令和3年度日本医師会医療情報システム協議会が「新しい時代の医療ICT―ウィズコロナを生き抜く」をメインテーマとして、2月19、20の両日、日本医師会館小講堂で日本医師会Web研修システムを用いて開催され、519名が視聴した。 |
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第1日
開会
長島公之常任理事の開会宣言に続いて、あいさつした中川俊男会長は、新型コロナウイルス感染症の予防、治療、ワクチン接種等の尽力に感謝の意を示した上で、国内の多くの地域で新型インフルエンザ等対策特別措置法による措置が適用されている状況下で、WEB開催となった今回の協議会について各セッションの趣旨を概説し、この2日間が有意義なものとなるよう期待を寄せた。
続いてあいさつした金井忠男運営委員会委員長/埼玉県医師会長は、コロナ時代の前後で社会は大きく変わり、中でもICTの活用が更に推進されていくとの見方を示すとともに、「医療界が遅れないためにも、本協議会が果たす役割はますます重要なものになる」として、その開催の意義を強調した。
Ⅰ.日本医師会が目指す医療ICT
セッションIでは、長島常任理事がまず、日本医師会の医療ICT化における基本姿勢について、「国民と医療現場にとって、真に役に立つものであるべき」との考えを示し、その実現に向けた取り組みを紹介した。
その上で、特に重要となる(1)オンライン資格確認、(2)電子処方箋、(3)電子カルテの標準化、(4)地域医療情報連携ネットワーク整備、(5)オンライン診療、(6)医療情報の安全管理ガイドライン改定、(7)PHRの動き、(8)医師資格証の普及、(9)次世代医療基盤法、(10)セキュリティ対策、(11)ORCAプロジェクト―に関して、それぞれの意義やメリット、課題などについて概説。「ICT化はあくまでも目的ではなく、より良い医療を提供するための手段であり、現場のニーズを実現するためのツールとしてICT化を進めていくべきである」と強調した。
Ⅱ.国が目指す医療ICT
牧島かれんデジタル大臣は、昨年9月に発足したデジタル庁について、デジタル社会実現の司令塔であり、令和3年12月に閣議決定した「デジタル社会の実現に向けた重点計画」に発足の背景や取り組み方針などが示されていることを紹介。重点計画では目指す社会の実現の柱の中に重点的な方針として、「医療・教育・防災・こども等の準公共分野のデジタル化」を掲げているとした上で、「今後は、より豊かな生活の実現に向け、個々人に沿ったサービスを柔軟に提供する社会の実現を目指すべきである。そのためにもデジタルの可能性を最大限に引き出し、最適な環境を整備する必要がある」との考えを示した。
また、自身が行政改革、規制改革の担当大臣も兼任していることから、一体的かつ横断的に改革を進めていくことができるとするとともに、「今後も誰一人取り残さないぬくもりのあるデジタル社会を目指していきたい」と述べた。
自見はなこ参議院議員は、新型コロナウイルス感染症医療機関等情報システム(G―MIS)や新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER―SYS)構築の背景やメリットなどについて解説。その共通課題として、業務内容やプラットフォームの一元化と閲覧権限などの整理の必要性、医療機関と個人単位のIDの統一などを挙げた。
また、自民党内に社会保障制度調査会・デジタル社会推進本部健康・医療情報システム推進合同プロジェクト委員会が発足したことを紹介した上で、自身が考える論点として、「医師資格証(HPKI)/公的個人認証サービス(JPKI)」や「被保険者番号」の整理、「海外における医療情報の集約やその取り扱いと本人へのフィードバック」などを説明。「システムは育てるものであり、患者、医療現場、行政、研究者などの関係者が連携し、利用者の視点に立って使いやすいものにするべき」との考えを示した。
大竹雄二厚生労働省保険局医療介護連携政策課保険データ企画室長は、オンライン資格確認の本格運用が開始されたことに触れ、薬剤情報や特定健診情報等のさまざまな情報が閲覧できるだけでなく、多様な医療サービスの提供が可能となったことで、いわゆる「データヘルス」の基盤ができたとし、将来のより良い医療の提供を目指すためにも、引き続きその推進に向けた協力を要請した。
飯村祥子厚労省健康局予防接種室予防接種相談・支援専門官は、国内の新型コロナワクチンの接種状況を説明するとともに、追加接種の前倒しに向けた供給見通しとワクチン配送スケジュール等を報告。また、ワクチン接種円滑化システム(Ⅴ―SYS)については、その目的とワクチン接種記録システム(VRS)との違いを解説した。
続いて、セッションⅠ、Ⅱの総合討論が行われ、VRSを活用した予防接種記録の管理やHER―SYSを用いた関係者間の連携等、現状のシステムに関する多数の質問が寄せられ、活発な議論が行われた。
Ⅲ.医療ICTのサイバーセキュリティ
結城則尚内閣官房内閣サイバーセキュリティセンター重要インフラグループ内閣参事官/産業技術総合研究所客員研究員は、最近の事案の特徴を踏まえて、適切な管理で防止できる事案が毎年繰り返されていることを問題視。その上で、ランサムウェア攻撃の対応策として、(1)データを三つ保存、(2)バックアップファイルを二つの異なる媒体に保存、(3)一つをオフラインに保管―とする「321ルール」を紹介し、その徹底を求めた。
加賀谷伸一郎IPAセキュリティセンターシニアエキスパートは、情報セキュリティ分野の研究者等の実務担当者などをメンバーとする「10大脅威選考会」が決定した「情報セキュリティ10大脅威2022脅威ランキング」の中で、特に問題となる事案として、(1)ランサムウェア、(2)ビジネスメール詐欺、(3)マルウェア「Emotet」―を挙げ、その内容を解説。その上で、「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン第5.1版」やIPAの情報セキュリティ安心相談窓口の活用を求めた。
その他、日本医師会事務局からは、重要インフラ事業者等の情報共有・分析機能及び当該機能を担う組織である「セプター」のうち、日本医師会がその事務局を担っている「医療セプター」の活動概要等を紹介。また、2020年9月に日本医師会が「Emotet」による感染の被害を受けた経緯と、その後に行ったパスワード変更機能の実装やセキュリティ講習会の実施等の対策を報告した。
1日目の最後に行われた質疑応答では、国に対するサイバーセキュリティへの負担やサイバー被害の回避法などの質問に演者が回答を行った。
第2日
Ⅳ.地域医療情報連携ネットワーク(コロナ禍での有用性)
セッションⅣでは、まず、濱本勲香川県医師会常任理事が、令和3年4月より香川県の事業として運用を開始したレセプト参照システム「K―MIX R BASIC」について、新型コロナワクチンの集団接種会場での基礎疾患の把握等に活用していることなどを紹介した。
秋本悦志広島県・安芸地区医師会理事は、在宅医療に関わる休日夜間の負担を減らすため、土日に副主治医が看取りを含む代診を行うシステムである「主治医副主治医制度」を、ICTを用いて運用していることを説明。効率を考えた場合、「医療介護、いち患者いちID」が望ましいとした。
島貫隆夫山形県酒田地区医師会理事は、県境医療の一助及び大規模災害などにおける医療情報の広域連携を実現することを目的とした、県境を越えた医療情報連携ネットワーク「秋田・山形つばさネット」の有効活用事例や課題を報告した。
宮本大典熊本県医師会医療情報委員会委員長は、熊本県、熊本大学病院、熊本県医師会との間で2014年に締結された三者協定の下、医療介護総合確保基金事業として運用している「くまもとメディカルネットワーク」について、その有用性及び継続的に運営するための課題等を説明した。
佐原博之石川県医師会理事は、2014年に運用を開始し、約600の情報閲覧機関が参加している「いしかわ診療情報共有ネットワーク」について、コロナ禍における有効活用事例を報告。「緊急時にこそ、ICTによる迅速な情報共有が有効」とした。
加藤久和奈良県宇陀地区医師会長は、2020年から病院(地域連携)での利活用が本格化した地域医療介護情報連携ネットワーク「宇陀けあネット」について、コロナ禍における有効活用事例や費用対効果への考え方の他、未来構想に関して説明を行った。
阿南英明神奈川県理事(医療危機対策担当)は、「機能集約と役割分担」を基本理念とした「神奈川モデル」と呼ばれる全県のコロナ診療体系について、医療機関の資機材、病床の空きや利用状況を相互にオープンデータとして共有できる情報基盤を整備したことの意義を強調するとともに、実際の運用例などを紹介した。
中野智紀東埼玉総合病院地域糖尿病センター長は、157医療機関が参加している他、介護施設との連携も行い、約3・5万人の市民も加入している埼玉利根保健医療圏医療ネットワークシステム「とねっと」について、その特徴やコロナ禍での活用事例、今後の課題を説明した。
牧野憲一北海道・旭川市医師会副会長/旭川赤十字病院長は、公的病院と診療所間、公的病院間における診療情報共有を目的とした旭川市医師会の地域医療情報連携ネットワーク「たいせつ安心i医療ネット」について、コロナ禍で情報共有に役立ったこと及び今後の展望などを紹介した。
総合討論では、地域での多職種連携やサイバーセキュリティなどに関する質問に対し、演者が回答を行った。
V.新しい時代の診療形態
セッションVでは、山本隆一医療情報システム開発センター理事長が、「オンライン診療の適切な実施に関する指針」の概要と2017年の制定時からの変遷、更なるIT技術の進歩を前提とした今後の検討課題等を説明した。
西村直久埼玉県医師会理事は、オンライン診療について、コロナ禍における時限的・特例的対応により種々の要件が緩和され、適正利用のための指針の策定が求められる中、同県医師会の取り組みとして、医師法、医療法に照合の上、医療の安全性、有効性、継続性を高め、疾患見逃し等の患者の不利益を回避するための提言を行ってきたことなどを報告した。
小泉圭吾鳥羽市立神島診療所長は、離島医療におけるICTの活用について、同市で計画されたグループ診療と遠隔診療、多職種連携により、面で離島地域を支える「バーチャル鳥羽離島病院」の概要を紹介。実際の運用例や現状の課題などを説明した。
小倉和也はちのへファミリークリニック理事長・院長は、青森県八戸市での、在宅医療を中心とした医療介護関係者の多職種連携におけるICTツールによる情報共有の事例を紹介。情報共有がコロナ禍で有用であったとした上で、「コロナ対策は地域包括ケアそのものである」と指摘した。
三浦和裕品川区医師会理事/三浦医院長は、品川区医師会による、コロナ自宅待機者へのオンライン診療の仕組みである「品川モデル」について、その目的や背景、方法を紹介。運用の中で出てきた具体的な不安点及びその対応状況等について概説した。
総合討論では、長島常任理事が現在の日本医師会のオンライン診療に対する考え方を説明した他、「平時のオンライン診療」などについて活発な意見交換が行われた。
Ⅵ.医療DXを進めるための先進ICT技術
引き続き、セッションⅥでは、杉本真樹帝京大学冲永総合研究所教授/Innovation Lab室長が、医療現場のデジタル革新が進み、仮想現実や拡張現実、複合現実が注目される中、これらを併せたXR(Extended reality)技術が、医用画像解析を中心にオンライン遠隔医療や手術支援、医学教育などで活用が広がっていることなどを映像を交えながら紹介した。
水島洋国立保健医療科学院研究情報支援研究センター/医療ブロックチェーン研究会長は、分散型取引台帳のための技術であり、ブロックと呼ばれるデータの単位を一定時間ごとに生成し、鎖のように連結していくことでデータを保管するデータベースである「ブロックチェーン」について、医療分野での活用事例や今後の可能性について言及した。
松尾豊東京大学大学院工学系研究科人工物工学研究センター教授/同技術経営戦略学専攻教授は、現在の人工知能に関する技術を概説するとともに、今後の人工知能の発展の方向性や医療分野で見込まれる活用例について見解を示した。
最後に、長島常任理事が、日本医師会AIホスピタル推進センターについて、その役割並びに取り組みについて説明。同常任理事は、地域医師会、会員医師にAIホスピタルへの参画を呼び掛けるとともに、AIホスピタルが目指すものとして、「ビッグデータ解析やAI技術の活用によるITや医療機器等の開発と普及による質の高い治療技術の導入」を挙げ、医療界と産業界が協力することにより社会実装と普及が進むとした他、AIパッケージシステムの国際展開は国の経済活性化にも寄与するとの見方を示した。
質疑応答では、ICTに関するコスト面での対応を求める意見や、各技術の将来的な展望等について質問が出された。
閉会式
閉会式では、次期担当県の菊岡正和神奈川県医師会長が次回開催に向けた抱負を述べた後、運営委員会委員の小室保尚埼玉県医師会常任理事が2日間の協議会を総括し、閉会となった。