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令和3年(2021年)11月20日(土) / 日医ニュース

情報通信機器を用いた産業医の職務のあり方をめぐって

情報通信機器を用いた産業医の職務のあり方をめぐって

情報通信機器を用いた産業医の職務のあり方をめぐって

 「情報通信機器を用いた産業医の職務の実際と産業医に関する組織活動の取り組み」をテーマとした第2回全国医師会産業医部会連絡協議会が10月21日、新型コロナウイルス感染症防止対策を講じた上で、WEB会議との併用で日本医師会館小講堂において、日本医師会と日本産業衛生学会の共催により開催された。
 協議会は神村裕子常任理事の司会で開会。冒頭、あいさつに立った中川俊男会長は、コロナ禍の影響で、在宅勤務などのテレワークやインターネットを通じての会議が定着し、労働者を取り巻く環境が大きく変わったことに触れ、「運動習慣・食生活などの健康管理については、改善している労働者と悪化している労働者とに両極化し、メンタルヘルスに不安を訴える労働者も増加している。このような社会の変化に柔軟に対応できる力が産業医には求められている」と述べ、本協議会の成果に期待を寄せた。
 続いてあいさつした森晃爾日本産業衛生学会理事長は、「昨今、頻繁(ひんぱん)に労働安全衛生法が改正され、産業医の権限も強化されている。労働者の高齢化が進む中、労働者の健康の保持増進は、単に労働力の確保だけではなく、労働災害の防止の側面からも重要性が増している」として、事業者に事業場の課題への自律的取り組みを求めるためにも、産業医の資質向上が不可欠だとした。

記念講演

 その後、堀江正知産業医科大学副学長が「労働安全衛生法と産業医の歴史」と題して、記念講演を行った。
 堀江副学長は、1911年の工場法、1947年の労働基準法を経て、1972年に労働安全衛生法が定められた背景を詳説。これにより産業医が規定され、職場の衛生管理と労働者の健康管理の措置が進められた結果、労働災害による死亡者数は、1972年の労働安全衛生法施行時に5631人であったものが、2020年には802人と激減したことを図示した。
 将来の課題としては、産業医・衛生管理者の選任や衛生委員会の設置など多くの規定が適用除外となっている小規模事業場の職場改善の他、労働者の健康情報の取り扱いのあり方などを挙げ、産業医には労使とのバランスが偏らないように留意しつつ、更なる職場改善に取り組むことが求められるとした。

シンポジウム

 続いて、「情報通信機器を用いた産業医の職務の実際」をテーマにシンポジウムが行われた。
 高倉俊二厚生労働省労働基準局安全衛生部労働衛生課長は、新型コロナによる新しい生活様式への変化や働き方改革の推進に対応していくため、テレワークガイドラインを今年3月に改定したことに触れ、テレワークでは労働者の心身の状態や作業環境を把握しにくいことから、事業者・労働者用にそれぞれ作成したチェックリストの活用を求めた。
 また、オンラインの面接指導に関しては、必要に応じて対面でも行うべきだとした。
 黒澤一東北大学大学院教授は、新型コロナによる労働環境の変化を受け、産業医の業務も変化を余儀なくされたとして、行うべき業務を整理。情報通信機器を用いた安全衛生委員会や面接指導には、接触を避けられるメリットがある一方、表情や雰囲気が伝わりにくい面があるとして注意点を述べた他、スマートグラスなどを用いたAR(拡張現実)による職場巡視の補助策も紹介した。
 梶木繁之日本産業衛生学会遠隔産業衛生研究会世話人は、第二次緊急事態宣言における産業保健活動の変化についてのアンケート結果等を報告した。
 神村常任理事は、「遠隔で実施可能な職務のみを担うのでは、あるべき産業医の姿からは程遠い」として、産業医が実地で作業環境を確認できる仕組みを整える重要性を強調。「産業医の職務には、受診勧奨や就業判定といった医学的判断が含まれるものもあり、初回・急性症状のある者・メンタル不全者の面接指導は原則対面であるべきだ」とした。

事例報告

 引き続き、「産業医に関する組織活動の取り組み」をテーマに、広島と三重の両県医師会から事例報告が行われた。
 三宅規之広島県医師会常任理事は、同県の会員6931名中、1522名が日本医師会認定産業医であり、(1)産業医のスキルアップのための研修会開催、(2)情報提供、(3)相談対応―を行っていることを説明。今後の課題としては、各地区のマッチング状況や報酬の把握などを挙げた。
 田中孝幸三重県医師会常任理事は、昨年4月に「三重県医師会産業医部会」を設立し、産業医の組織化に向け、段階的に事業を進めていることを報告。同県の郡市区医師会から、「事業場と産業医のマッチング」「事業場との契約や報酬交渉」などを求める声があったことを受け、産業医契約等支援モデル事業を今年度に開始する予定であるとした。
 最後に神村常任理事が、茨城県、埼玉県、愛知県、京都府、鹿児島県の各医師会から事前に寄せられた質問に回答した上で、「引き続き、産業医の先生方が安心して産業保健活動に従事できるよう、体系的な支援体制の構築に向け、取り組んでいきたい」と総括した。

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