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令和元年(2019年)7月5日(金) / 日医ニュース

医師偏在指標や働き方改革の進め方等で活発に協議

医師偏在指標や働き方改革の進め方等で活発に協議

医師偏在指標や働き方改革の進め方等で活発に協議

 令和元年度都道府県医師会医師偏在対策・働き方改革担当理事連絡協議会が6月12日、日医会館小講堂で開催された。
 本協議会は、密接に関連する医師偏在対策と働き方改革について、併せて協議するために行われたもので、日医から医師偏在対策にかかる基本的な考え方や働き方改革を進めるに当たって今後取り組むべき事項等について説明した他、都道府県医師会から寄せられた質問や意見、要望に対して回答を行った。

 羽鳥裕常任理事の司会で開会。冒頭のあいさつで横倉義武会長(松原謙二副会長代読)は、医師の偏在対策に関し、地域の実情を反映させ、実効性のある医師確保対策につなげていく鍵は、医師会、大学等の医療関係者を中心とした「地域医療対策協議会」が握っているとして、各地域からの意見を踏まえた施策が展開されるよう、政府等に強力に働き掛けていく姿勢を示した。
 一方、働き方改革については、本年3月に取りまとめられた厚生労働省の「医師の働き方改革に関する検討会」の報告書で、2024年度から始まる医師の時間外労働時間の上限規制や関連する仕組みについての方向性が示されるとともに、4月に施行された働き方改革関連法では、労働時間の把握、面接指導、医師を除いた労働者の時間外労働時間の上限規制などが規定されたことに触れ、「働き方改革については、これまでもさまざまな形で情報共有を進めてきたが、本日改めて議論し、理解を深めて頂きたい」と期待を寄せた。
 その上で、同会長は「医師の偏在対策と働き方改革は、医師が自身の健康を守りながら誇りを持って働き、かつ、国民・患者が、どこに住んでいても最善な医療を受けることのできる社会を発展させていくために不可欠な要素であり、相互に関連するもの」との認識を示し、「特に、各地域で医療・介護に何が必要かを検証することで、ボトムアップにより国の政策に反映され、各地域にフィードバックされる仕組みづくりが肝要で、そこにこそ、真のオートノミーが発揮されるべきである」と強調した。
 次いで、あいさつした吉田学厚労省医政局長は、「医師の養成数から見るとマクロでは供給力は過去最大だが、医師が多い地域により多く、医師の少ない地域はさほど増えていないのが実態」として、偏在対策に向け、行政と医療関係者が一体となって取り組む重要性を訴えた。
 また、医師の働き方改革については、同検討会報告書を踏まえ、宿日直の基準や自己研鑽の労働基準法上の扱いなどについて早期に通知を発出するとともに、健康を確保するための追加的な措置に関する議論も深めていく意向を示した。

議事1 医師偏在対策について

「医師偏在指標」は医師の絶対的な充足、不足を示すものではない

 医師偏在対策については、今村聡副会長がまず、2008年度から暫定的に医学部の増員が行われた結果、医学部入学定員は2007年度の7625人から2017年度の9420人と、1795人の増員(医学部18校の新設に相当)となっていることを概説。更に、少子化による人口減少により、人口当たりの医師数はOECDの加重平均を超え、増え続けることから、日医としては、医師の絶対数の不足に対する手当ては既に果たされ、医師不足の本質である医師の地域・診療科偏在の解消こそ喫緊の課題であるとの立場に立ち、諸種の提言を行うとともに、厚労省の「医療従事者の需給に関する検討会 医師需給分科会」における議論に臨んできたとした。
 その上で、同分科会において公表された「医師偏在指標」を取り上げ、人口動態、医師の性・年齢構成、人口の流出入、2024年に医師に適用される働き方改革に基づく労働時間の制限等を加味した本推計結果は、機械的に算出した"相対的な偏在状況"であり、医師の絶対的な充足、不足状況を示すものではないことを強調。「十分な情報提供がないままにこの医師偏在指標が公表され、各地域で混乱が生じたことは遺憾である」とした。
 また、日医は一貫して強制的手法による開業規制に反対し、医師の自主的判断を求めてきたことに言及。その結果、同分科会では、地域で重複した診療科の開設などを防ぐため、外来医療機能に関する情報の可視化も打ち出されたとした。
 同副会長は、「医師の需給推計や医師偏在指標等は、あくまでも現在置かれた状況を基に検討されたものであり、人口動態の変化、国民・患者の意識変化、ワーク・ライフバランス、ICTの進化と普及など、さまざまな要因が医療現場に影響を与える」と述べ、医師偏在是正の目標年とされている2036年の医師確保計画上の必要医師数についても、時代の状況を鑑みて適宜検討を行う必要があるとした。
 続いて、釜萢敏常任理事が2018年の医療法・医師法改正によって、医療計画に「医師確保計画」や「外来医療機能」を位置づけ、3年(初回は4年)ごとにPDCAを実施することや、医師確保計画に、①都道府県内における医師の確保方針②医師の偏在の度合いに応じた医師確保の目標③目標の達成に向けた施策内容―を盛り込むことが定められたことを説明。
 医師数の検討に当たっては、どの医療機関に何科の医師が何名足りないのかという具体的イメージを持ちつつ、各都道府県の実情に応じて考えることが重要であるとした上で、「医師確保計画は、あくまでも都道府県の施策としての方針であり、個々の医師・医療機関を拘束するものではない」と強調した。
 また、二次医療圏単位で「外来医師偏在指標」を設定し、地域ごとのデータを可視化することで外来医療機能の不足・偏在等へ対応していくとし、外来医師多数区域における新規開業希望者への対応は、地域医療構想調整会議など地域ごとの協議の場で検討していくことを説明した。

議事2 働き方改革について

「地域医療の継続性」と「医師の健康への配慮」の両立を図る観点で進める

 働き方改革に関しては、まず、松本吉郎常任理事が働き方改革関連法の主な見直しの内容(①労働時間に関する制度の見直し②1人1年当たり5日間の年次有給休暇の取得義務づけ③月60時間を超える残業は割増賃金率を引き上げ④産業医・産業保健機能の強化⑤勤務間インターバル制度の導入促進)の内容等を説明。「法に対する理解を深めてもらうためにも、都道府県医師会社会保険労務士会との共催により、医療機関向けの労働法令研修などをぜひ実施して欲しい」と述べるとともに、医療法にも明記されている地域医療支援センターと医療環境改善支援センターの連携促進に向けた協力を求めた。
 また、自身も参加している厚労省の研究班では「応招義務」について、「医師法に基づき医師が国に対して負担する公法上の義務であるが、私法上の義務ではなく、医師が患者に対して直接、民事上負担する義務ではないことが確認されている」とした他、診療しないことが正当化される事例についても紹介した。
 その上で、松本常任理事は、引き続き「地域医療の継続性」と「医師の健康への配慮」の両立を図るという観点の下に、医師の働き方改革を進めていく考えを示した。
 城守国斗常任理事は、「医師の働き方改革に関する検討会」が取りまとめた報告書の内容について概説した。
 報告書は、「わが国の医療は、医師の自己犠牲的な長時間労働により支えられており、危機的な状況にある」との基本認識の下、医師の診療業務の特殊性という観点から取りまとめられたものであるとした上で、地域医療確保暫定特例水準の適用フローなどについて解説。まずは、自院の勤怠時間を正確に把握することが必要だと述べた。
 また、報告書をまとめるに当たっては、「宿日直」や「自己研鑽」の扱いが論点となったとするとともに、「宿日直」に関しては6月にも厚労省より通知が出される予定であるとした。
 その上で、同常任理事は今後について、"医師の働き方改革""地域医療構想""医師需給・医師偏在"は三位一体で考えていく必要があるとして、改革推進に向けた理解と協力を求めた。

総合討論

地域医療対策協議会への積極的な参加を

 その後に行われた総合討論では、都道府県医師会から事前に寄せられていた質問・意見・要望に対して、「医師偏在対策関係」(医師偏在指標、地域枠、診療科偏在等)には釜萢常任理事が、「働き方改革関係」(医療勤務環境改善支援センター、救急医療等)には松本常任理事が、それぞれ回答を行った。
 その中で、釜萢常任理事は医師偏在指標について、「先生方へのご提示が唐突であった」と指摘。「指標が現場感覚となぜずれているのかを分析し、地域の実情に沿ったものにしていきたい」とした。
 今村副会長は、医師の働き方改革には罰則が設けられていることから、早めに医師確保計画を策定して欲しいと要望した他、「ぜひ、各地域で行政と話をしてもらい、問題が解決できなかった場合には日医に教えてもらいたい」と述べた。
 中川俊男副会長は、「今日の先生方のお話で、全国一律の指標では役に立たないということが明確になったのではないか」とした他、「地域医療構想が民間の医療機関を含めて、再編統合を進めようとするものではないのか」との疑念が出されたことに対して、これを明確に否定。「民間と競合している公立・公的医療機関をまずは再編統合するためのものだ」として、理解を求めた。
 働き方改革に関しては、人材が不足している地方では医療崩壊になりかねないとして、きめ細やかな対応を求める要望や医療のかかり方について、日医が主体となって国民に理解を求めていくべきとの意見が出された。
 これに対して、今村副会長は、「国民への理解を求めることは必要なことであるが、医師会と国だけではなく、保険者も含め、皆が一緒になって取り組まなければ医師の働き方改革を進めることはできない」との考えを示した。
 最後に、総括を行った中川副会長は、「働き方改革という面から、患者の受療行動についての啓発の必要性の指摘があったが、地域医療構想という面からは今後、患者数の減少が顕著になってくる。厚労省は三位一体で改革を進めると言っているが、医師の偏在対策を含めて慎重に議論を進め、将来において医師過剰、医療機関が余ったというような事態にならないよう、一緒に考えてもらいたい」と述べるとともに、地域医療対策協議会への積極的な参加を呼び掛けて、協議会は終了となった。

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