"地獄で仏様"というただならぬタイトルですが、地獄について述べるよりも、旅先で出会った仏様について述べることにします。
8月に例年のごとく、義弟の禅寺を訪れるため高知に向かいました。覚悟はしていたのですが、山陽自動車道の岡山付近で大渋滞。やむなく山陽道を降りて国道沿いに進むことにしました。
郊外まで走ったところで急に愛車がエンスト、運転中に急にハンドルがロックされ、コントロール不能となりました。
高速道路や高知道の山道でエンストすると大事故につながりかねず、今思い出してもぞっとします。
何とか車を路肩まで移動させたものの、真っ昼間の猛暑の中、気温は優に35度は超えていました。80歳を超えた祖父母も一緒で、それこそ命の危険を感じるほどの暑さでした。
途方に暮れていたその時、路肩沿いの民家の方が声を掛けて下さいました。
「JAFが来るまで応接間で休憩して下さい。留守にするから自由に家をお使い下さい」と驚くほどの親切な申し出で、お茶菓子まで頂戴しました。その隣のお宅からは、自家製のスイカの差し入れまで頂きました。
地獄で仏様にお会いしたような思いで、今でも感謝の気持ちでいっぱいです。
もし自分が同じ立場なら、見知らぬ人にこのような親切ができたかどうか? ひょっとすると見て見ぬふりをしたかも知れません。
車のエンストは猛暑の中で腹立たしい経験でしたが、心休まる爽やかな気持ちになることができました。
今まであちこち旅する機会がありましたが、旅先のトラブルには数多く遭遇し、そのたびに幸運に恵まれた感があります。
数年前にアラスカを一人旅したことがありました。アラスカは学生時代にも訪れたことがあり、自分では慣れているつもりでした。
終日のオプショナルツアーに参加しましたが、あいにくの雨天で立ち往生が続き、ツアーが終わったのは深夜12時を回っていました。
ホテルの迎えが来る予定でしたが、いくら待っても迎えが来ません。とうとう、アラスカの荒野の中でたった一人取り残されてしまいました。仕方なく西も東も分からないまま、暗闇の中をとぼとぼ歩き始めました。
熊に襲われないかと恐る恐る歩いて約1時間経った頃、遠くから車が1台こちらに走ってきました。大きく手を振って助けを求めました。
その車には別のホテルで働いている若者が数人乗っていて、帰宅途中とのことでした。事情を話して助けを求めたところ、快くホテルまで私を運んでくれました。
あのまま歩き続けていたらどうなっていたことか、今でもぞっとします。助けてくれた若者グループは、私にとってまさに地獄で出会った仏様のようなありがたい存在となりました。
2003年8月14日夕方にニューヨーク(以下、NY)で大停電が起こりました。ちょうどその時家族でNYのホテルに滞在していました。40階近くの部屋にいましたが、もちろんエアコンやエレベーターはストップしていました。40階近くを徒歩で上ったり下りたりで大変でした。
2001年1月にテロ事件が起こったこともあり、お互いに助け合う気持ちがNYでは強かったと思います。どのホテルでもロビーを開放し、飲み物や軽食・果物を宿泊客に限らず、通行人にも提供していました。忘れがたい思い出になりました。
こうした万事休すと感じた思い出の方が、かえって記憶に残るものですが、年を取ってくるとやはり旅先のハプニングやヒヤッとする思いはできるだけ避けたくなりました。
国内だと何とか乗り切れそうでも、国外旅行になるとどうしたものかと自信はなくなりつつあります。日本を再発見すべく、国内旅行に出掛けたいなと思う今日この頃です。
(一部省略)
兵庫県 姫路市医師会報 No.399より