わが家の庭は、猫の額ほどの広さしかありません。その狭い庭に2本のなり物の木があります。柿の木と酢橘(すだち)の木です。
柿の木は前の住人が植えたもので、土地を譲り受けた時、桃栗3年柿8年と言うから、切り倒すにはもったいないし他に庭木も無いので残すことにしました。
秋になると、柿の実が鈴なりです。しかし間引きしないので数が多く、そのせいで実が小さく味も平凡です。だから食べるのはわずかで、採り残したままの柿が秋の終わりから冬に掛けて熟した時、ぼたぼたと落ちて庭を汚します。
そんな折に熟し柿を始末してくれるのが、カラスです。カラスも助かるし人間も助かります。カラスが庭に飛んできても騒々しいばかりで、容姿も悪いし目の保養にはなりませんのでうれしくはありませんが、熟し柿が庭に落ちる数が減るだけでもありがたいのです。
時にはスズメがやってきて熟し柿を食べますが、カラスがやってくるとスズメなどの小さい鳥は逃げてしまいます。本当のところは、小さい鳥がたくさんやってきて食べてくれると、姿は可愛いし鳴き声も癒しになりうれしいのですが......。
酢橘は、家を建てて(昭和59年)間もなくして植えました。7年か8年目かにやっと実が付きました。随分長く掛かりました。「柚子は9年の花盛り」とか言うので、香りの強い果実の木は収穫まで時間が掛かるのかも知れません。
酢橘の果汁は、食卓に上り大いに役立っています。酢橘は、実が青いうちは果汁は少ないが香りが良い。焼き魚によく合います。だから大型店舗では、この時期にお安くない値段でお店に並んでいます。鈴なりの酢橘を見上げながら、「おおっ、なっとる、なっとる!」とご機嫌です。人さまにも差し上げて喜ばれております(多分)。黄色に熟すと香りは減るが果汁が多くなります。絞って保存すれば季節を問わず利用できます。
その後も毎年良い収穫に恵まれております。ところが何年も経つと、人間というものは横着なものでありがたみが減り、その上、木が成長して、てっぺんの方は採りにくいなどの理由で、採り残しが増えます。
冬になると採り残した酢橘は、過熟して鳥の餌になります。それでも酸っぱいと思いますが、鳥達は盛んにつついています。頻繁にやってくるのは、メジロとヒヨドリです。メジロはつがいでやってきます。2匹が同時に餌には取り付きません。片一方は必ず近くで待機しています。見張りをしているのだろうと勝手に思っておりますが。さて、そこにヒヨドリがやってくると、メジロはパッと逃げます。あとはヒヨドリの独占です。採り残した酢橘は、2月末頃にはすっかり無くなります。餌が無くなれば、鳥達は庭にやってきません。寂しいな!
春が来るまでは山に餌が無い時期なので、庭に餌付けしたらひょっとしてやってくるかも知れん、と思いつきました。試しにリンゴを半分に切って酢橘の木に取り付けてみました。30分後には、ヒヨドリが来ました。どこで見張っているのか、さんざん独占して食べ散らして去っていきます。その留守に、今度はメジロのつがいがやってきます。名前のとおり、目の周りがくっきりと白く、体は濃い緑色です。可愛い! かくのごとく、たったのリンゴ半分程で、殺風景な冬の庭でバードウォッチングを楽しむことができるんです。
ヒヨドリは同一個体のようで、度々のぞきに来ます。リンゴが無い時には定位置の塀に止まって、こっちをじっと見つめます。リンゴをくれ、と催促せんばかりです。家人は、「私らも食べるんじゃけー、そうそう気前ようあげられんようね!」(広島弁です)とぶつぶつ言いながら与えておりますが......。
こんな他愛もないことでも、野鳥と触れ合うのは楽しい。世間にはペットショップがあり、小鳥、めだか、金魚など簡単に手に入りますが、庭にやってくる野鳥達との交流には格別の趣があるのです。今時のはやり言葉で言えば、ステイホーム型バードウォッチングとでも申しましょうか......。
(一部省略)
山口県 山口県医師会報 第1920号より