令和元年度(第50回)全国学校保健・学校医大会(日医主催、埼玉県医師会担当)が11月23日、「多様化する社会と子どもの成長~これからの学校医の役割~」をメインテーマとして、さいたま市内で開催された。
午前には、「からだ・こころ(1)」「からだ・こころ(2)」「からだ・こころ(3)」「耳鼻咽喉科」「眼科」の五つの分科会が行われ、各会場では、研究発表並びに活発な討議がなされた。
続いて行われた都道府県医師会連絡会議では、富山県医師会を次期担当とすることを決定。道永麻里常任理事からは、「『学校保健を通して児童生徒等の健康と安全を守る』日本医師会宣言」(全文は別掲。以下、日医宣言)が11月19日開催の令和元年度第8回理事会で承認・制定されたことが紹介され、今後は関係省庁などに日医宣言の内容の周知を図り、学校医に対する理解を深めてもらう基礎資料とする考えが示された。
その他、文部科学省からは、学校における「労働安全衛生管理体制の整備」「受動喫煙対策の強化」など最近の学校保健行政に関する報告が行われた。
学校保健活動に対する長年の貢献を顕彰
午後からは、まず、開会式と表彰式が行われた。
開会式であいさつした横倉義武会長は、50回目の節目となる開催に当たって、これまでの都道府県医師会の協力に感謝の意を示した上で、「社会情勢が多様化する中で、子ども達が健やかに成長していくためにも、専門的な立場から先生方が議論することは大変意義深い」と述べ、本大会の意義を強調。参加者に対しては、「本大会を通じて、学校保健並びに学校安全活動の重要性を再認識して欲しい」と呼び掛けた。
表彰式では、長年にわたり学校保健活動に貢献した東京・関東甲信越ブロックの学校医、養護教諭、学校関係栄養士(各10名)に対して、横倉会長が表彰状と副賞を、金井忠男埼玉県医会長が記念品をそれぞれ贈呈。受賞者を代表して湯澤俊氏からは、今回の受賞に対する感謝と今後も子ども達に寄り添い、学校保健事業の発展に寄与していく決意が示された。
引き続き、基調講演を行った藤本保日医学校保健委員会委員長/大分県医常任理事は、前回の本大会における池田琢哉鹿児島県医会長からの提案を基に、同委員会で議論を行い、「日医宣言」を中間答申として取りまとめるまでの経緯を報告。「日医宣言」が今後、学校保健関係者の連携を推進していくための一助となることに期待感を示した。
医療的ケア児への関与を求める―松本常任理事
引き続き行われたシンポジウムでは、まず、松本吉郎常任理事が医療的ケア児とその家族が置かれた環境について、依然として厳しい状況にあると指摘。「その改善のためにも、地域医師会に対して、都道府県や市町村・圏域ごとに設置されている『医療的ケア児支援のための協議の場』に積極的に参画し、保健・福祉・保育・教育関係部署、他団体との連携を進めて欲しい」と述べるとともに、学校医に対しても、在宅で療養する子ども達への関与を求めた。
丸木雄一埼玉県医常任理事は、埼玉国際頭痛センターが昨年4月、さいたま市内の小中学校を対象として頭痛の現状に関する調査を実施した結果、多くの子ども達が頭痛に悩まされていることが明らかになったことを報告。「小学生であったとしても、専門医療機関への受診を積極的に勧奨して欲しい」とするとともに、学校医や養護教諭、保護者などに対する頭痛教育の必要性にも言及した。
柴田輝明埼玉県医学校医会常任理事は、将来のQOLの低下にもつながる子どものロコモティブシンドロームが増加している現状を憂慮。その解決策として、学校運動器検診の実施を推奨した上で、「脳とこころと体の発達状態を把握するためにも運動器検診は有用であり、今後は整形外科医が関わりをもつことが求められる」とした。
平岩幹男国立成育医療研究センター理事は、発達障害に対する日本の現状について、①経過観察が多く、発達予後の改善が乏しいことが多い②年齢とともに社会資源が減少してしまう③発達性読み書き障害や発達性協調運動障害など、診断すらされず、対応もされていないことが多い―などの問題点を指摘。
発達障害に対応するためには、「まず理解すること、そして現在の問題点だけではなく、将来を含めた生活上の困難に具体的に目標を設定し、適切な介入をすることが必要になる」と述べた。
最後に行われた特別講演では、鹿島高光渋沢栄一記念財団・竜門社深谷支部幹事が、渋沢栄一氏が携わった社会・公共事業を紹介するとともに、氏が生涯を通じて大切にした「立志の精神」と「忠恕(ちゅうじょ)の心」の意義を強調した。
「学校保健を通して児童生徒等の健康と安全を守る」
日本医師会宣言 ―日本医師会は、学校医をはじめ学校保健関係者と共に取り組みます― 急速に進行する少子高齢化や高度情報化など社会環境の変化により児童生徒等を取り巻く環境も大きく変貌し、学校保健の重要性がますます高まっています。 平成30年12月に成立した成育基本法の理念を踏まえ、次世代を担う児童生徒等の心身の健やかな成長を目的に「『学校保健を通して児童生徒等の健康と安全を守る』日本医師会宣言」を行います。 日本医師会は、学校保健を通して児童生徒等の健康と安全を守るために以下の施策に取り組みます。 Ⅰ.健康教育の推進に努めます。 Ⅱ.保健管理※1の適切な実施に取り組みます。 Ⅲ.新たな健康課題※2に取り組みます。 Ⅳ.障がいがあっても安心して学べる環境の整備を目指します。 Ⅴ.児童生徒等の健康と安全を守るため政府等に働きかけます。 Ⅵ.学校医を中心に学校保健関係者の取り組みを支援します。 令和元年11月
※1 保健管理: 保健管理は保健教育とともに学校保健の柱である。具体的には、健康診断、健康相談、疾病の予防と管理、学校環境衛生の維持・改善等が含まれる。 ※2 新たな健康課題: 従来からの健康課題に加えて、肥満・痩身、生活習慣の乱れ、アレルギー疾患の増加、性に関する問題、ネット・スマホ等のメディア接触、メンタルヘルスの問題、いじめ、不登校等の多様な課題のこと。 令和元年11月19日 日本医師会第8回理事会にて承認
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