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令和3年(2021年)3月20日(土) / 日医ニュース

「東日本大震災10年 あの時得た教訓を忘れない~続ける『絆』の医療支援~」をテーマに開催

「東日本大震災10年 あの時得た教訓を忘れない~続ける『絆』の医療支援~」をテーマに開催

「東日本大震災10年 あの時得た教訓を忘れない~続ける『絆』の医療支援~」をテーマに開催

 日本医師会シンポジウム「東日本大震災10年 あの時得た教訓を忘れない~続ける『絆』の医療支援~」の収録が2月19日、日本医師会大講堂で感染防止対策を徹底した上で無観客により開催された。
 シンポジウムでは、中川俊男会長、岩手、宮城、福島の各県医師会長らによる講演の他、パネルディスカッションが行われ、東日本大震災で得た教訓を忘れず、次の災害に備えて連携を強化していくことを確認した。

 本シンポジウムは東日本大震災の発災から今年で10年になることを踏まえ、日本医師会として、震災で得た教訓を忘れず、未来に生かすことで災害医療に取り組む決意を国民に示すことを目的として実施したものである。
 
 「震災からの10年、JMATの10年 日本医師会の被災地支援の取り組み」と題して講演を行った中川会長は、JMATの派遣など東日本大震災の発災当時の日本医師会の対応を説明。岩手県医師会が被害が大きくなかった内陸部から医師や看護師を派遣したように、被災地の医師会自らによるJMAT活動こそが重要との教訓を得て、現在のJMAT活動は被災地の医師会による「被災地JMAT」と、被災地外からの「支援JMAT」が、フェーズに沿って、連携しながら活動を進めるというコンセプトに進化していることなどを紹介した。
210320a2.jpg  その上で、中川会長は、引き続き、全国の医師会の組織力、ネットワークを最大限に活用して医療支援を続けていく決意を示すとともに、今後も日本医師会として、地域医療の復興に向けた災害支援に注力していくとした。
 続いて、事前収録を行った東北3県の医師会長が、当時の各医師会の支援活動の内容等を語った模様が紹介された。
 小原紀彰岩手県医師会長は、震災から5カ月後に仮設診療所「岩手県医師会高田診療所」を開設したこと、ご遺体の検案をスムーズに行うために「岩手県医師会警察医・検案委員会」を、また、心に傷を負った子どものために、「いわてこどもケアセンター」などを設立したことを報告するとともに、平時から官・学・医で連携を図っておくことの意義を強調した。
 佐藤和宏宮城県医師会長は、災害時に医師会が果たすべき役割の重要性を指摘した上で、医師会が事前に準備しておくべきこととして、(1)災害対策本部の立ち上げの予行、(2)都道府県医師会の役員・事務局の連携体制の確立、(3)最低3日分の食料、水、医薬品などを医師会館に備蓄、(4)災害医療コーディネーターを都道府県知事から任命してもらう―などを挙げた。
 佐藤武寿福島県医師会長は、福島県特有の取り組みとして、原発災害への対応があったと振り返り、引き続き、(1)放射線と健康相談事業の実施、(2)県民健康調査事業への協力、(3)東電原発事故による避難地域の医療支援、(4)医療従事者の確保支援、(5)キビタン健康ネット(医療福祉情報ネットワーク)の構築と普及―などに取り組んでいるとした。
 引き続き、2名の講師による講演が行われた。
 
210320a3.jpg  石井正東北大学病院総合地域医療教育支援部教授/宮城県医師会常任理事は、東日本大震災当時、宮城県石巻市において、不十分な通信環境の下で災害医療コーディネーターとして、石巻医療圏を14のエリアに分け、それぞれのエリアに3~5のチームを振り分け、支援に当たったことなどを報告。JMATに対しては、「慢性期の対応をしてもらった」「患者に寄り添うことに慣れている医師が多かった」ことなどを挙げ、「非常に感謝している」と述べた。
 また、今後必要なこととしては、(1)日頃からの訓練の実施、(2)関係機関とつながりをつくっておく、(3)災害医療に係る人材の育成、(4)情報通信基盤の確保―等を挙げた。
 
210320a4.jpg 横田裕行日本体育大学大学院保健医療学研究科長・教授/日本救急医療財団理事長は、防ぐことのできる災害死者数が500名はあったと言われる阪神・淡路大震災を契機として災害医療は大きな転換点を迎え、その教訓を踏まえて、広域災害救急医療情報システム(EMIS)や災害派遣医療チーム(DMAT)が、また、精神的なサポートが必要との認識の下で、災害時健康危機管理支援チーム(DHEAT)や災害派遣精神医療チーム(DPAT)ができたことなどを解説。自然災害が激甚化するなどの昨今の変化に対応するためにも、今後は「訓練に参加するなど、個々人の意識の向上」「ICTを活用したシステムの構築」などが求められるとした。
 その後は、フリーアナウンサーの長野智子さんの司会により、中川会長、石井教授、横田教授によるパネルディスカッション「風化させず、いかす災害時に求められる支援、備えとは」が行われ、今後の災害医療の課題や日頃から備えておくべきことなどについて、活発な意見交換が行われた。
 中川会長は被災者に対する災害医療体制の構築のためにも、かかりつけ医機能を中心とした地域連携・地域包括ケアシステムを構築しておく必要があると指摘。また、避難所での対応に関しては、日本医師会で『新型コロナウイルス感染症時代の避難所マニュアル』を作成したことを紹介した他、日頃から「セルフケア」に努めることが大切であり、避難する際には「お薬手帳」を携帯して欲しいと呼び掛けた。
 石井教授は避難所においては衛生面の指導など、医療スタッフには病気の治療以外の面で幅広い目配りが求められるようになっていることを報告。国民に対しては、「備えあれども、なお憂いあり」という気持ちで、有事の際にどのように対応すべきか、日頃から考えておいてもらいたいとした。
 横田教授は2018年の西日本豪雨の際に避難所で皮膚疾患が発生した際に「J―SPEED(災害時診療概況報告システム)」で情報共有を図ったことで原因を突き止めることができたことを例に挙げ、情報共有の重要性を強調。「日本では、災害は忘れる前にやってくる状況にある」として、普段からの準備を求めるとともに、災害に関する人材育成を国や医師会に対して要望した。
 最後に、中川会長は、「東日本大震災から得た最大の教訓は『連携』の重要さが明らかになったことである」とするとともに、「震災の犠牲者に報いるためにも、関係者間で強固な連携体制を構築していきたい」と述べ、シンポジウムは終了となった。

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