平成30年度第2回都道府県医師会長協議会が11月20日、日医会館小講堂で開催された。 今回は、テーマを「地域医療対策協議会の現状と問題点」と「地域医療構想調整会議のあり方」の2点に絞った形で行われ、日医役員と都道府県医師会長との間で活発に質疑応答が展開された。 |
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協議会は小玉弘之常任理事の司会で開会。
あいさつに立った横倉義武会長は、平成30年7月豪雨で被災した医療機関への支援に、全国の医師会及び会員等から多額の支援金が寄せられたことに謝意を表すとともに、昨年10月から1年間、世界医師会長として世界中の人々のヘルスケアの実現に向け、精力的に活動したことを報告した。
また、消費税に関して、厚生労働省より診療報酬による補てん状況の集計ミスについてお詫びがあったことに言及し、来年10月に実施される消費税率の引き上げを踏まえ、医療に係る消費税問題の解決に向け、税制全体で詰めの協議を行っていることを説明。併せて、医業承継時の相続税・贈与税制度の改善も重要だとの認識を示した。
更に、少子高齢化により人口が減少していくわが国においては、地域の有り様から将来の医療需要を推測し、適切な医療提供体制の構築を目指していく地域医療構想の実現に向け協議する「地域医療構想調整会議」と、都道府県における医師確保対策の具体的な実施について関係者間の協議・調整を行う「地域医療対策協議会」の二つの会議がきちんと機能することが、今後、その地域における医療の確保・推進に重要な意味をもつことを強調し、本協議会における忌憚(きたん)のない意見を求めた。
「地域医療対策協議会の現状と問題点について」
地域医療対策協議会の現状と問題点に関する、群馬県、埼玉県、東京都、愛知県、大阪府の各医師会からの質問には、釜萢敏常任理事が、(1)地域医療対策協議会の構成、運営、(2)臨床研修、(3)専門研修―の三分野に分けて回答した。
(1)地域医療対策協議会の構成、運営について
地域医療対策協議会(以下、地対協)の構成、運営に関しては、本年7月に施行された医療法改正時の厚労省医政局長通知において、都道府県行政に対し、これまで地対協とは別個の会議体であった「へき地保健医療対策に関する協議会」「専門医制度に関する都道府県協議会」「地域医療支援センター運営委員会」などを地対協に一本化するよう要請がなされた他、地対協のワーキンググループを設置して、既存の他の会議体の機能を存続させた場合は、国に報告することなども求められたことから、日医より厚労省に対し、強権的に監視するものではないことが分かるよう、丁寧に説明する文書を要求したことを報告。その結果、現場の混乱を防ぐ観点から、事実上、過去の通知を上書きする事務連絡が発出されたことを説明した。
その上で、地対協の運営や構成については、これまでの体制が順調である場合は、現体制をそのまま進め、構成員を再検討するかどうかについては、地域の実情を踏まえた議論が深まるかどうかの観点から判断することを要請。各都道府県医師会が、地対協のコアメンバーとして会議の方向性を決めていくことが重要であるとし、「都道府県医師会が、カウンターパートの都道府県行政と連携しながら、都道府県単位の調整会議と地対協とを仕切る仕組みとしなければならない」との認識を示した。
(2)臨床研修について
臨床研修に関しては、先般の医療法・医師法改正によって、都道府県知事が医師少数区域等における医師数の状況に配慮した上で、各都道府県内の臨床研修病院ごとの研修医の定員を定めることになった他、この改正のメリットとして、①地域医療に責任を有する都道府県が深く関与できる②地域の実態を把握している都道府県によってきめ細かい対応が可能となる③都道府県が目指す医療提供体制の構築が可能となる―ことが厚労省から示されたことを概説。
都道府県知事が臨床研修医の定員を定める際には、"あらかじめ地対協の意見を聞くこと"とされているとし、「地対協での協議は構成員の合意が必要となるが、都道府県医師会が参画しているので、改正のメリットが最大化されるよう尽力して欲しい」と要望した。
医師法改正に伴う臨床研修制度の運用の詳細については、今後、厚労省医道審議会医師分科会臨床研修部会で検討されるとした上で、研修希望者に対する募集定員の割合が、次回2020年度の臨床研修制度見直しに向け、マクロで徐々に1・1倍、2025年度には1・05倍とされることを説明。加えて、都道府県別の募集定員上限の算定方式に地理的条件等の加算を加えることや、地域枠の医師が診療義務を課せられた地域で適切に勤務できるよう、一般のマッチングとは分けて実施する方策も検討中であることにも触れ、「医師確保対策において地対協の役割は極めて重要であり、都道府県医師会の意見が十分反映されるよう、協議に臨んでもらいたい」と述べた。
(3)専門研修について
専門研修に関して、日本専門医機構は都市部への集中を回避するため、平成30年度の専攻医採用で、東京、神奈川、愛知、大阪、福岡の5都府県に、過去5年の採用実績の平均を超えないようシーリングを掛けるとしている。このシーリングの再考を求める意見に対しては、「専門医の質の向上、認定の標準化が日本専門医機構の重要な役割であるが、同時に、医師の偏在という地域医療体制が直面する課題について、その助長を可能な限り回避することも求められている。このような背景から、シーリングを外科、産婦人科、病理、臨床検査、総合診療の5領域を除く基本領域学会に要請せざるを得なかったものと考えている」との見解を述べた。
一方、日本専門医機構が継続的にシーリング検討委員会を開催する方針であることに触れ、「シーリングの議論においては、今後とも毎年同様の対応を実施することに拘泥せず、都市部へのシーリングが現実に他の地域にどのような影響を及ぼすのか、データに基づき検証することが必要」と強調。近隣地域からの流出入患者数の影響、あるいは各領域プログラムの他道府県へのローテートによる貢献等、さまざまな要素を勘案したきめ細かな対策が重要であるとするとともに、日本専門医機構の運営に引き続き協力しつつ、地域医療への影響を極力回避するよう努めていくとの姿勢を示した。
「地域医療構想調整会議のあり方について」
地域医療構想調整会議のあり方に関する、群馬県、埼玉県、新潟県、愛知県、滋賀県、大阪府、兵庫県、広島県、徳島県、長崎県、熊本県の各医師会からの質問には、中川俊男副会長が、(1)調整会議の運営、(2)定量的な基準、(3)病床機能報告と地域医療構想との関係―の三つの分野に分けて回答を行った。
(1)地域医療構想調整会議の運営について
まず、同副会長は地域医療構想調整会議(以下、調整会議)の組織体について、日医として、①調整会議の議長を地域医師会長が務める②都道府県単位の調整会議を設置する③地域医療構想アドバイザーを選任する際には当該都道府県に活動拠点を置く人物から選ぶ―ことを主張し、実現させてきたとした上で、都道府県単位の調整会議においては、都道府県医師会が事務局機能を積極的に担って欲しいと改めて要請。
また、地域医療構想アドバイザーは地域密着が重要だとして、その選定方法や要件として、「推薦を受ける都道府県の医師会と連携が取れる」「推薦を受ける都道府県に主たる活動拠点がある」ことなどを厚労省からの事務連絡にも盛り込ませたとする一方、「都道府県医師会と行政とが必要ないと判断する場合には、アドバイザーを選任する必要がないこと」を確認した上で、現在、都道府県医師会長を始め役職員などがアドバイザーに就任している場合は、その活動経費として、地域医療介護総合確保基金が活用できるとした。
調整会議の議論の活性化については、病床の転換、増床を予定している医療機関は、知事が求めた場合には、調整会議に出席する努力義務があることから、都道府県医師会長は、調整会議の議長として強く出席を求めるべきとする一方、地域の公立・公的医療機関(以下、公立・公的)の病床の縮小や、民間医療機関(以下、民間)の大きな機能転換は、その他の医療機関にも多大な影響があることから、「調整会議の議論の進捗を、幅広く民間中小医療機関に広報する仕組みを構築する」「民間中小医療機関が調整会議に参加し、意見を述べる場を設ける」こと等を厚労省に提言していくと述べた。
また、がん医療(20都道府県)、脳卒中(23都道府県)など、疾患に着目した議論も調整会議で行われていることを報告。介護保険サイドとの調整の重要性については、早急に厚労省のワーキンググループで検討を行い、ガイドラインとして示してもらうとし、その際には、地域医療介護総合確保基金が活用できるよう強く要請していくとした。
都道府県知事の裁量については、日医から厚労省に対して、民間と競合している地域では、公立・公的等しか担えない機能に特化する旨、確認を行ったことを改めて説明。公立・公的のプランがさしたる議論もないまま了承されている実態があることに関しては、「民間が担える機能でありながら、公立・公的がその機能の病床を抑えることのないよう、公立・公的のプランを民間にも周知し、民間からも意見を述べることができる場が必要である」と指摘するとともに、「いかなる場合にも都道府県知事の民間への介入は絶対に阻止していく」との考えを示した。
また、近日中に日医から、検討手順を分かりやすく示した資料を提供する他、現在、日医総研において、構想区域ごとに公立・公的と民間との競合状況を分析中であることを明らかにし、「調整会議の議論において有効活用して欲しい」とした。
更に、調整会議の議論が調わなかった場合、議論の場が都道府県医療審議会に移ることになることについては、「調整会議での議論を尽くすことが筋であり、多数決も合意とは言えない」との考えを示し、都道府県行政が調整会議の議論を打ち切ることがないよう、日医として厚労省に強く要望していくとした。
(2)定量的な基準について
10月29日付の日経新聞朝刊に掲載された「定量的な基準を満たさない病院は急性期などの報告ができなくなる」との記事は全くの誤報と改めて強調した上で、本記事を受けて、既に厚労省から都道府県宛てのメールにて「定量的な基準はあくまで調整会議の議論の活性化のためのツールの一つに過ぎない」旨が発出されていることを報告。「自主的な報告を阻害するものではない」とした。
(3)病床機能報告と地域医療構想の関係について
地域医療構想の病床の必要量はあくまで参考値であることを改めて強調した上で、「病床の必要量は病床機能報告とは異なる性質のもので単純に比較することはできず、将来的にも両者が一致するものではない」とするとともに、「地域医療構想の具現化は、地域の実状や思いが反映されるものである。需要の増加、減少を見ながら、次第に収れんさせていくものになる」との考えを示した。
また、日医は病床機能報告と診療報酬とをリンクさせることは絶対許さないとの考えの下、その主旨を「病床機能報告マニュアル(平成30年度)」に盛り込ませたこと、2013年の社会保障制度改革国民会議報告書においても、「全国一律の診療報酬では地域ごとのさまざまな実情に応じた医療提供体制の再構築に対応できない」と認識されていること等を紹介。「今後もその考えを徹底させていく」と述べた。
なお、協議会の冒頭には、「第30回日本医学会総会2019中部」の湯澤由紀夫登録委員会委員長より、来年4月に開催予定である本総会の準備状況の説明と事前参加登録への協力依頼があった。