松本吉郎会長は9月7日の定例記者会見で、政府の新型コロナウイルス感染症対策本部が決定した次の感染症危機に備えた対応の具体策やHER-SYSによる全数把握の見直し、緊急避難措置、ワクチン接種などについて、日本医師会の見解等を説明した。
【政府の新型コロナウイルス感染症対策本部が決定した次の感染症危機に備えた対応の具体策等について】
松本会長は、まず、9月2日に政府の新型コロナウイルス感染症対策本部が決定した「新型コロナウイルス感染症に関するこれまでの取組を踏まえた次の感染症危機に備えるための対応の具体策」の中で、主に(1)病床確保や発熱外来等に関する協定とその履行担保措置、(2)コロナ禍の教訓としての役割分担の重要性―について見解を述べた。
(1)については、感染症患者受入病院や発熱外来などを担う医療機関は、都道府県と協定を締結し、感染有事にそれに沿った対応をしない場合には、「勧告→指示→公表」の措置を設けることの他、特定機能病院・地域医療支援病院が指示に従わない場合では承認取消という規定が盛り込まれたことに対して、「今回の政府方針は、次の感染症危機のうち、特にコロナに類したケースに備えたものと認識しており、あくまでもコロナ対応のためにこれまで築いてきた医療提供体制を維持しておくことが基本的な方針であると考えている」とした。
更に、コロナ患者受入医療機関は、現在、都道府県と患者を受け入れられない場合の正当な理由等を書面で取り交わす仕組みとなっていることについて、今回の方針が法制化されることで、その仕組みが制度化され、安定化すると指摘。民間立地域医療支援病院の大部分が、これまでコロナ患者を受け入れてきたことを示した上で、「今回の方針により、万が一にも不合理な措置がなされず、地域の実情等に応じた適切な運用となるよう地域の関係者が協議し、透明なプロセスとなる制度設計が必要だ」との考えを示した。
その上で、仮に正当な理由があるにもかかわらず、医療機関名の公表等の措置が講じられた場合には、地域医師会とも連携の上、当該医療機関を支えていくと強調した。
(2)については、「コロナ禍で得られた最大の教訓は、有事であっても、『地域の実情に応じた役割分担と連携』が必要であることが明らかになったことだ」と指摘。「今回の具体策では、感染症指定医療機関など、感染症危機の初期に対応する医療機関には、減収補償措置を設ける他、それ以外の医療機関では、他の通常医療を受け持ち、検査、治療法等がある程度整備されてから対応するなど、それぞれの医療機関がその機能に応じた準備を整えた上で、役割を果たしていく体制をつくるとされているが、日本医師会としてもその体制が地域の実情に応じて構築されるよう支えていく」との考えを示した。
また、感染症と闘うためには手段の確保が必要だとし、「ICTの強化」「治療薬やワクチンの開発」「PPEの確保」といった政策が今回の具体策に打ち出されている点を高く評価。現場への迅速な情報提供や検査キットの早期開発と供給、未知の感染症に対応する医療機関とその従事者への十分な支援や補償の実現を求めた。
その他、診療・検査医療機関の取りまとめやワクチン接種体制等では、都道府県医師会並びに郡市区医師会が重要な役割を果たしていることを主張し、更に埼玉県医師会による後遺症外来のネットワークについても例に挙げて紹介。「有事へ備えるためにも、医師会の組織力を強化していかなければならない。医師会の組織力強化こそが、日本医師会の最重要課題であり、日本の平時・有事の医療提供体制をより強固なものにする」と強調した。
【HER-SYS全数把握の見直し/緊急避難措置について】
9月6日の岸田文雄内閣総理大臣の会見において、9月26日以降、原則、全国一律で「緊急避難措置」の内容が適用する方針を示したことについては、医療現場の負担軽減につながるとともに、今回の方針により、重症者を守る取り組みに医療機関の対応が一層集中することに期待を寄せた。その一方で、9月4日に開催された近畿医師会連合の分科会において、全数把握を行わないことで健康観察から漏れた方への対応や軽症から重症化した方への対応を苦慮する意見が出されたことを紹介。重症者を見逃さないための健康フォローアップの視点を含めて、国には丁寧な議論と準備を進めて欲しいと述べるとともに、「HER-SYSの改修など、運用変更の準備が迅速に進み、コロナ医療に従事する医療従事者等の事務負担が真に軽減される制度になることを期待している」とした。
【ワクチン接種について】
岸田総理が会見で、オミクロン株対応ワクチンによる追加接種を「12歳以上を対象に今月から始め、来月から11月にかけてワクチン接種を加速させる」との方針を示されたことについては、「感染拡大を未然に防ぐ効果と重症者を減らすことを目的に、希望される方にワクチン接種が行き届くことは非常に重要である」とするとともに、政府に対して、接種を受ける国民及び接種を実施する医療機関等の医療従事者が混乱やミスなく接種を進めることができるよう、適切かつ丁寧で分かりやすい接種関連の通知やQ&A集など、充実した案内が重要であるとの考えを示した。今後については、オールジャパンでワクチン接種の推進をしていく意向を表明し、全国の医師会、医療機関に引き続きの協力を呼び掛けた。
会見に同席した釜萢敏常任理事は、岸田総理が会見で触れた(1)ワクチン接種、(2)全数把握の見直し、(3)陽性者の待機期間の変更―に対する日本医師会の見解を説明。
(1)では、今後供給されるワクチンの種類が時期により異なることと追加接種の対象者をどう広げるかは切り分けて考えるべきと強調した上で、可能なかぎり迅速に希望される方に接種が実施できる体制をしっかり確立しておく必要があるとして、都道府県医師会等の協力を得た上で、日本医師会としてもその体制の構築に全力で取り組んでいく姿勢を示した。
また、オミクロン株対応ワクチンの接種対象者については、ワクチンが承認された場合、初回接種を完了した12歳以上の全ての者を対象となる見通しであることから、国民の理解を得ながら接種希望者に積極的に接種を呼び掛けることも重要になるとした。
(2)については、第7波での感染拡大及び医療提供体制の逼迫状況を踏まえて、全数把握の見直しはやむを得ない妥当な方向であるとする一方で、健康観察に留意がある場合、必要な情報は提供し、行政と連携を取りながら、役立てていきたいという医療機関もあることを踏まえて、今後、その見直しの方法を検討していきたいとした。
また、(3)では、「現時点で何か新たなエビデンスが出たわけではなく、陽性患者の待機期間短縮は、感染を自覚していない陽性者がいること等が想定される中での国の判断」との考えを示すとともに、有症状者の場合には、発症して10日間はウイルスの排出の可能性があることをぜひ、国民の皆さんには認識してもらいたいとして、人にうつさない配慮を求めた。
問い合わせ先
日本医師会 健康医療第2課、地域医療課 TEL:03-3946-2121(代)