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令和2年(2020年)10月20日(火) / 南から北から / 日医ニュース

ヘボ碁に乾杯!

 暮らしの中にヘボ碁が宿って、時々頭をもたげる。
 最近、10歳ぐらいの可愛い女の子、仲邑菫(なかむらすみれ)プロ初段がマスコミで評判である。男性のプロ5段の棋士も敗退しているようだ。
 この才女のニュースで、50年ほど昔を思い出した。
 その頃、東京市ヶ谷の日本棋院本院(囲碁の総本山)にぶらりと立ち寄ったことがある。棋院の玄関には銭湯でよく見掛けた番台にオヤジさんが陣取って、奥の大広間は大勢の囲碁好きでにぎやかだった。
 「お客さん、ワルイけど! 今、大人の相手がいない。そこの子どもで良かったら......」
 「ああ、いいですよ」と玄関脇の畳部屋に。そこに7、8歳ぐらいの男の子がキチンと正座して私の囲碁相手となった。
 当時の私の碁力はアマ2、3段ぐらいだったと思う(今でもその程度か?)。ところが、「おじさん! 5子(ハンディ)置いて......」と男の子がのたまう。「何と? 私が子どもにハンディをもらうのか?」初対局なのに何で相手の実力が分かるのか内心、不思議な気持ちで対局を始めた。やがて、分かった。
 「これは奇才だ! とてもかなわん......」
 難解な手順を私が長考するたびに、「ごめんネ」。子どもは私の前から消えて、あちらで4、5名の仲間と囲碁を楽しんでいる。あちらから黄色い声が......。「おじさん打ったね?」「まだね......」。やっと「打ったぞ」と声を掛けると、ヒョイと走ってきて「ハイ」と碁盤に一石を置いては、あちらに走っていく。結局、3戦全敗。
 「囲碁なんて白髪になってやればよい」
 囲碁と疎遠の十数年。あの空白さえ無かったらと後悔するが、もう遅い。
 また一つ、ヘボ碁に″不思議な世界"があることを教わった。

宮崎県 日州医事 第851号より

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