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平成31年(2019年)4月5日(金) / 日医ニュース

「明日の医療を彩るICT」をメインテーマに開催

「明日の医療を彩るICT」をメインテーマに開催横倉会長

「明日の医療を彩るICT」をメインテーマに開催横倉会長

 平成30年度日本医師会医療情報システム協議会が「明日の医療を彩るICT」をメインテーマとして、3月2、3の両日、都内で開催された。
 2日間にわたってオンライン診療やAI等、直近の話題をテーマとしたシンポジウムやセッションが行われ、864名の参加があった。

第1日

20190405a2.jpg 石川広己常任理事の開会宣言に続いて、横倉義武会長があいさつに立ち、平成28年6月に策定した「日医IT化宣言2016」に基づき、地域医療連携、多職種連携を始めとする医療等分野の情報化やICT化を、これまで以上に主導的かつ適切に推進するため、国のデータヘルス改革などの動きに積極的に関与してきたことなどを説明。
 今回の協議会については、オンライン診療、AI、サイボーグ型ロボット「HAL」などに関する多彩なプログラムを用意したと述べるとともに、「ぜひ、本日得られた知識を地域におけるさまざまな取り組みに活用して欲しい」とした。
 続いてあいさつした諸岡信裕運営委員会委員長(茨城県医師会長)は、「医療における諸問題の解決のためにICTは必要なアイテムとなっている」とした上で、同協議会が明日の医療に役立つことに期待感を示した。

 

Ⅰ.オンライン診療の現状と将来展望

20190405a3.jpg 引き続き行われた「Ⅰ.オンライン診療の現状と将来展望」では、まず、松井道宣京都府医師会長が、自身が委員長を務めた、日医の「情報通信機器を用いた診療に関する検討委員会」において、九つの論点について議論した結果、取りまとめた答申の内容を概説。オンライン診療は、あくまでも対面診療の補完的な手段であり、自らの利便性に左右されることなく、患者の安全と治療の有効性を第一に、患者の個人情報のセキュリティーの重要性を認識して行うべきものであると強調した。
 佐々木健厚生労働省医政局医事課長は、現在、平成30年3月に作成した「オンライン診療の適切な実施に関する指針」について、診療相談とオンライン受診勧奨の違いの明確化やセキュリティーの問題など、四つのポイントを中心に、その見直しに向けた検討が進められていることを報告。今後も、患者が安心してオンライン診療を受けられるよう、定期的な見直し作業を行っていくとした。
 内田直樹たろうクリニック院長は、福岡市かかりつけ医機能強化事業におけるオンライン診療について実例を示しながら紹介。「患者の生活の様子を見ることができる」「移動の時間がかからない」などのメリットがあるとする一方、「対面診療の完全な代替にならないことが本事業からも明らかになった」と述べた。
 佐藤雅明慶應大学大学院政策・メディア研究科特任准教授は、"Hospital in the home"というコンセプトの下に、高精度映像技術とテレビを活用した遠隔在宅医療システムの実証実験の内容を説明。今後の課題として、①患者に安心感を与えること②システムの運用を続けていくための費用―等を挙げた。
 質疑応答の中では、オンライン診療はあくまでも対面診療の補完であることが再確認された他、石川常任理事は、「本日の報告を聞くと、オンライン診療は対面診療を補うことができる部分があることが改めて分かった。オンライン診療を推進しようとする方達にはぜひ、その可能性を引き続き教えてもらいたい」と述べた。

 

Ⅱ.シンポジウム「医療分野のAIとIoT」

20190405a4.jpg 「Ⅱ.シンポジウム『医療分野のAIとIoT』」では、坂村健東洋大学情報連携学部長が、AIが劇的な進歩を遂げ、その技術が次々とオープン化される中で、その動きに対応できていない日本の現状を危惧。電子カルテなどを例に挙げ、医療分野も例外ではなく、AI化を進めるべきとするとともに、「AIやIoTを後方支援として応用することができれば、医師の過酷な勤務状況も改善することが可能となる」との考えを示した。
 また、AI化を進めるための具体策として、現場をよく知っている医師が主体となって、オープンな医療連携を実現することを提案し、その変革に当たって、日医が大きな役割を果たすことに期待感を示した。
 湯地晃一郎東京大学特任准教授は実例を挙げながら、診療のプロセスにおいて人工知能がいかに役立っているかを詳説。「人間の支援なしに、AIが診断できるわけではない」と指摘するとともに、AI診療も医師の責任の下に行われるべきものであるとした。
 吉川健啓東京大学特任准教授はCAD(コンピューター支援検出/診断)が普及しない理由として、「ソフトウエアの値段が高い」「導入する経済的インセンティブがない」などを挙げるとともに、その問題解決のために開発したプラットフォーム「CIRCUS」の概要等を紹介した。
 多田智裕ただともひろ胃腸科肛門科院長は、自身が開発した消化器内視鏡AIシステムの実例を紹介。「AIは医師の道具であり、決して医師の仕事を奪うものではない」と強調するとともに、今後はこの技術を使いこなせるかが大きな差になると述べた。
 その後のシンポジウムでは、4人のシンポジストとフロアの参加者との間で、AIの活用方法等について、活発な意見交換が行われた。
 当日はその他、別会場において、「事務局セッション」として、香川県、栃木県、東京都、茨城県の各医師会の取り組みが、「事例報告セッション」として、六つの地域医療連携システムの報告がそれぞれ行われた。

 

第2日

Ⅲ.日医ICT戦略セッション

20190405a5.jpg 2日目には「Ⅲ.日医ICST戦略セッション」が行われた。
 石川常任理事は、「日医における医療・介護分野のICT化の取り組み」と題し、ICT環境の激変によるビッグデータの時代にはEUのGDPR(General Data Protection Regulation:一般データ保護規制)と同様な個人情報を守る法律などが求められると説明。現在のICTの課題としては、①HPKIの次の発展②医療等IDの実現③医療・介護の専用ネットワーク構築④医療・介護情報ビッグデータの構築と利活用⑤次世代医療基盤法への対応―を挙げた。
 また、被保険者番号の個人単位化とオンライン資格確認に関して、「マイナンバーで保険証の代用ができる」と誤報されたことに対し、2月20日に記者会見を行い別記事参照、正確な報道を行うよう強く要望したことを紹介。更に、昨年施行の次世代医療基盤法に規定された「認定匿名加工医療情報作成事業者制度」へ対応するため、日医は新たな財団法人を設立し、認定事業者となる方向で準備していることを紹介した。
 長島公之常任理事は、「医師資格証(HPKIカード)」について、その必要性とメリットを説明。出欠管理システムや地域医療連携ネットワーク等で利用されている地域は普及率が高いとして、今後、申請の手続きの簡略化等により取得しやすくするなど、100%の普及を目指していきたいとの考えを示した。
 増田威日医情報システム課長は、日医が今年度サイバーセキュリティ重要インフラの一つ「医療セプター」の事務局を担うことになったことを報告。「今後は、医療セプター構成団体との連絡を密にしつつ、各医療機関向けに情報発信を行い、他の重要インフラとの連携の可能性も模索していきたい」と述べた。

 

Ⅳ.全国保健医療情報ネットワークについて

20190405a6.jpg 午後からは、「Ⅳ.全国保健医療情報ネットワークについて」が行われた。
 南川一夫厚労省医政局研究開発振興課医療技術情報推進室長は、「全国保健医療情報ネットワークの構築に向けた取り組み状況」について、2020年度からの本格稼働を目指し、必要な実証事業等が行われていることを説明。今後、検証と有識者による検討を踏まえ、プロトタイプの開発等と共に、運営主体やコスト負担の在り方、各種ガイドラインの策定などを進めていく必要があるとした。
 伊藤伸昭日医ORCA管理機構事業推進部長は、同機構が本年度、厚労省より受託した「保健医療記録共有サービスの基盤整備に関わる調査事業」に関し、その概要と今年度の進捗・課題、次年度に向けた方向性等について詳説した。
 続いて、総務省「医療等分野におけるネットワーク基盤利活用モデルに関する調査研究」における地域実証を行っている四つの連携モデルの中間報告が行われた。
 三原一郎山形県鶴岡地区医師会理事は、「医療・介護連携モデル」として、医療と介護をつなぐヘルスケア・ソーシャル・ネットワークNet4Uの課題を踏まえ、介護と医療(病院)との間で共有すべき書式を標準化した上で、介護施設に導入されている居宅介護支援システムへの入力がNet4Uへ反映される仕組みを開発したことを報告。
 またこれを利用し、居宅や施設で療養中の患者が病院へ入院、あるいは病院から地域へ退院するポイントを起点に、患者に関わる多職種、多施設が標準化した書式をNet4Uで共有し、その効果を検証するという調査研究事業の成果を課題も含めて報告した。
 松本義人高松市医師会理事は、「レセプトデータを活用した保険者・医療機関連携モデル」として、①同市保有の国保レセプト情報を患者自身の同意の下、医師に開示する仕組み②患者同意や医師確認のための手法として、マイナンバーカード(患者側アクセスキー)とHPKIカード(医師認証キー)を活用する仕組み―を構築し、機能性・有用性について検証を行った概要と課題、今後の展望を報告した。
 島貫隆夫山形県酒田地区医師会理事/日本海総合病院長は、「調剤情報を活用した薬局連携モデル」に関して、患者同意の取得を前提に、地域の保険薬局や病院の間で調剤情報共有を実現する仕組み"ちょうかいネット"の2011年から8年間の経過と今後に向けた課題、活用展望について報告した。
20190405a7.jpg 比嘉靖沖縄県医師会理事は、「EHR・PHR連携モデル」として、EHR(Electronic Health Record:医療・健康情報を電子的に管理活用することを可能とする仕組みである医療情報連携基盤)とPHR(Personal Health Record:個人健康記録)間のセキュアで効率的な接続について技術検討を行い、平成25年から運営している「おきなわ津梁ネットワーク」を紹介。同ネットワークに集積した医療情報、特定健診情報等のさまざまな情報をPHRサービスとして県民へ提供するための技術面や運用面を検討した際の留意点などを示すとともに全国普及に向けての今後の展望等を説明した。
 その後、有識者の立場から、山本隆一MEDIS―DC理事長/自治医科大学客員教授は、「全国保健医療情報ネットワークとMaster Patient Index(MPI)」と題して、大山永昭東京工業大学科学技術創成研究院社会情報流通基盤研究センター教授は、「全国保健医療情報ネットワークの実運用に向けて~情報の管理責任とセキュリティ技術~」と題して、それぞれ講演した。
 山本氏は、「全国保健医療情報ネットワークの整備に合わせ、被保険者番号と当該被保険者番号で識別される個人の医療情報の所在情報を紐(ひも)づけて管理する広域MPIの整備が検討されているが、連携が広域に及ぶ場合や、ドメインが複雑に入り組んでいる都市型の地域医療連携ネットワークの場合に確実な識別を実現するためには、全患者・全国民を一意に識別可能なMPIの整備が必要である」と指摘。その上でMPIの要件を明確に示すとともに、実装の在り方について解説した。
 大山氏は、機微情報である保健医療情報を安全に共有するに当たり、デバイスやネットワーク、更には管理サーバ等における医療等情報の管理責任の所在について、具体的な情報の流れを例示しつつ解説。セキュリティ技術はこの管理責任を果たすための一助であるとした。
 更に、全国版の保健医療情報ネットワークでは、金融機関の専用ネットワークと同じような安全性を確保するとともに、責任の所在を明らかにすることが必要になると指摘した。
 その後、石川常任理事と運営委員らを座長として、パネルディスカッションが行われた。

 

閉会式

20190405a8.jpg 閉会式では、次期担当県の久米川啓香川県医師会長が、次の協議会に向けた抱負を述べた後、運営委員会委員の塚田篤郎茨城県医師会常任理事が、2日間の協議会を総括し、閉会となった。
 当日はその他、別会場において、①サイボーグ型ロボット「HAL」②医師資格証の利用―についての報告等が行われた。
 なお、本協議会では、「医師資格証(HPKIカード)」を使った出欠管理を行い、横倉会長を始め200名の利用があった。

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