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令和2年(2020年)12月20日(日) / 日医ニュース

新型コロナウイルス感染症による地域医療における勤務医の働き方改革への影響

勤務医のページ

(1)新型コロナ感染症発症前の医療界

 医師の働き方改革の検討は、医師の使命感と自己犠牲的な長時間労働により支えられたわが国の医療が危機的な状況にあるという認識の下、医師の健康確保と地域医療の確保を基本として、2017年より始まった。
 関東甲信越ブロックより勤務医枠としてご推薦を頂き、2年間、日本医師会理事として勤務医委員会、働き方改革に参画する機会を得て、栃木県内の医療機関には最新の動向をお伝えすることができた。
 各医療機関で多少の温度差はあるが、時間外労働と自己研鑽の業務の仕分け、時間外労働の申請方法や産業医との面談などの、医師の勤務に関する運用ルールの作成を早急に取り組むことができたと思う。
 現在、地域医療は医育機関(大学病院や大学附属病院)や大病院からの派遣で外来業務、当直体制が成り立っており、その後の追加的健康確保措置や医師の副業・兼業における勤務時間の計算方法によっては、地域医療確保において厳しい状況となることは必至である。主に収入確保、自身のスキルアップが目的である派遣医師は、地域医療の確保にとって不可欠であり、通算の勤務時間は医師自身の申告となっているが、今後も予断を許さない状況である。
 2018年度より開始した新専門医制度では、基本領域の専門医取得後に、更に専門性の高いサブスペシャルティ取得を目指した中堅医師が、家庭・生活事情、大学病院・医局への不満、勤務負荷などを理由に転職するケースが増加傾向となり、問題となっている。
 社会問題として医師不足が取り上げられているように、医師の転職は現在、売り手市場(求人数が転職希望者数を上回った状態)で、この傾向はしばらく続くと考えられる。

(2)新型コロナ感染症による医療界への影響(病院経営上の影響、医師の働き方への影響)

 新型コロナ感染症は、1月中旬頃、日本での初感染が認められ、2月の横浜沖でのクルーズ船内の感染からその存在が広く認識されるようになった。3月下旬に、小池百合子都知事が不要不急の外出自粛を都民に要請したことで、医師派遣に関して問題となり、4月7日の緊急事態宣言の発令により、派遣元から地域への医師派遣が困難な状況となった。
 栃木県病院協会による、新型コロナ感染症拡大による第1四半期(2020年4~6月)の病院経営状況のアンケートの集計結果を提示する。
 外来患者統計では、前年度比で10~20%の減少。特に初診患者数や紹介患者件数の減少は顕著であり、5月末に緊急事態宣言が解除された後、6月からは徐々に回復傾向にあるが、いまだに以前の水準には戻っていない。
 入院の場合、新型コロナ患者を受け入れた病院では、新型コロナ患者の空床確保や院内感染防止のため、予定手術の延期や入院を抑制することにより患者数が減少した。
 また、県内での救急受け入れ件数も約20%減少したこともあり、時間外労働(80時間以上並びに100時間以上)の医師の人数も減少となった。しかし、救急受け入れ件数自体が減少している一方で、緊急手術件数はほぼ横ばいであり、比較的軽症な患者が新型コロナ感染リスクと自身の症状を比較判断した結果、受診を控えた結果と思われる(下図)。
 現在、新型コロナ感染症は、第3波のまっただ中であり、いまだ収束の気配は見えていない。感染拡大している地域から地方への感染症の持ち込みを警戒して、新型コロナ感染症を取り扱う病院からの非常勤バイト派遣を嫌う傾向が見られ、薄給の大学院生を筆頭とした派遣医師にとって、生活の基盤が揺らぐ大打撃となっている。派遣医師は徐々に復活しているが、費用対効果を考えると、病院経営上は厳しい状況である。
 院内の勤務医も、患者数の減少から、時間外労働も減少傾向にある。また学会のリモート、各種行事の自粛・中止などで、気分転換を求めることができず、マスク着用のためだけではないが、やや口数も少なく疲弊して活気が見受けられない。
 医師ばかりではなく、医療従事者、病院全体の雰囲気が、現状を我慢して耐え忍んでいるように感じられる。

(3)コロナ禍での医師の働き方

 新型コロナウイルスに感染した場合の受療行動は、まず自己判断やオンライン相談によって決められるが、判断が困難な場合には医療機関受診となると考えられ、オンライン診療やオンラインでの健康相談などのバイト案件なども出現してくる可能性はあるだろう。患者の減少は新型コロナに関係なく、人口減少によって20年後に必ず起こることであり、地域差はあるものの、どの地域も直面する課題で、地域内の病院間で役割分担をする必要がある。
 医師過剰時代が到来するとも言われてはいるが、相変わらず大都市集中であり、医師の偏在や地域における医師不足はすぐには解消されないと思われる。
 微力ではあるが、今後は勤務医にとっても専門性を高めつつ、余裕を持った診療や研修医への熱を持った教育などもできる働き方改革を目指していきたい。

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