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平成31年(2019年)3月20日(水) / 日医ニュース

フォト、エッセー両部門の入賞者を表彰

フォト、エッセー両部門の入賞者を表彰

フォト、エッセー両部門の入賞者を表彰

 第2回「生命(いのち)を見つめるフォト&エッセー」(日医・読売新聞社主催、厚生労働省後援、東京海上日動火災保険株式会社、東京海上日動あんしん生命保険株式会社協賛)の表彰式が2月16日、都内で開催された。
 本事業は長年にわたり実施してきた「『生命(いのち)を見つめる』フォトコンテスト」と「『心に残る医療体験記』コンクール」を統合、リニューアルして、平成29年度より開始したもので、今回も多くの作品が寄せられた。
 冒頭、主催者を代表してあいさつした横倉義武会長は、多数の応募があったことに謝意を示した上で、「それぞれの入賞作品を見てみると、改めて生命や絆の大切さに気づかされ、深く感動した」と述べ、受賞者への祝意を表した。
 また、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)の重要性について触れ、「ご家族や身近な方々とご自身の終末期について話し合って欲しい」と呼び掛けるとともに、最善の終末期を迎えるためにも、日頃から何でも相談できる「かかりつけ医」をもつことが重要になると指摘し、「日医として、医師にも『かかりつけ医』としての意識を高めてもらえるよう、引き続き働き掛けていく」と述べた。
 根本匠厚労大臣(代読)他の祝辞に続いて、城守国斗常任理事が、作品数(フォト部門2259点、エッセー部門1432編)や、審査の詳細等も含めた経過報告を行った。
 引き続き表彰に入り、まず、フォト部門の厚生労働大臣賞、日本医師会賞、読売新聞社賞、審査員特別賞各1名、入選4名の受賞者に、それぞれ賞状・副賞が授与された後、エッセー部門「一般の部」の厚生労働大臣賞、日本医師会賞、読売新聞社賞、審査員特別賞各1名、入選5名の受賞者、続いて、「中高生の部」並びに「小学生の部」の最優秀賞、優秀賞の受賞者に、それぞれ賞状・副賞が授与された。
 その後の審査講評では、フォト部門の審査員を代表して熊切圭介日本写真家協会長が、今回の入賞作品について「生命の大切さが素直に表現されており、生命を見つめるという大きなテーマにふさわしい作品を選ぶことができたと考えている。また、ほのぼのとした気持ちがこちら側に伝わってくる作品も多く、とても良かった」とした上で、「いずれの作品にも共通しているのは、シャッターのタイミングが優れていることであり、このタイミングには人柄を感じることができる。これらの写真を撮った方々にお会いできたことをとてもうれしく思う」と述べ、受賞者を祝福した。
 また、エッセー部門の審査員を代表して養老孟司東京大学名誉教授が、「どの作品も切実な体験が綴(つづ)られているが、文章を書くのは難しく、相手に伝わる場合とそうでない場合があり、皆さん苦労されたのではないかと思う。作品というのは人生そのものであり、本日皆さんにお会いすると作品とお顔がぴたりと合う方と意外に合わない方がいて、大変面白く感じた。受賞の皆さんにはぜひ、一人ひとりの人生が作品として完成するまで、ずっと作品を描き続けて頂きたい」と述べた。
 なお、今回の全ての入賞作品は日医ホームページ等に掲載している他、冊子としてまとめ、『日医雑誌』5月号に同梱して送付する予定としている。

エッセー部門 一般の部 日本医師会賞

160620f3.jpg「人生の終(しま)い方」
鶴田 智子(つるた ともこ)

福岡県/52歳


 「笑ってさらばと死んでいく」おどけた様に手を挙げていつも父は言っていた。痛みに人一倍弱くて若い頃指を怪我(けが)して出血し怖くて産婦人科に駆け込んだエピソードもあった。私達家族は父の最期は「痛い、苦しい」と大騒ぎするんだろうねと笑って話していた。
 父は数年前から肝細胞がんで毎年入院し、その度に「病院にいると病気になる、家に帰りたい」と私達を困らせた。父はジッとしているのが苦手で、盆栽や庭の手入れをしていると思えばスポーツ新聞片手に大好きな競馬予想をしたり、録画したドラマを見たりと好きなことをやっていた。父が家に居たいのはそんな日常生活ともう一つは母のためだった。数年前から難病を患い認知症が加速した母が気がかりだったのだ。昔から仲の良い夫婦だったが病気以後父は常に母と一緒にいた。そんな父の気持ちも酌んで在宅でという思いはあったが、現実にやれるか不安も大きくまだ漠然として実感も覚悟もなかった。
 ところが今年2月、吐血して救急搬送され医師から一日一日大切にと余命宣告があり、父の最期をどう迎えるか決断する時がきてしまった。両親は姉と3人暮らしで父の希望通り在宅でとなると、仕事をし病人2人の世話をする姉の負担は大きい。両親を一緒にいさせたい、できる限り普段通り生活するため家族全員が協力する、痛みや苦痛は極力排除してもらう、家族の気持ちは一致した。明るく前向きな姉が「どうにかなるよ」と笑っていたのが心強かった。
 担当医に相談すると緩和ケア外来を勧めて頂いた。終末期の患者のために毎日看護師さんが自宅を訪れ、必要に応じて医師の診察も自宅で受けられる。長い待ち時間の通院もなく父の体の負担も軽くなり、家で好きな様に生活しながら病院と連携しているのは父にとっても家族にとっても理想だった。
 6月初め、もって今月いっぱいと言われる程に父の身体は限界だった。けれどやりたいことをやり、自分より母の世話をして「本当にばあちゃんのこと大好きよね」と孫達に笑われた。けれど末期の痛みやかゆみ、脱力感に襲われ八つ当たりし姉と口げんかすることもあった。しかし、看護師さんや先生が父の症状、愚痴一つひとつを親身に聞いて薬を替えたり、症状が和らぐ治療を施して下さった。
 そんな時孫達の提案で父の日と誕生日のお祝いをすることになり家族全員が集まった。父の好きな料理、競馬の馬をデコレーションした特注ケーキ、父は本当にうれしそうだった。乾杯の前には感謝の言葉をスピーチし、お得意の宴会芸バナナのたたき売りまで披露し、アルバムを見せ昔話を聞かせてくれた。上機嫌でみんなに競馬予想をさせ、中継を見ながら盛り上がった。父だけでなく家族みんながしゃべって笑って楽しい時間を共有した。
 翌朝5時過ぎに携帯が鳴った。「お父さんが吐血した。今日が峠らしい」姉が泣いている。駆けつけるとまだ意識ははっきりしていた。最期は病院には行かない、延命措置はしない、痛みだけ和らげる、父と家族の希望通りの最期の治療が施されていた。家族がベッドを囲み、間に合わない孫達は電話越しに「ありがとう」「頑張ったね」「大好き」とそれぞれの思いを告げ、大好きな母が手を握りしめ、父は静かに人生の幕を閉じた。昨日の誕生会からわずか十数時間後だった。
 家で死にたいと言った父はそれをかなえることができた。それは患者と家族に寄り添う医療と出会えたからだった。父の普段通りの生活を理解し受け入れ、治す治療だけでなく、「今日も花がキレイだね」と自慢の庭を褒め、世間話しながら父の人生最後の生活に家族と共に寄り添って下さった方々のお陰だ。
 内閣府の調べで最期は自宅で迎えたい人が半数を超えるが実際は1割だという。治すことを目指し発展し続ける医療の中で緩和ケアや在宅看護の選択肢はまだ少数だ。しかし終活という言葉も耳にする現在「生き終い方」を考える人達も増えていると思う。
 有り難いことに父は最期まで父らしく生き、家族も私達らしく見送ることができた。家で好きなことをする姿も、姉と本気でけんかする姿も、母の世話を焼く姿も、笑って怒って泣いて全てが日常だった。延命や治すための医療を拒否して自宅で最期をと言っているのではなく、医療機関と連携をとり誰しも訪れる最期の日までいかに自分らしく安心して生きるかを、自分自身と家族で決めることができれば素晴らしいと思う。それを教えて下さった先生や看護師さんには心から感謝している。
 私が人生の幕を閉じる頃には、自分で決めた「人生の終い方」に寄り添う医療が発展しもっと身近になってるといいな、と話しかけると遺影の父が微笑んでいる。

フォト部門 日本医師会賞

190320l3.jpg「えさはないか?」
簱智 優太(はたち ゆうた)

大阪府/11歳


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第2回「生命(いのち)を見つめるフォト&エッセー」入賞作品一覧

フォト部門

厚生労働大臣賞
「古里の味」増田 俊次(福岡県)
日本医師会賞
「えさはないか?」簱智 優太(大阪府)
読売新聞社賞
「春が来た」大野 泰之(北海道)
審査員特別賞
「おおばあちゃんと孫」石井 綾子(北海道)
入選
「甘えん坊」小森 篤子(愛知県)
「花を食む」土屋 幸子(北海道)
「これから舞台へ出発だ」中西 敬一(静岡県)
「お母さんといっしょ」杉山ゆかり(徳島県)

エッセー部門

<一般の部>
厚生労働大臣賞
「恩返しと恩送りの決意」門脇 利枝(広島県)
日本医師会賞
「人生の終い方」鶴田 智子(福岡県)
読売新聞社賞
「奇跡の子」中江 サチ(東京都)
審査員特別賞
「希望のバトン」栗山 桂樹(長野県)
入選
「温かな赤ちゃん」宮原 玲子(鳥取県)
「身体拘束のベッドで叫んだ「便所」」水落 宣尋(群馬県)
「いのちは無条件」山之内 勉(鹿児島県)
「酒肆のおかみさんは学習支援員」山田美與子(東京都)
「アルツちゃんの母と」青木 容子(栃木県)

<中高生の部>
最優秀賞
「ボランティア」鈴木 涼太(静岡県)
優秀賞
「二人の絆が生む奇跡」古泉 修行(新潟県)
「母の生命が遺したもの」石戸 佑妃(秋田県)
「雅美へ」梅本 花音(東京都)

<小学生の部>
最優秀賞
「将棋の師しょうは命の恩人」前田 海音(北海道)
優秀賞
「オオカマキリと過ごした百三日間」薛  知明(愛知県)
「おじいさんの足」横山 紗来(兵庫県)
「ぼくのおじいちゃん」久松 煌世(神奈川県)

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