日本医師会定例記者会見 令和3年12月15・22日
松本常任理事は医師の働き方改革に向けて医療現場で起こっていること、また、起こる懸念があることを具体的な例を挙げて説明し、厚生労働省にその対応を求めた。
同常任理事はまず、「宿日直許可」について、労働基準監督署に週2回の宿日直が許可されず、例えば、関東の医療機関の医師が北海道の旭川に宿日直に入るというような、遠方に出張するケースが出ていることを紹介。「今後もこうした非効率的なことが増加すると思われる」とし、医師については、週2回の宿日直許可を認めてもらうなど、もう少し丁寧に医療機関の声を聴き、柔軟に対応してもらいたいとした。
「医師独自の宿日直の許可基準」の検討を
「宿日直許可基準」に関しては、2017年の全国医師ユニオンの調査結果を基に、医師の宿日直には「通常業務より少ない」宿日直があり、全体の半分を占めていることを説明。「この『通常より少ない』宿日直の中には、仕事の密度によっては許可を出してよいケースがたくさんある。三次救急を担っている場合に宿日直許可は難しいと思うが、二次救急なら輪番が当たっていない時には許可を出してもよいケースもあるのではないか」とし、宿日直の許可基準の一つとなっている「宿直中の睡眠時間が連続6時間」について柔軟な運用を求めた。
更に、「医師の宿日直は一般業種とは比べて特殊であるにもかかわらず、一般業種と同じ基準で運用されている」として、医師の健康に配慮しつつ、医師の宿日直の許可については一般業種とは違った基準が必要だとの考えを示した。
医師引き上げに伴う影響に危機感
「大学病院による医師派遣」については、「厚労省は大学病院が地域に派遣している医師を引き上げることは現時点では考えにくいとしているが、派遣先で日曜日から許可のない宿日直を行い、連続28時間勤務となった場合には、宿日直の明けた月曜日の正午頃から18時間の勤務間インターバルを取る必要があるため、週明けの大学病院業務に支障を来すばかりか、大学病院は労働時間短縮の努力をしても時間外労働時間が通算で1860時間を超える懸念から、各地域に派遣している医師を引き上げざるを得なくなる」と指摘。
全国各地で医師の引き上げが起きれば、(1)紹介業者に高額な対価を支払ったとしても、全国各地で医師を確保できない医療機関が出てくる、(2)派遣医師を確保できない診療科においては、宿日直体制が確保できず、休日・夜間外来の縮小や閉鎖に至る。特に救急の縮小・閉鎖となると、地域住民の命や健康が守れなくなる、(3)これによって、他の医療機関における休日・夜間外来の業務が増加して、その医療機関の医師の負担が高まるといった悪循環に陥る―といった事態も起こりかねないとして、危機感を示した。
「上限規制が大学病院の医師のモチベーションに及ぼす影響」に関しては、「2024年4月から上限規制が導入されることをきっかけに、大学病院以外の収入が減少すれば、大学病院の医師が処遇の良い一般病院に移動し、一般病院から大学病院に医師を派遣するという逆の流れが生じてしまう」と指摘。既に、こうした現象が起こっているという声が日本医師会に届いていることを明らかにするとともに、大学病院からの人材流出が進むと、医師派遣による地域医療支援機能に支障を来たすだけでなく、大学病院における診療、研究、教育の質の確保に苦慮することも想定されるとして、その改善を求めた。
「産科医療への影響など」については、産科に大学病院からの派遣医師が来なくなった場合には、出産できる体制維持が困難になり、産科医療機関が減ることで、他の産科の負担が高まるだけでなく、地域住民にとっては、住んでいる地域によっては出産がままならなくなるなど、国が考える少子化対策とは逆のインセンティブを引き起こしてしまうとした。
厚労省に弾力的運用を求める
その上で、同常任理事は、「医療提供体制にとって良くない影響が出る現場の声を踏まえれば、『医師独自の宿日直の許可基準の検討』や『2024年からの新制度施行にもう少し猶予を設ける』などの弾力的運用によって、医療崩壊が起こらないようにすることが必要だ」と強調。厚労省に対して、こうした問題への対応を求めた。
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