閉じる

令和3年(2021年)1月5日(火) / 日医ニュース

性暴力被害による妊娠における人工妊娠中絶の同意書のあり方について

性暴力被害による妊娠における人工妊娠中絶の同意書のあり方について

性暴力被害による妊娠における人工妊娠中絶の同意書のあり方について

 令和2年度家族計画・母体保護法指導者講習会が昨年12月5日、テレビ会議システムで開催された。
 講習会は渡辺弘司常任理事の司会で開会。冒頭のあいさつで中川俊男会長(猪口雄二副会長代読)は、厚生労働省が、母体保護法第14条「医師の認定による人工妊娠中絶」に係る配偶者の同意に関して施行令の一部改正をしたことに伴い、日本医師会としても、性暴力被害による妊娠における人工妊娠中絶の同意書のあり方などの問題に取り組む必要があるとの認識から、本講習会を開催したことを説明。産婦人科、法律、行政など各領域から忌憚(きたん)のない意見を求めた。
 引き続き、田村憲久厚生労働大臣(小林秀幸厚労省子ども家庭局母子保健課長代読)並びに木下勝之日本産婦人科医会長があいさつした。

シンポジウム「暴力から女性・母性をまもるために」

 種部恭子富山県医師会常任理事は、まず、性暴力について、性的な自己決定を暴力や支配によって奪われることであるとし、強制性交や強制わいせつのみならず、セクハラやDVも含まれることを説明。内閣府の調査では、異性から無理やり性交された経験をもつ女性は7・8%(約13人に1人)で、加害者との関係では「配偶者・元配偶者」26・2%、「交際相手・元交際相手」24・8%など、全体の90%が顔見知りによるものであることから警察への被害届を出しにくいことを強調した。
 その上で、このような背景で中絶をする場合、加害者の同意を求めることは危険が大きく、本人の同意のみで足りるケースに該当するかは、産婦人科医がプロフェッショナルオートノミーに基づき判断することが求められるとした。
 石渡勇日本産婦人科医会副会長は、同意書を求めないまま中絶手術を施行した後、夫より脅迫的なクレームが医療機関に寄せられたトラブル事例を報告。DVや強制性交罪等が成立するなど、一定の要件を満たせば例外的に配偶者の同意は不要であるが、紛争になった際に医師を守る仕組みが必要であるとした。
 また、強制性交で妊娠した被害者が受診した際には、痛みに寄り添いつつ、ワンストップ被害者支援センターや警察等につなげるなどの支援を行うべきであるとして、被害届や相談によって、配偶者への同意を不要とする取り扱いとすることを提案。併せて、「妊娠12週未満の人工妊娠中絶では、女性本人の同意だけで足りる」とする日本母性保護産婦人科医会(現日本産婦人科医会)の提言(2000年5月)の一部を紹介した。
 医師でもある新星総合法律事務所の児玉安司弁護士は、変容する家族と法制度について、生殖補助医療の発展により生じた親子関係の最高裁判所の対応を解説。また、母体保護法に関連する訴訟の問題として、「刑事手続き」と「民事手続き」の違いを説明し、両者が区別されずに議論されがちであると指摘した。
 配偶者の同意では、DVと女性の自己決定権の問題を解決するには、より広い視野の下で国民的な合意形成を図るべき事柄であり、母体保護に関わる医療関係者の意見も重要であるとした。
 小林厚労省子ども家庭局母子保健課長は、最近の母子保健行政の動きとして、子育て世代包括支援センターの全国展開や不妊治療の保険適用について触れた上で、「母体保護法の施行について」(厚労省事務次官通知)の一部改正に至った経緯を説明。「母体保護法第14条の運用において、性暴力によって妊娠した場合は、加害者の同意を求めるものではないと解釈してよいかという日本医師会からの疑義照会を踏まえ、通知の一部改正を行うことによって、同条文では加害者の同意は求めていないとの解釈を明らかにした」と述べた。

パネルディスカッション

 パネルディスカッションでは、診療の場において患者の背後にある暴力を見極める難しさから、医師会がバックアップすることを求める意見が出される一方、「中絶手術が可能な時期は法律により定められているため、第三者の判断を仰ぐ時間的余裕はない」との見解や、配偶者の自己決定権の問題も提起されるなど、都道府県医師会を交えて活発な議論が行われた。

戻る

シェア

ページトップへ

閉じる