私は今年で44歳になりますが、晩婚であったため子どもはまだ小さく、4歳と2歳の男の子です。子育ては楽しいながらも大変です。また学ぶところもたくさんあります。妻も外科系医師であるので、帰宅が遅くなり子どもの世話を私だけでしなくてはならないことがあります。
その中で、食事、お風呂というのはやや難易度が高いと感じます。自分だけで子どもの面倒を見なくてはいけない日は少し不安です。2人の相手をしながら食事を作り、食べさせながら自分も食べるといったスキルはまだないので、妻が作り置きしてくれたものや、出来合いのものを食べさせます。もちろん自分の食事は後回しになります。
それから風呂になるわけですが、風呂も大変です。一度に3人で入りますが、子どもの体をまず洗い、湯舟に入れた後、自分の体を洗います。自分の体を洗い終わった頃には子ども達は風呂から出たいと騒ぎます。ゆっくり湯舟に浸かったりできませんし、一日の疲れを癒すこともできません。
お風呂から出た後は、子ども達は興奮して体も拭かずに走り回ります。体を拭こうとバスタオルを持って追い掛けますが、なかなかうまくいきません。裸で延々と3人で走り回る羽目になります。
しかし、私はある時気が付いたのです。追い掛け回すから逃げるのではないかと。恋愛上級者はこういった心理を利用し駆け引きをしていると言います。『北風と太陽』のように逆転の発想が必要なのではと。
そこで私は追い掛けるのをやめ「いらっしゃいませ、いらっしゃいませ」と声を張り上げました。「いらっしゃいませ、こちらは体拭き屋さんです。奇麗に拭きますよ」。いつもと違う感じに子ども達はこちらをうかがっています。興味はありそうですが、まだ、こちらに来てくれる様子はありません。そこでダメ押しのように「今日は特別にパジャマも着せますよ」。今日は特別、あなただけ特別といった言葉には子どもから大人まで弱いようです。この言葉を聞き、長男がこちらにやってきて素直に体を拭かせてくれました。こうなるともうしめたものです。客が客を呼ぶように、行列があるから店に行くように、労せずに次男がやってきます。こうして、私は裸で走り回らなくても良くなったのです。
この作戦にはもう一つ良いことがあります。何屋さんにもなることができるのです。「トイレ屋さん」「はみがき屋さん」、簡単に何にでもなれます。そして、あなただけの特別感を出してあげれば良いのです。
この文章を書いていて、更に私は気が付きました。この逆転の発想は外科への勧誘にも使えるのではないかと。外科に来て欲しいとアピールするよりも、自ら希望し行列を作るように外科医が増えたら最高です。秋田県の外科医不足も簡単に解決できそうです。外科に来て欲しいという代わりに逆に......逆に何て言えば良いのでしょう......ちょっと思い付きませんが......。
「いらっしゃいませ、いらっしゃいませ。こちらは消化器外科です......」