ある日、娘から相談を受けました。亀を飼いたいというのです。
娘が学校で昼休みに鬼ごっこをしていて、鬼から隠れようと礼拝堂の裏に駆け込んでいったところ、1匹の亀がいたそうです。クラスみんなで教室で亀を飼うことになり、日光浴、散歩をさせたり、皮膚病にならないよう毎日甲羅などを洗ってやっていたそうです。
夏休みまではよかったのですが、夏休み中は飼育ができなくなります。クラスの中でその亀を飼ってくれる家を探すことになりました。娘は自分が初めに見つけたことから愛着もあり、ミライと名前をつけて可愛がっていました。そこで今回の相談となったのです。
ただ私は爬虫類は苦手なので、初めは絶対に反対でしたが、娘が今までになく一生懸命インターネットや本で亀の飼い方を調べているのを見ていると可哀想になり、ホームルームで引き取る人を決めるという朝、「エントリーはしたら」と言いました。娘が初めに見つけたので、可能性は高いかも知れないと思ってはいましたが、予想どおりうちに来ることになりました。
来ると決まったからには、きっちり飼ってあげようと準備が始まりました。水槽でなくてもよいことを知り、毎日洗うにはよいので衣装ケースを買うことにしました。エサなども用意し、亀が来る当日となりました。
来た亀はA4サイズで、初めは正直可愛いとは思えませんでした。娘は「可愛いねー」と言いながら毎日丁寧に歯ブラシで甲羅の表と、亀をひっくり返して裏側も洗っています。
その数日後、娘が宿泊学習で3~4日家を空けることになったので、自分が洗うことになりました。こちらもおっかなびっくり、向こうもおっかなびっくりで甲羅を洗っていたところ、ちょっとした隙に急に亀が逃げ出しました。驚いたのは亀の足の速いことです。ウサギと亀のイメージでゆっくり歩くのかと思っていたのですが、そんなことはありません、トカゲのように足が速いのには驚きました。結構緊張して怖がっていることも分かり、毎日洗っていると少しずつ愛着が湧いてきます。亀に詳しいクラスメイトの話ではミライはオスとのことでした。
結局ベランダで飼うことにしました。衣装ケースの水槽と、ベランダを自由に行き来できるよう、高さの低い衣装ケースを買い足し、板で外に出るための木の坂を作り、夏に行った海で拾ってきた石で階段を作りました。知らぬ間に水槽からいなくなり、知らぬ間に水槽の中にいるので自分で出入りできているようでした。
そんなある日、夜に水槽を見てもミライがいないので、娘にどこにいるのか聞いてみました。しばらく見ていないということでした。夏の暑い時期だったので、どこかで干乾びていないか心配になり二人で探したら、何のことはない椅子の下にじっとしていました。しかし、ミライの周りにべランダで見たことのない白い丸い石が転がっていました。こんな石あったかなと記憶をたどりましたが思い出せません。よくよく見てそれが何であるか分かりました。石ではなく卵です!
海での産卵のイメージしかなかったので、家での産卵という驚きと、そもそもオスと思っていたので、メスであった驚きとで、どうしていいか分からず、娘と二人でしばらく呆然としていました。しかし、ミライがじっと動かないのが気になり始めました。卵管に卵が詰まってしまう話なども聞いていたので、不安になり二人で本を読んだりネットで調べたりして対処を探りましたが、結局どうしてよいかは分からずじまいでした。
朝起きたらミライが水槽にいました。一晩はずっと同じ場所にいたようですが、朝、妻が水槽に戻したそうです。夜にはエサも食べるようになり、数日したら知らぬ間にまた散歩もするようになり、いつもの平穏が戻ってきました。
最近は慣れてきたのか、よく水槽とベランダを行き来するようになり、水槽を出たり入ったりするところを直接見れるようになりました。歩く姿は結構可愛く、日向ぼっこをしたり、自由に散歩するのを見ているとほほ笑ましいです。しかし、そこで窓を開けて見ようとすると、またザザザッと逃げてしまいますが。
(一部省略)
神奈川県 横浜市医師会報 No.927