令和7年(2025年)12月20日(土) / 日医ニュース
令和7年度全国医師会勤務医部会連絡協議会「勤務医が生き生きと活躍できる場を作る~混沌を成長の機会に~」をメインテーマに開催
岩手県医師会常任理事 宮田 剛
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「令和7年度全国医師会勤務医部会連絡協議会」が11月8日、盛岡市で開催された。
本協議会は日本医師会が主催し、岩手県医師会が担当するもので、当日は全国から勤務医を中心に356名の参加を得た。今回は「勤務医が生き生きと活躍できる場を作る~混沌を成長の機会に~」をメインテーマに、人口減少と医師偏在がもたらす現場の課題と解決策について、活発な議論が行われた。
開会式では、祖父江憲治岩手県医師会副会長による開会宣言の後、松本吉郎会長、本間博岩手県医師会長があいさつを行い、来賓として釜萢敏参議院議員、達増拓也岩手県知事(代読:八重樫幸治岩手県副知事)、内舘茂盛岡市長より祝辞が述べられた。いずれのあいさつにおいても、医療現場の厳しい状況、勤務医支援の重要性、地域医療が抱える課題について言及された。
午前の部の特別講演Ⅰ「日本医師会における勤務医支援に向けた取り組み」では、松本会長が診療報酬改定、働き方改革、医師偏在対策など、勤務医を取り巻く環境の変化と日本医師会による具体的な支援策について詳説。医療機関の経営悪化、人材確保の困難さ、地域医療構想の進展など、現場の実情に即した課題が提示され、参加者の高い関心を集めた。
続いて、久慈浩介南部美人五代目蔵元・代表取締役社長による特別講演Ⅱ「南部美人の挑戦―混沌とした時代を切り開く―」が行われた。地域企業の経営者として、ニーズが変化する社会における挑戦とイノベーションについて語られ、「変化を恐れず成長の機会とする」姿勢が医療現場にも通じるものとして印象に残った。講演の最後には、サンフランシスコでの自動運転車の動画が紹介され、飲酒運転問題の解消に向けた新たな視点が示された。
午後の部では、鈴木康裕国際医療福祉大学長による特別講演Ⅲ「新型コロナウイルス感染症と今後の日本の医療」が行われた。コロナ禍を通じて明らかになった日本医療の強みと脆弱(ぜいじゃく)性、今後の医療提供体制のあり方、医療DXや人材育成の重要性などについて、多角的かつ分かりやすい提言が示された。
続くシンポジウム「人口減少時代に活躍する勤務医」では、特に人口減少が著しく、医師偏在指標が全国最低である岩手県での開催に当たり、以下の5テーマで発表が行われた。
(1)研修医教育:「岩手の臨床研修医教育(いわてイーハトーヴ臨床研修病院群の取り組み)」(米田真也岩手医科大学医学部総合診療医学講座講師)
(2)総合診療:「目標伝達、勤務環境整備、総合的に診る教育とチーム医療、地域活動で、医師の活躍を支える」(藤森勝也あがの市民病院長)
(3)医療DX:「医療DX―地域医療連携システムの経験から」(中山雅晴東北大学大学院医学系研究科医学情報学分野教授)
(4)女性医師:「憧れるのをやめましょう~混沌の先に居場所があった~」(住吉明子岩手県立中央病院総合診療科)
(5)岩手県の現状:「人口減少を迎える地域で」(坂下伸夫岩手県立病院院長会長・岩手県立釜石病院長)
各発表では、地域医療の現場における実践例と課題が具体的に報告された。医師の偏在、人材確保、女性医師のキャリア支援、医療DXの推進、地域包括ケアの重要性など、全国共通の課題に対し、多様な視点からの提起がなされた。
全体ディスカッションでは、シンポジストの発表に関連した設問への会場アンケート結果を踏まえて議論が行われた。医師偏在の現状を自分事として捉え、医療提供体制維持への危機感を共有した上で、総合診療医の果たすべき役割、医療DXの活用、時短勤務を含む多様な働き方の推進、これらを支える研修医教育の課題などについて意見交換が行われた。
また、AI活用への期待、PHR基盤整備による効率化の可能性が再確認された。
最後に「いわて宣言」が採択され、参加者一同が今後の勤務医の活躍と医療現場の発展に向けて決意を新たにした。閉会のあいさつでは、地域医療の発展に向けて全国の医師会が引き続き連携して取り組むことが呼び掛けられた。
本協議会は、全国の勤務医が情報を共有し、課題解決に向けての連携を深める貴重な機会である。本協議会で得られた知見やネットワークが、今後のより良い医療提供体制の構築につながることを期待する。
なお、次回の協議会は来年11月7日(土)に大分市で開催されることになっている。
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いわて宣言
我が国は、急速に進行する人口減少と高齢化により、医療提供体制の持続可能性がかつてないほど問われる時代を迎えている。特に地方においては、医療需要の増大に反し、医療従事者の確保が困難となり、必要な診療科が揃わない状況に追い込まれるなど包括的な対応が急務となっている。先進諸国の中でも最も高齢化人口減少が先行している国として、日本の動向に世界も注目している。医師多数都府県は、寧ろ特例的であり、日本の多くの地域においては、直近の医療提供体制維持に危機感を持って備えなければならない。医学の進歩は日々加速し、専門性の深化が進む一方で、複合的疾患を併せ持つ高齢者には包括的医療を担う体制や人材の確保が必要である。また、急速に進化する医学に伴い、制度の複雑化や薬剤費の高騰などが進み、病院運営はかつてない困難に直面している。 このような状況の中、勤務医は、病院を拠点に、多職種や地域医療機関、福祉施設等と連携し、複雑化する先進医療を担っている。診療所との機能分担と連携を図りつつ、我々勤務医は、診療科や施設の垣根を越え、持続可能な医療の実現に尽力している。 一方、勤務医の長時間労働や過重な業務負担は、個々の人生と健康に深刻な影響を及ぼすだけでなく、医療安全にも直結する重大な課題である。勤務医の働き方改革は、医療提供体制の持続性を高める基盤として不可欠な施策であり、年齢や地域の実情に見合った運用が適切に為されていく必要がある。 また、人工知能や通信機能における先端技術の導入は、業務の効率化のみならず、医療の質と安全性の向上を目指すための重要な鍵となる。我々は積極的にこれらを活用し、医療の変革に対応していかなければならない。 以上を踏まえ、我々全国医師会勤務医部会連絡協議会は、この困難な時代を乗り越えるため現場から変革を引き起こしていく決意を新たに、次の通り宣言する。 一、人口減少と高齢化が進む中でも、勤務医は地域住民のいのちと暮らしを支えるため、時代の変化に応じた医療提供体制の変革に努める。 一、診療所・施設・職種の垣根を越えた連携により、切れ目のない医療を推進する。 一、働き方改革を推進し、勤務医が無理なく安心して働ける環境整備に取り組む。 一、人工知能や通信技術等の先端技術を有効に活用し、人材が限られる中でも質の高い効率的な医療体制を構築する。 令和7年11月8日
全国医師会勤務医部会連絡協議会・岩手 |



