令和2年度都道府県医師会小児在宅ケア担当理事連絡協議会が10月29日、テレビ会議システムを利用して開催され、医療的ケア児への支援について、地域や医療機関、行政の取り組みが報告された。
松本吉郎常任理事の司会で開会。冒頭のあいさつで中川俊男会長は、「小児の在宅医療は、成人と違って医療的資源も限られ、福祉制度の面でも十分な支援が得られていない。平時の在宅医療体制の整備を図るとともに、近年の地震や豪雨災害を踏まえて電源や避難先の確保についても、行政と協力しながら対応していく必要がある」と強調。本協議会での報告を参考に、地域の実情に応じた取り組みが更に進むよう期待を寄せた。
議事ではまず、地域での取り組みとして松戸市の事例について、在宅医と行政それぞれの立場からの報告がなされた。
前田浩利医療法人財団はるたか会理事長は、全国的に医療依存度の高い子どもが増える中、医療と福祉の連携不足が、小児在宅医療が進まない要因であると指摘。一方、同市においては、医療的ケア児全員に相談支援専門員が付き、病院や学校とも連携ができているとし、「病院や施設が抱え込まず、支援が必要な子どもが地域の人達にも見え、そのことで社会資源が育っている」と解説した。
続いて清水享千葉県松戸市福祉長寿部審議監が、市内の医療的ケア児を支援するため、保護者への「実態調査」「ニーズ調査」や「事業所調査」で実態を把握した上で、課題分析を行い、施策に生かしていることを説明。医療的ケア児を受け入れている事業所への医師による巡回指導や、喀痰吸引研修などでスキルアップを図るとともに、保育園や小中学校での受け入れを支援するモデル事業を実施しているとした。
田村正徳埼玉医科大学総合医療センター小児科客員教授/名誉教授は、研究班による実態調査を基に、現在の障害福祉サービス等報酬では"動ける医療的ケア児"が、医療型短期入所も通所事業所での日中一時預かりサービスも十分に受けることができない点を指摘。研究班で取りまとめた医療的ケアの重さを考慮した新たなスコアについて概説し、同スコアを用いた適正な報酬評価を求めた。
中村知夫国立成育医療研究センター総合診療部在宅診療科部長は、医療的ケア児に対する災害対策として、①最低7日分の物資の備蓄②電源の確保③移動手段の確立―を挙げ、地域のつながりの中で日頃からシミュレーションしておく大切さを強調。電源確保については、国立成育医療研究センターホームページに災害対策マニュアルが掲載されていることを紹介した。また、福祉避難所は発災直後からの利用はできず、新型コロナウイルス感染症の心配もあることから、自宅待機も含めた多様な考え方で備えるべきだとした。
松本常任理事は、今年7月に行われた令和3年度障害福祉サービス等報酬改定関係団体ヒアリングでの、日本医師会の要望について概説。その中では、(1)医療的ケアの依存度を考慮した新スコアを採用し、動ける医療的ケア児の障害児通所支援を促進する、(2)医療型短期入所の対象者に医療的ケア児を明確に位置付け、基本報酬を引き上げる―ことなどを求めたことを報告した。
河村のり子厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部障害福祉課障害児・発達障害者支援室長は、在宅の医療的ケア児が2万人を超え、特に0~4歳の低年齢での増加が著しいことを説明。現在行われている報酬改定の議論では、障害児通所支援の報酬体系における「重症心身障害児」と「それ以外」に加えて「医療的ケア児」の区分を創設し、判定基準のスコアの点数に応じて段階的な評価を行う方針であるとした。
協議では、事前に都道府県医師会から寄せられた質問について松本常任理事が回答し、小児科から成人科への移行(トランジション)のあり方などを巡り意見交換を行った。
最後に猪口雄二副会長が、「医師会には、小児の在宅医療提供体制を整備する役割が求められており、在宅医の先生方に積極的に小児を診てもらうためにも緊急時のバックベッドの確保が重要である」と総括し、地域で取り組みを進める中で生じた問題については、日本医師会への情報提供を呼び掛けた。