「日本医師会 医療通訳団体等連絡協議会」が1月22日、厚生労働省を始め、多くの医療通訳関係団体の出席の下、日医会館小講堂で初めて開催され、医療通訳を巡るわが国の現状や課題等について情報共有を行った。 |
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本協議会は、近年増加する訪日外国人及び在留外国人に対して適切な医療を提供していく必要があることを踏まえ、医療通訳の果たす役割が今後更に大きくなることが予想されることから、医療通訳に関する団体に集まってもらい、おのおのが持つ情報を総合的・横断的に共有することを目的として開催されたものである。
協議会は担当の松本吉郎常任理事の司会で開会。冒頭あいさつした横倉義武会長は、医療通訳関係団体が行っている日々の診療に対する協力に感謝の意を示した上で、「皆さんと情報共有を図ることで、訪日外国人等に対する適切な医療を確保したいとの思いから、協議会を開催させてもらった。本日の成果が組織を超えた協力体制の構築に資することを願っている」と述べた。
自民党「外国人観光客に対する医療プロジェクトチーム」の事務局長を務める自見はな子参議院議員は、「医療通訳が果たす役割は大きいにもかかわらず、今まで情報を共有する場所がなかった。今回このような場を提供頂いた日医の対応に感謝する」と述べるとともに、「本日出された意見や要望を、政策提言につなげていきたい」とした。
迫井正深厚労省審議官は、「訪日外国人に対する医療の適切な確保が大きな課題になっており、その対策の熟度を高めていくことが大事になると考えている」として、引き続きの協力を求めた。
その他、安藤高夫衆議院議員からもあいさつがあった。
その後は、まず、北波孝厚労省医政局総務課長が外国人患者受け入れ体制に関する同省の取り組みとして、「医療機関の整備」「言語対応」という二つの視点から環境整備を進めていることを説明。今後については、医療通訳に関する業界団体、育成機関、試験実施団体等、多様なステークホルダーが連携し、患者と医療通訳のアクセス、質の確保に努めるとともに、適切な対価を設定し、健全な市場を確保することに期待感を示した。
中田研地域医療基盤開発推進研究事業研究班研究代表者は、医療通訳の認証に関する研究の背景と現状について報告した。
研究班の成果としてその創設を提案した「医療通訳認証制度」については、育成・認定・研修の三つの過程が揃(そろ)っていることが望ましく、現在、研究班で認定試験、実務認定、研修それぞれに関するガイドラインを策定中であるとした他、2020年1月から2月頃までには認定医療通訳者の第1号を輩出したいとした。
医療通訳関係団体が現状の課題を指摘
引き続き、医療通訳関係団体から、それぞれの活動等について報告が行われた。
小林米幸特定非営利活動法人AMDA国際医療情報センター理事長は、27年間無料で電話相談を行ってきた経験を踏まえ、「日本語をうまく話せない患者には、医療通訳が必要であることを全ての関係者に共有してもらうこと」「診療所も含め、全国どこでも医療通訳を利用できる体制を整えること」が重要だと指摘。
また、今後は、「費用負担を誰がするのか」「外国人患者からだけではなく、日本の医療機関からの相談も受け付ける体制をどう構築するか」が大きな課題になるとした。
澤田真弓一般社団法人ジェイ・アイ・ジー・エイチ理事は、電話やビデオを通じて行っている医療通訳システムの仕組みについて解説した。
「対面・遠隔・機械翻訳ツールの最適な使い分け」「希少言語の医療通訳育成方法についての検討」が課題だとするとともに、その解決策として、「通訳方法ごとの利点・弱点を整理し、シーン別の使い分け方法を議論した上で定義すること」「医療従事者の指導・連携の下、希少言語通訳者を育成すること」を挙げた。
麻田万奈日本エマージェンシーアシスタンス株式会社国際医療第一部長は、国境を越えて医療を受ける人々に対して、多言語でサービスを提供していく上で、「人材の確保と通訳の質の確保」「希少言語や需要の多様化への対応」が大きな課題になっていると指摘。「その解決のためにも、他の通訳事業者との連携が今後ますます必要になると考えている」として、協力を求めた。
吉川健一株式会社ブリックス代表取締役社長は、画像や音声で実例を紹介しながら、「対応シーンや必要とされる言語は地域・外国人特性等によりさまざまであり、日々変化するため、それまでの情報とエリア特徴を踏まえた対応策が必要」とするとともに、「人が対面で対応することが最適であるとは思うが、簡単な情報はWEBを多言語化することにより、対応は可能である」とした。
藤井ゆき子一般社団法人通訳品質評議会理事は、医療通訳に関するISOの制定の動きについて言及。「欧米を中心として、現在、医療通訳に特化した規定案を策定中であるが、その規定が日本に合うのか疑問」とする一方、「国際規格の動向を注視しつつ、国内で関係者との情報交換、状況分析をしておくことが必要なのではないか」と述べた。
森田直美一般社団法人全国医療通訳者協会代表理事は、全国に220名の会員を擁し、14言語に対応している同協会の概要を紹介。「通訳に求められるスキルは対応する患者タイプにより異なること」「新興国向けの通訳の育成がニーズに追いついていないこと」などを説明するとともに、医療通訳を介さなければ誤解やトラブルが増える恐れもあるとして、日医に対して、医療通訳制度普及のための働き掛けを求めた。
外国人医療対策委員会の設置などを報告―松本常任理事
日医からの情報提供については、松本常任理事が、①昨年7月4日に第1回外国人医療対策会議を開催した②訪日外国人旅行者並びに在留外国人に対する適切な医療提供について総合的に検討することを目的として、会内に外国人医療対策委員会を設置した―ことなどを報告。今後は、同委員会での検討結果と本協議会の参加者の意見を互いに共有することを目指すとした他、「各団体でも本協議会の今後の方向性について検討して欲しい」と述べた。
その後に行われた意見交換では、「外国人医療に対する日医のスタンスが非常に重要になる」「医療通訳団体を対象とした保険をつくるなど、万が一誤訳して問題が起きた場合の対応を考えておく必要がある」といった意見が出された他、「外国人は自宅近くにある診療所を受診したいと考えている人が多い」「医療通訳を伴うと時間が掛かるため、外国人を診ることに積極的でない医師もいる」などの現状も指摘された。
最後に総括を行った今村聡副会長は、さまざまなサービスを提供している多くの団体の参加があったことに謝意を述べた上で、「ラグビーのワールドカップ、東京オリンピック・パラリンピックなどを控え、今後ますます日本を訪れる外国人は増えると思うが、皆さんと連携して対応していくことが大事になると考えており、引き続きの協力をお願いしたい」と述べ、協議会は終了となった。