生理食塩液から微量のヒ素が検出された問題に対する厚労省の対応について、厳重な抗議を行った(写真右)。
本件は11月5日、医薬品等安全対策部会安全対策調査会において、乾燥BCGワクチンに添付された生理食塩液中に、規格値(0・1ppm)を超える濃度(最大0・26ppm)のヒ素を含む製品が見つかったとの報告がなされたことで明らかになったもので、厚労省担当局は当該事案の発生を8月9日に把握していたにもかかわらず、医療現場に対して何ら情報提供を行っていなかった。
会談の中で釜萢常任理事は、「今回のようなことはこれまでに経験したことがなく、あってはならないことである。今般の厚労省の一連の対応は、基本的認識を著しく欠いており、本事案の対応について厳重に抗議する」とした上で、「本来であれば、予防接種関係部局等との情報共有を図るとともに、日医を始め関係機関に対して、速やかに情報提供した上で対応を検討すべきものであり、出荷停止になっていながら3カ月もの間、情報提供がなされていないことはあり得ない。このような対応は、これまでの予防接種行政全体への信頼をも揺るがすものである」と指摘。
加えて、今回測定されたヒ素の量は「安全性に問題はないレベル」との評価がなされているが、本来、予防接種関係の審議会等での検討が行われるべきであるにもかかわらず、省内だけの議論で対応した点を問題視。微量であるとは言え、日本薬局方の規格を満たさない製品が全国に流通していたことになり、予防接種を実施する医師のみならず、国民に対して大きな不安・不信感を与える重大事案であるとし、再発防止に万全を期すことを求めた。
松原副会長は、「今後、規格外などが発覚した場合は、速やかに情報提供するべきであり、今回のような対応は誤っている」として遺憾の意を表明。特に、予防接種ワクチンは健康な人に実施するものであり、予防接種で健康被害があってはならず、通常の医薬品よりも更に慎重に扱っているとした上で、「最終的には現場の医師の責任が問われる。問題があれば直ちに連絡するべきである」と強く抗議した。
また、今後の対応としては、旧製品と新製品が入り交じることのないよう、安全に回収・交換が実施されることを求めるとともに、卸売業者や医療機関へのアナウンスをきちんと行うよう要望した。
これに対して宮本医薬・生活衛生局長は、「今回の対応は不十分であり、弁解する余地がない」と謝罪し、今後このような問題が起きた際の対応等の判断について、「漏れのないよう日医に相談させて頂く」と回答。原因については、はっきりしていないものの、アンプルの生理食塩液を封入する際にガラスの不純物が溶け出したのではないかとの推測の下、新たな製品については、ガラスを変更し提供する旨を報告した。
更に、16日以降に新たな製品が提供される旨の通知を8日に発出したとして、理解を求めた。
風しんに係る予防接種の早急な実施等を要請
また釜萢常任理事は11月15日には、厚労省で宇都宮啓健康局長と会談し、風しんに係る予防接種の早急な実施等を求める文書を手渡した(写真左)。
今回の文書提出は、本年7月以降、風しんの届出数が増加していることに加え、地域医師会からはMRワクチンの不足を指摘する声も聞かれ、このままでは更なる感染拡大が懸念されることから、抜本的な対策を求めるために行われたものである。
文書の中では、「今般の感染拡大は定期接種の機会がなかった、あるいは接種率の低い30代から50代の男性を中心としたものであるが、それを認識していながら、何ら有効な手立てを講じてこなかったことはワクチン行政の怠慢と言わざるを得ない」とこれまでの厚労省の対応を批判。その上で、必要かつ十分なMRワクチンの供給量を確保し、風しんに係るワクチンの接種機会のなかった全ての者に対し、早急に予防接種の実施が可能となるよう、更なる対策を講じることを求めている。
会談の中で、釜萢常任理事は、「抗体検査をして、なるべく短期間に抗体のない人に予防接種を実施すべきと考えており、その体制整備をお願いしたい」と要請。宇都宮健康局長は一定の理解を示した上で、「土曜日、日曜日に予防接種を行う体制を取って頂くことも考えられる」として、協力を求めた。
これに対して、釜萢常任理事は、「緊急事態でもあり、日医としても会員の先生方の協力を得て体制を整えたい」とするとともに、「その際には、万が一、予防接種後に体調不良、健康被害が出た場合に備え、地域でバックアップができるような診療体制を整えておくことも大事になる」とした。
また、両者は、MRワクチンが増産され、体制が整った時点で、できるだけ多くの方に予防接種を受けてもらえるよう、各種キャンペーンを行う必要があるとの考えで一致。釜萢常任理事は、毎年3月上旬に実施している「子ども予防接種週間」の経験を生かすことを求めた。