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令和4年(2022年)3月20日(日) / 日医ニュース

産婦人科医が子育て支援をする意義

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産婦人科医が子育て支援をする意義

産婦人科医が子育て支援をする意義

 こども家庭庁に関する議論が活発化し、子どもや保護者への支援の更なる充実が期待されている。
 2019年12月に施行された成育基本法は、同庁や、母子保健の国民運動計画である"健やか親子21"の根拠法としての役割も期待される。
 私は、日本産科婦人科学会の推薦を受け、厚生労働省に設置された「成育医療等協議会」に委員の一人として参加したが、2008年卒の若輩である私がなぜ委員を務めることになったのか、医療に求められるものが今後どのように変わっていくか、私見を述べたい。

臨床から公衆衛生学教室での研究と学会活動

 産婦人科の専攻医だった頃、所属先の部長が若手の提案を積極的に受け入れてくれる方で、帝王切開術の皮膚切開の縦から横への変更や、産後すぐの風しんワクチン接種勧奨、HPV検査の導入など、担当患者以外にも貢献する経験をした。
 専門医取得後は大学院に進み、公衆衛生学を専攻して虐待リスクのある社会的ハイリスク妊婦の研究に取り組んだ。その折に、北里大学の海野信也教授から日本産科婦人科学会の医療改革委員会にお誘い頂き、分娩施設の集約化などについて全国の先生方と議論する機会を頂戴した。他にも、新規産婦人科医の減少が続く状況を打開すべく発足した委員会に参加し、新規産婦人科医の数がV字回復する場面にも立ち会うことができた。
 こうした経験から、大学院などが開くヘルスケア・リーダーシップの研修に参加し、社会に対して自分ができることを模索したことが、人生の転換点となった。

病児保育との出会い 

 子育ての悩みを聞く中で「子どもの風邪で欠勤が重なり、評価が下がり、職場への申し訳なさもあって退職した」という方に出会った。こうした問題の解決策を探す中で出会ったのが"病児保育"だ。軽症だが保育所では預かることができない子どもの一時保育を担うこの行政サービスを、私は当初"女性の就労支援"と捉えていた。
 しかし、実際に施設を訪れたことで、病児保育に対して抱いていた印象の誤りに気付かされた。病児保育の本質は"子ども支援"であり"子育て支援"だったのだ。子どもの状態に合わせてケアと保育を行う病児保育は、医療の専門性を持たない保護者が行うケアと同等以上に、子ども本人にとって最適な時間が提供されるのだ。
 更に、全国の施設を訪れる中で、利用率が非常に低いことや、多くの施設が赤字経営であること、保護者のニーズと比べて認知度が低いこと、利用手続きが煩雑(はんざつ)で使い勝手が悪いことなどを知り、これらの課題解決を目指す会社を立ち上げて、病児保育支援システム"あずかるこちゃん"を開発した。
 医療以外の知見がない私が取り組む開発は多難で、リリースまでに約3年を要したが、志あふれる施設スタッフの存在に支えられ、当社は現在、同システムの提供だけでなく、調査研究や政策提言など、取り組みの幅を広げつつある。

バイオ・サイコ・ソーシャルな支援を

220320l2.jpg 私は医療ではなく子育て支援に従事しているが、ここには産婦人科医としての信念がある。
 日本の妊産婦死亡数は年間40名前後で、世界的に見ても少ない。一方、生児出産後1年未満の母親の自殺は2年間で92件と多いことが国立成育医療研究センターから報告された。
 通常、産婦人科医は産後1カ月でフォローを終えるが、その数カ月後に不幸な転帰をたどる方がいる。これは、一産婦人科医として忍び難い事実であった。
 ユニセフによる2020年の調査報告では、先進38カ国で日本の子どもの身体的健康は1位、精神的健康は37位。身体的な健康は達成されてきた一方で、10代の自殺や子どもの貧困は引き続きの課題である。
 成育基本法の基本方針でも、バイオ・サイコ・ソーシャルの観点から切れ目なく包括的に支援する旨が記されている。こども家庭庁の創設によって、子どもと保護者を取り巻く環境をより良いものへ変え、しっかりと評価し、改善し続ける必要がある。
 支援を必要とする人々と、支援の取り組みとをつなぐ架け橋として、我々専門家が機能するべきなのだ。

2024年の医師の働き方改革に向けて

 若手産婦人科医の3分の2は女性だが、産婦人科医は長時間労働になりやすく、妊娠出産の障壁となりやすい。
 日本産科婦人科学会はこれまで先進的に議論し、働き方改革やイクボス宣言を打ち出してきた。医師の時間外労働時間の低減に向けて、看護師のように1カ月前に勤務時間を決める変形労働時間制を導入する病院が増えるかも知れない。
 夜勤明けが帰宅となり、日勤の医師数が減れば、短時間勤務者は"フルに働けないマイナスの存在"ではなく、足りない医師数を補う必要不可欠な人材となるはずだ。こうした子育て世代の医師を擁する医療現場のあり方も左右する病児保育という事業に、今後も全力で取り組んでいきたい。
 最後になるが、成育医療等協議会に推薦頂いた学会の先生方、これまで支えてくださった方々に、心からの感謝を伝えたい。このご恩に、これからの活動で報いたい。

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