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平成31年(2019年)4月20日(土) / 日医ニュース

特別寄稿 全国の医学生が受験する「共用試験」

 医学生が臨床実習開始前と卒業前に合格しなければならない全国規模の「共用試験」について知って頂き、卒前から卒後への一貫した臨床医学教育の更なる充実のために諸賢(しょけん)のご高見(こうけん)を賜れば幸いと考えて本稿を記した。

1.共用試験とは

 共用試験とは、全国の医科大学・医学部及び歯科大学・歯学部が会員となって運営している公益社団法人医療系大学間共用試験実施評価機構(以下、共用試験機構)が行う試験のことである。本試験は全国の医学生と歯学生1万人強が受験するが、ここでは医学生を対象とした部分についてのみ述べる。
 「共用」という名前の由来は、各大学が試験問題の原案を作成し、それらを大学推薦の委員が精選して共用試験機構にプールし、必要に応じて各大学がそれらをに利し合うという考えに基づく。

2.共用試験の目的

 共用試験の目的は、わが国の80余の医学部・医科大学において、それぞれの大学の医学生の知識・技能・態度が全国的に一定水準以上あることを社会・国民に対して担保することである。と同時に、それぞれの大学が自大学の医学生の成績向上を目指すことで、優れた医療人育成に向けての切磋琢磨(せっさたくま)が期待される。

3.いつ、どのような試験が行われるか(図、表)

1)臨床実習開始の試験

 多くの医学部・医科大学では、5年生になると臨床実習が始まる。現在の臨床実習は、医学生が診療チームの一員となって実際の診療に参加する診療参加型臨床実習(クリニカル・クラークシップ)が標準となっている。
 しかし、いまだ医師ではない医学生が医行為を行うことは医師法に抵触する行いである。その違法性を阻却するために臨床実習開始前(多くは4年生の後半)に厳正な試験を行い、それに合格した医学生にのみ診療参加型臨床実習が許可されるのである。
 すなわち、「医学生に臨床実習で医行為をさせてよいと判断できる水準の知識・技能・態度が修得できているか」を評価する試験として、2006年度から下記の2種類の試験が実施されている。

①Computer Based Testing ; CBT
 医学・医療に関する知識の修得状況は、コンピューター画面に提示される320問を6時間で回答する試験で測定される。試験問題は、「医学教育モデル・コア・カリキュラム」に基づき、共用試験機構にプールされている良問の中からランダムに問題を選択したセットがつくられて出題される。
 試験問題セットは共用試験機構が送付し、実施後には当機構に返送され、採点結果は各大学及び個人に伝えられる。厳正に試験が実施されていることを確認するために、実施大学には機構から委嘱された監督者が派遣される。

②臨床実習前客観的臨床能力試験
Pre-Clinical Clerkship Objective Structured Clinical Examination ; Pre-CC OSCE

 患者への面接態度や基本的な身体診察の技能等の修得状況は、模擬患者やシミュレーターを利用したOSCEで評価する。
 Pre-CC OSCEでは、複数の試験室(ステーションという)が用意され、学生は、各試験室を一定時間ごとに移動し、そこに提示されている課題を実施、各試験室に配置されている複数の評価者が実施状況を評価する。
 例えば、初めの試験室では模擬患者に面接し病歴を明らかにする課題、次の試験室では胸部診察の課題、次室では腹部診察の課題等々が示されていて、学生は試験室を移動して課題を実施する。
 評価者は、実施大学の教員と他大学から派遣された教員が行う。
 なお、CBTとPre-CC OSCEに合格した学生には、全国医学部長病院長会議が発行する「ステューデント・ドクター証」が交付される。

2)臨床実習後(卒業時)の態度や技能の試験

 医学部卒業時の知識修得状況については、各大学が行う卒業試験や医師国家試験で評価されるが、態度や技能については各大学で行う臨床実習中の評価に委ねられているのが現状である。
 共用試験機構では、全国の医学生の卒業時の臨床能力を一定水準以上に担保することを目的として、全国規模の診療参加型臨床実習後客観的臨床能力試験(Post-Clinical Clerkship OSCE;Post-CC OSCE)を、2020年から全国の医学部・医科大学の6年生を対象に実施することを企画し、2018年度には54大学でトライアルを実施した。
 これは、医学部を卒業させて良いレベルの臨床能力、換言すれば臨床研修を開始できるレベルの臨床能力が修得できているかを全国的に同じモノサシで測定しようとする意図である。
 トライアルでは、「ある症候を有する(模擬)患者に面接し、鑑別診断を考え、的を絞った身体診察を行い、考えられる病態や、鑑別診断のための検査計画あるいは治療方針等を指導医に報告する」という、日常診療の一コマをシミュレートした課題とし、これを学生一人につき3症候すなわち3課題が出題されるが、他に各大学が独自に調整した課題が1~3課題程度課されている。
 このPost-CC OSCEの特徴は、課題が日常診療の場面であることと、評価者が実施大学や他大学の教員の他に、卒業後、研修医として受け入れることになる臨床研修病院の指導医も大学に赴いて6年生の評価に携わることである。評価者は、評価の標準化のために、事前に評価者講習会に出席することが条件となっているが、大学教員のみならず、大学外の研修病院の指導医が学生の評価に参画することは、大学の卒前臨床医学教育の状況を知ることにもなり、卒前から卒後への臨床医学教育の連続性に寄与する一策だと考えられる。

(*共用試験に関する諸情報は、http://www.cato.umin.jp/をご高覧頂けば幸甚である)

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(表) 臨床実習前のOSCEと臨床実習後のOSCEの違い

臨床実習のOSCE(Pre-CC OSCE)臨床実習のOSCE(Post-CC OSCE)
受験時期 臨床実習開始前 臨床実習終了後
課題内容 医療面接と身体各部の診察 ある症候をもつ患者への医療面接、身体診察、指導医への報告を1室内で実施
総括評価 臨床実習開始の可否 卒業及び臨床研修開始の可否
(卒業判定資料)
課題数 6課題(医療面接10分、その他5分)必須 機構課題(3課題)+大学独自課題
(1~3課題)
評価者 自大学教員+他大学教員 自大学教員+他大学教員+臨床研修病院等の指導医
動画記録 必須ではない 必須(2方向以上を推奨)

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