閉じる

令和3年(2021年)2月20日(土) / 日医ニュース

新型コロナウイルス感染症患者の病床確保に向けて

 新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、患者を受け入れる病床が逼迫(ひっぱく)しています。必要な時に適切な医療を提供できない、適切な医療を受けることができない「医療崩壊」を迅速に解消し、必要な時に医療自体を提供できない、医療自体を受けることができない「医療壊滅」を阻止しなければなりません。
 日本医師会は、「政府と医療関係団体との意見交換会」(本年1月14日開催)において、菅義偉内閣総理大臣に「助かる命を助けるためにも、医療界が一丸となり、この有事に究極の臨戦態勢で対応していく。そのため、病院団体と共に、新型コロナウイルス感染症患者を受け入れる病床を確保するための対策組織を新たに設置し、可能な医療機関は躊躇(ちゅうちょ)なく、患者さんを受け入れるべく努力をしていく」との決意を表明しました。
 その具現化として、四病院団体協議会(日本病院会、全日本病院協会、日本医療法人協会、日本精神科病院協会)並びに全国自治体病院協議会と共に立ち上げたのが「新型コロナウイルス感染症患者受入病床確保対策会議」です。この会議で、2月3日、「新型コロナウイルス感染症患者の病床確保等に向けた具体的方策」を取りまとめました。更に、これを踏まえた地域の医師・看護師等の派遣、地域の医療機関での患者受入策をお示ししています。
 ここで大切なのは、各地域での受入病床の確保は、各地域の実情に応じたものでなければならないということです。各地では、これまでも地域の実情に応じながら平時からの連携を最大限に生かし、患者の受け入れや地域での各病院・診療所の役割分担に努めておられます。
 同会議では、そうした既存の連携体制を積極的に支え、必要があればその強化策をお示しして、全国的な受入病床の確保、充実を進めて参ります。

新型コロナウイルス感染症患者の病床確保等に向けた具体的方策

1.都道府県医師会、都道府県病院団体及び支部による協議会の立ち上げ

 都道府県医師会、都道府県病院団体及び支部が連携して協議会(以下、協議会)を立ち上げ、都道府県行政との間で緊密な連携を取る。既に連携体制が構築されている場合にはそれを尊重し、支援に努める

2.協議会による情報共有の仕組みの構築・活用

 協議会は、患者発生状況、病床や宿泊療養施設の使用率、不足する医療機材、病床確保、感染防止や医師等の派遣に関する財政支援策(国庫補助事業、地方単独事業)、関係法令上・診療報酬上の取り扱いに関する情報を随時発信し、必要な調整・連絡を図る。

3.受入病床の確保策

 協議会もしくは地域医療構想調整会議等にて都道府県調整本部等と連携し、受入病床の確保を行う。併せて、情報提供及び6.に掲げる対策を実施する。
 (1)新規に入院加療を要する患者の受け入れを行う病院
 (2)既に患者を受け入れている病院であって、増床や他の疾患患者用病床の転用により、受入病床の拡大を行う病院

4.後方支援病床の確保策

 急性期を過ぎ、引き続き入院加療を要する患者の転院については、協議会もしくは地域医療構想調整会議等において、転出希望病院と転入可能医療機関の組み合わせの決定(マッチング)を行う。
 併せて、転入可能医療機関となる病院に対し、退院基準の周知徹底及びその理解促進を図る。
 
 受入病床、後方支援病床の確保は緊急性があるため、協議会はWEB等を活用し、頻回かつできるだけ多くの病院が参加できるように工夫する。

5.宿泊療養施設や自宅療養の拡充

 行政から地域医師会への健康フォローアップ業務委託を推進し、医師・看護師・事務職等の派遣を行う。

6.地域の医師・看護師等の派遣等による対策

 協議会は、他都道府県の事例紹介、地域の医師・看護師等の派遣を行う。派遣に当たっては、地域の実情に応じて、日本医師会災害医療チーム(JMAT)、災害派遣精神医療チーム(DPAT)、全日本病院協会災害時医療支援活動班(AMAT)等の枠組みを活用する。また、新規で患者を受け入れる病院への技術指導員の派遣、受入病院からの患者引き受け等、必要な対策を立案・実行する。

地域の医師・看護師等の派遣、地域の医療機関での患者受入策

 各地で行われている、医師会や病院団体等によるさまざまな取り組みの参考として、前述の「具体的方策」の「6.地域の医師・看護師等の派遣等による対策」の例を示す(本稿では上記具体的方策との重複部分を除く)。

1.新型コロナウイルス感染症患者受入病院に対する支援

 (1)受入病院の外来診療部門への派遣
 (2)―1 地域の医療機関による受入病院に対する医師や看護師等の派遣
 (2)―2 その派遣元医療機関に対する地域の医師・看護師等の派遣

2.新型コロナウイルス感染症患者受入病院からの他疾患患者の引き受け

 (1)受入病院より、他疾患の入院患者を引き受ける地域の医療機関を確保する(転院先医療機関)。また、当該患者の担当医師等がその医療機関に出向き手術・術後管理等を行う
 (2)転院先医療機関に対し、地域の医師・看護師等を派遣する
 (3)受入病院の他疾患の外来患者を地域の医療機関で引き受ける

3.後方支援病床の確保(図1)

 (1)急性期を過ぎ、引き続き入院加療を要する患者を引き受ける医療機関(後方支援医療機関)を確保する
 (2)後方支援医療機関に対し、地域の医師・看護師等を派遣する

210220fe1.jpg

4.宿泊療養、自宅療養(自宅待機患者対応)の拡充(図2)

 (1)宿泊療養施設や自宅療養(自宅待機患者を含む)の拡充のため、行政から地域医師会への健康フォローアップ業務委託を推進する。その際は、健康観察や診療に、電話やオンラインを活用する
 (2)宿泊療養施設には、地域の医師・看護師等の派遣を行う
 (3)自宅療養の健康フォローアップ業務は、入院・宿泊療養施設入所への自宅待機中の患者も対象とするため、パルスオキシメーター等により健康フォローアップを行い、必要に応じて往診も行う
 ※(1)~(3)まで、特に自宅療養について、同様のことが「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」(令和3年2月2日変更)に示されています。

210220fe2.jpg

5.新型コロナウイルス感染症患者の外来診療に関する研修

 次の感染拡大に備え、外来診療を担う地域の医師等への研修を推進する。

日本医師会の施策

1.受入病床確保の要請、退院基準の周知徹底と理解促進

 昨年4月、新型コロナウイルス感染症対策における医師会の救急・周産期医療提供体制の考え方として、都道府県医師会に対し、都道府県の会議体や都道府県調整本部への参画や活性化の主体的な役割、地域/都道府県域/広域の搬送・入院調整等の救急・周産期医療対応につき対応を要請しました。
 また、令和3年1月8日に行政と連携して病床が逼迫している地域における更なる受入病床の確保を、1月29日には回復患者の受入後方医療機関の確保について、退院基準の周知徹底及び理解促進が喫緊の課題として、各地域の関係医療機関への退院基準の早急な再周知及び病院団体等との連携を、都道府県医師会にそれぞれ依頼しました。

2.宿泊療養施設、自宅療養(自宅待機患者対応)の拡充

 受入病床の確保には、軽症患者や無症状者を受け入れる宿泊療養・自宅療養の体制も重要です。日本医師会では、昨年4月に厚生労働省と連携して行政から地域医師会への自宅療養の健康フォローアップ業務の委託契約書のひな形やその説明資料を作成しました。
 また、入院や宿泊療養施設への入所を自宅で待機する患者の増加に対し、自宅療養における健康観察の際のパルスオキシメーター活用の重要性を訴え、厚労省も同趣旨の事務連絡を発出しています。酸素飽和度(SpO2)の見方〔動脈血酸素分圧(PaO2)の換算、重症度分類等〕などについて、フォローアップ業務の従事者への周知も必要です。

3.受入病院、後方支援医療機関、宿泊療養施設・自宅への出務の環境整備

 日本医師会では、新型コロナウイルス感染症に対応した"COVID-19 JMAT"として、昨年2月のダイアモンドプリンセス号への派遣以来、これまで約3万人の医師や看護師等に宿泊療養施設、地域外来・検査センターに出務して頂きました。災害対応のチームを感染症対策に適用することは難しい面もありますが、JMAT、DPATやAMATの派遣スキームは、それぞれの機能や役割に応じ、受入病院や後方支援医療機関、あるいは宿泊療養・自宅療養(往診等)への派遣に活用できるインフラストラクチャーと言えます。
 そして、地域の医師・看護師等に少しでも安心して出務して頂くためには、その補償を充実させることが必要です。
 そこで、従来の「COVID-19 JMAT保険」(新型コロナウイルス感染症にも適用される傷害保険)に加えて、新型コロナウイルス感染症の感染時に一定額の補償金を受け取ることができる感染一時金補償制度を新設します。
 更に、本年4月以降には「COVID-19 JMAT保険」と感染一時金補償の良い面を組み合わせた新たな補償制度の創設を目指します。

新型コロナウイルス感染症患者の病床確保に向けて

 新型コロナウイルス感染症患者受入病床確保対策会議の「具体的方策」では、都道府県医師会と都道府県病院団体及び支部からなる協議会によって、地域内の受入病院・病床の拡充や後方支援病床の確保を図っていく方針を提示しました。
 国においても、「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」で「地域の実情に応じ、(略)病床の確保を進めること。その際、地域の関係団体の協力のもと、地域の会議体を活用して医療機能(重症者病床、中等症病床、回復患者の受け入れ、宿泊療養、自宅療養)に応じた役割分担を明確化した上で、病床の確保を進めること。」とし、医師会や病院団体等との連携の重要性を認識しています。受入病床や後方支援病床の確保など個々の対策の中でも、そうした連携を重視しています。
 一方で、この度の感染症法の改正によって、都道府県等からの病床の確保を含む協力要請に対し、正当な理由がなく当該要請に応じなかった時には勧告や公表ができることとなりました。ただし、日本医師会として丁寧な仕組みとするよう強く求めたところ、厚労省Q&Aでは次のように要請されています。やはり、地域の実情の反映や他疾患患者への医療をしっかりと分担している医療機関への配慮も大切であると考えられています。

  • 具体的な協力要請の内容は、地域の実情に応じ、各都道府県等においてご判断頂くこととなりますが、病床の確保においては、まずは法律に基づく要請を行う前に、救命救急医療や他の一般診療への影響などに十分に配慮するとともに、地域の医療機関等の関係者間での話し合いに基づく調整を行って頂くようお願いします。
  • 勧告・公表の是非を判断するに当たっては、医療機関等の事情も考慮し、慎重に行うこととし、例えば、協力要請事項について都道府県医療審議会等の関係者の会議体により、事前に(緊急時でやむを得ない場合は事後に)、勧告・公表に係る対応について当該会議体から意見を聴取するなど、手続きの透明性を確保するようお願いします。

 新型コロナウイルス感染症対策患者の受入病床の確保は、地域の努力だけに依存してはなりません。補助事業の創設、診療報酬上の臨時的な取り扱いや法令の柔軟な運用などのさまざまな支援が必要であり、国も施策を講じていますが、地域では十分に認知されていません。今号を「新型コロナウイルス感染症特集」としたのは、国の支援策を周知するためでもあります。
 そして何より、ワクチン接種、発熱外来や医師が必要と認めた時に検査を行うことのできる体制の充実により感染拡大を防止することこそが、入院が必要な患者の増加を抑えることにつながり、最大の病床確保策と言えます。
 日本医師会は今後も、地域住民に寄り添う診療所や中小病院、かかりつけ医をお支えするとともに、あらゆるアプローチで、受入病床確保を図って参ります。

戻る

シェア

ページトップへ

閉じる