第10回「日本医師会 赤ひげ大賞」(日本医師会・産経新聞社主催、都道府県医師会協力、太陽生命保険株式会社特別協賛)の表彰式を5月12日、秋篠宮皇嗣同妃両殿下ご臨席の下、岸田文雄内閣総理大臣、佐藤英道厚生労働副大臣を来賓に迎えて都内で開催し、5名の赤ひげ大賞受賞者と13名の赤ひげ功労賞受賞者の功績をたたえた。 |
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本賞は、現代の"赤ひげ"とも言うべき、地域の医療現場で長年にわたり、健康を中心に住民の生活を支えている医師にスポットを当てて顕彰することを目的に、平成24年に創設したもので、今回で10回目の節目を迎えた。新型コロナウイルス感染症の影響により、対面での表彰式の実施は3年ぶり。今回の表彰式は、感染状況を鑑みて当初予定していた3月18日の日程を延期したもので、レセプションは行わず、参加人数を絞ってZoomで限定配信するなど、感染対策を講じた中での開催となった。
当日は、約100名の参列者の歓迎の拍手の中、中川俊男会長の先導により、秋篠宮皇嗣同妃両殿下をお迎えして、開式した。
冒頭の主催者あいさつで、中川会長は、「秋篠宮皇嗣同妃両殿下のご臨席を賜り、ご来賓の岸田総理を始めとする多くの皆様のご出席の下、本表彰式を遂行させて頂けることは大変な名誉」と謝意を示した上で、3年目となった新型コロナウイルス感染症との闘いに触れ、感染者数が増加し、医療が逼迫(ひっぱく)する中においても、日本全国の医師はコロナ医療とコロナ以外の通常医療に加えて、ワクチン接種にも携わるなど、地域医療を守るために奮闘していることを強調。受賞者については、「いずれも、各地域において献身的に医療活動に従事され、患者さんの信頼も厚い、まさに『現代の赤ひげ先生』としてご活躍されている方々ばかりである」として、今後も地域の医師へのバックアップに全力で取り組んでいくと述べた。
次いで、秋篠宮皇嗣殿下から、「このたびの受賞者は、さまざまな課題に使命感をもって応え、おのおのの地域にとって無くてはならない存在として活躍されている方々と承知している。皆様が、今回の受賞を一つの里程標(りていひょう)として、今後も健康に留意されつつ、医療活動に尽力されることを願っている」旨のお言葉(全文は別掲)を賜った。
来賓祝辞では、岸田総理が「長年にわたり地域住民の健康を支え続けている皆様の崇高な使命感と行動力は、まさに現代の赤ひげ先生であり、全国34万人の医師のかがみとなる存在である」と受賞者の功績をたたえた上で、「国民一人ひとりの健康管理や、患者さんが直面する治療と生活の質の確保は、まさに医療の本質・基盤であり、地域にいる赤ひげ先生だからこそ解決できる課題である」と指摘。かかりつけ医機能が発揮される制度整備など、医療・介護が切れ目なく提供される体制の構築を、日本医師会とも協力しながら進めるとともに、世界に冠たる国民皆保険を次の世代にしっかり引き継いでいくとの姿勢を示した。
引き続き、選考委員である城守国斗常任理事が、選考の経過を報告。昨年5月21日付で日本医師会より都道府県医師会宛てに推薦依頼文書を発出し、10名の選考委員で「候補者推薦書」による事前審査を行い、その結果を基に11月5日の選考会で受賞者を決定、本年1月6日に公表したとした他、「受賞された先生方は、長年にわたり、地域住民の健康確保に親身に取り組んでこられた方々ばかりで、選考には困難を伴ったが、受賞者には本賞にふさわしい方々を選考できたと考えている」と述べた。
表彰では、5名の赤ひげ大賞受賞者の活躍をVTRでそれぞれ紹介した上で、主催者である中川会長が表彰状を、飯塚浩彦産経新聞社社長がトロフィー並びに副賞を手渡し、各受賞者が謝辞を述べた。
大賞受賞者が喜びを語る
岩手県の植田俊郎医師は、平成23年の東日本大震災によって大槌町が壊滅的な被害を受ける中、自衛隊に救助され、身を寄せた避難所において、血圧計とわずかな医薬品を携え診療を始めたことを回想。「この震災後の私の動きをご評価頂き、今回の受賞になったようだが、これは医院のスタッフ、岩手を始めとする全国の医療支援チーム、地域住民の方々、そして妻のお陰と感謝している」と述べ、これからも大槌町の一員として、住民に寄り添う医療を続けていくとした。
秋田県の市川晋一医師は、自身が勤務する仙北市西木町について、「現在の人口は4000人で高齢化率は47%。面積は山手線内側の約4倍、その9割が山村で、積雪は2メートルを超える地域であり、医師は私1人」と説明。高校生より志した農村医療を実践すべく、往診や訪問診療も含め24時間365日、診療に当たっているとし、地域包括ケアシステム制度が始まる以前から、地域医師会、行政、福祉関係者に働き掛け、多職種連携による包括的な支援とサービス提供体制の構築に取り組んできたことを紹介した。
終末期医療に力を注ぐ埼玉県の鋤柄稔医師は、山本周五郎の時代小説『赤ひげ診療譚(たん)』の赤ひげ先生と自身の共通点として、助けを求めてくる患者をできるだけ断らずに診ること、また自分は罪深い人間であるという認識があることを挙げた上で、「赤ひげ先生が患者さんのために懸命に働くのは自分の罪滅ぼしのためだが、キリスト教徒の端くれである私は、神による罪の赦(ゆる)しに励まされてのことである」と強調。受賞を喜びつつも、誰にどのように評価されようと地域住民のために黙々と働き続けるとの姿勢を示した。
神奈川県の大石雅之医師は、依存症治療に携わってきた30年を振り返り、「当時、依存症患者はほとんど精神病院に入っており、WHOからも非難を浴びた時代だった。開業する際、精神科のクリニックは成り立たないと、誰一人からも推薦をもらえなかった」と回顧。政治家や厚労省、日本医師会による制度的な後押しを受けて、依存症患者の住居や就職の援助など幅広い展開が可能になったとし、「大事なところは全部やってもらって、私は30年楽しくやらせてもらったような気がする」と謙遜した。
95歳の最高齢受賞者である熊本県の佐藤立行医師は、昭和28年より結核の療養所である国立戸馳(とばせ)療養所に勤務し、手術のために麻酔科標榜医の資格も取得したことなどを述懐。結核が不治の病から治し得る病気になったことを背景に無医地区となった戸馳島に、昭和60年、医院を開業し、診療の傍ら、学校医や町の教育委員会委員、特別養護老人ホームの嘱託医などを兼務してきたとし、「体の続く限り、地域医療と特別養護老人ホームの嘱託医を続けていきたい」と意気込みを語った。
その後は、赤ひげ功労賞の表彰に移り、13名の受賞者がスライドで紹介され、代表して千葉県の丸山博医師に中川会長が表彰状を授与した。
閉会のあいさつに立った飯塚産経新聞社社長は、受賞者に敬意と祝意を表した上で、「新型コロナの拡大は、私達の価値観や生活スタイルそのものを一変させてしまった。変化が求められる日常の中で、いかに健康に毎日を充実させて生きるかは社会的な課題だが、国民一人ひとりの健康を支えるのは、地域に深く根差した医療であり、医療活動に携わる医師、医療関係者の皆様である」として更なる活躍に期待を寄せた。
閉式後には、非公開で秋篠宮皇嗣同妃両殿下と受賞者との記念撮影が行われ、両殿下からは5名の赤ひげ大賞受賞者一人ひとりにお声掛けを頂いた。
なお、当日の模様や大賞受賞者の功績をまとめた小冊子『日本医師会 赤ひげ大賞 かかりつけ医たちの奮闘』は、日医雑誌8月号に同梱予定である。
秋篠宮皇嗣殿下のお言葉
2022年5月12日
第10回「日本医師会 赤ひげ大賞」の表彰式が開催され、皆様と共に出席できましたことを大変うれしく思います。そして、本日表彰を受けられる方々に、心からお祝いを申し上げます。この赤ひげ大賞は、地域の人々に寄り添いながら、病気の治療を行うのみならず、健康の保持や増進など、日々の暮らしを守る活動を行う「かかりつけ医」に光を当て、地域医療の発展を願って設立されたと伺っております。 近年、高齢化が急速に進む中、各地の医療現場では、離島などの地理的条件が厳しい土地に医師の存在がなかったり、都市部ではあるものの病院が撤退したり、また、診療科が偏っていたりするケースが見られます。更に、COVID-19の影響により、持病をもちながらも通院や検診を躊躇(ちゅうちょ)する人々も出てきております。 日本では、2020年初頭から始まったCOVID-19の感染拡大により、対面での人と人との交流に大きな制約を受けるなど、日々の生活にさまざまな制限を余儀なくされるようになりました。このような中にあって、全国各地の医療現場での感染症対策を始め、それぞれの地域において人々の健康を守るために力を尽くされている方々に、深く敬意を表します。 このたびの受賞者は、さまざまな課題に使命感をもって応え、おのおのの地域にとって無くてはならない存在として活躍されている方々と承知しております。皆様が、今回の受賞を一つの里程標として、今後も健康に留意されつつ、医療活動に尽力されることを願っております。 終わりに、「日本医師会 赤ひげ大賞」が、地域住民の診療や健康管理に日々携わっている医師の大きな励みとなり、地域医療の更なる発展につながることを祈念し、私のあいさつといたします。 |
「赤ひげ大賞」受賞者(5名)
順列は北から・敬称略
受賞者の年齢は2022年5月12日現在
植田 俊郎(うえた としろう) 医師
67歳 岩手県 植田医院 院長
医療資源の乏しい大槌町で、平成2年より30年以上にわたって地域住民の健康管理に人生を捧げ、町の小中学校の学校医を務めるなど、児童生徒の健康管理にも多大な尽力をしてきた。東日本大震災の際には甚大な被害を受け、4階建ての診療所・自宅も津波に飲み込まれたが、自衛隊に救出されて避難先に到着するなり救護所を開設して医療活動を行い、不眠不休で診療を続けた。現在でも人々に寄り添いながら、地域の復興と医療の再生に努力を続けている。
市川 晋一(いちかわ しんいち) 医師
70歳 秋田県 仙北市西明寺診療所、仙北市桧木内診療所 所長
地域で唯一の医師として、診療所における医療の質の向上を目指してきた。「365日24時間地域住民の健康のため」をモットーに、外来・訪問・休日夜間診療にも携わり、緩和ケアや終末期の看取りでは常に駆け付けられる態勢をとっている。また、多職種連携による地域の包括的な支援・サービス提供体制の構築や、後進の育成にも尽力。仙北市温泉療養研究会会長として入浴事故を研究する傍ら、温泉浴マイスター制度を創設し、地域おこしにも貢献している。
鋤柄 稔(すきがら みのる) 医師
75歳 埼玉県 シャローム病院 院長
地域でのホスピスケアを含めた終末期ケアを行うべく医院を開業。文字どおり24時間365日体制で、朝は4時に起床、食事や入浴の最中も電話が掛かってくれば飛び出し、常に患者に寄り添ってきた。24時間対応での往診体制も構築しており、「全ては地域と患者さんのために」を礎に、多職種連携のためのICTツールなども積極的に取り入れている。後進の育成にも努めながら、現在も骨身を惜しまず地域医療に尽力している。
大石 雅之(おおいし まさゆき) 医師
68歳 神奈川県 大石クリニック 院長
精神科医として30年以上にわたり、患者の命を守るべく全身全霊で闘っている。全国的にもギャンブルや覚せい剤の依存症の人が多いと言われる地域で、専門外来として平成3年にクリニックを開業。依存症患者の裁判書類の作成、出廷における患者のケアに加え、警察官や刑務所の職員へ病像の講義や説明を行ってきた。その他、刑を終えて出所した患者のケアのため、精神科グループホームや寮を設立し、住居や就職の援助など社会復帰の手助けもしている。
佐藤 立行(さとう たちゆき) 医師
95歳 熊本県 佐藤医院 院長
昭和27年より約70年にわたり、地域住民の医療・保健・福祉の向上に努めている。無医地区であった戸馳(とばせ)島に、「身近なかかりつけ医が診察し、必要に応じて大きな病院を紹介することで島民達は安心できる」と考え、医院を開業。真摯(しんし)な態度で地域住民の健康増進に尽力し、日曜祭日の当番医としても開業以来従事している。その他、小中学校の学校医として、児童生徒の健康管理並びに学校保健会の活動に携わるなど、学校保健の推進にも貢献している。
「赤ひげ功労賞」受賞者(13名)
順列は北から・敬称略
楯 秀貞(たて ひでさだ)(北海道)
今村 憲市(いまむら けんいち)(青森県)
丸山 博(まるやま ひろし)(千葉県)
鈴木慎太郎(すずき しんたろう)(東京都)
吉田(よしだ)まゆみ(福井県)
露木 弘光(つゆき ひろみつ)(山梨県)
河合 俊(かわい しゅん)(静岡県)
西城 英郎(さいじょう ひでお)(三重県)
赤木 重典(あかぎ しげのり)(京都府)
田仲(たなか)みすず(大阪府)
円山 忠信(えんざん ただのぶ)(広島県)
星子 卓(ほしこ たかし)(福岡県)
木原 晃一(きはら こういち)(鹿児島県)