「道具」とは、私達人間のできないことをするために、人類の歴史の中で工夫を繰り返して築き上げたものです。高い木の上にある果物を落とすための一本の棒、自分より強い動物をも倒せる硬くて重い石、私達を鳥よりも高く早く運んでくれる乗り物......。
そして「人工知能」の登場。この言葉は人間の英知を超えた、少し怖い印象を与える響きです。ここ数年「人工知能=AI搭載の機器」、などの言葉を目にしますが、実際にはピンキリですね。某お掃除AIロボットは、もともと米軍の地雷探査ロボットを改造したものなので実は非常に優秀なのです。
一方、「AI搭載」の洗濯機、エアコン、カラオケまで販売されていますが、どう考えてもイマイチの印象。専門書には、「AIは有能さを表現するためのマーケティング用語」、とも書いてあります。誰もAIが「無能」であることなど想像もしていませんから、値段を高く設定できるようです。
さて、2012年に登場したアップル社AIの「Siri」には、最初の頃は驚いたものです。日本語で問い掛けたら内容を認識し、回答してくれる。しかも無料。名前もかっこいい。SiriはSpeech Interpretation and Recognition Interface(言語解析・認識インターフェース)の略だそうです。ありがたやありがたや。もともと米国国防省で、戦場の兵士をサポートするための人工知能として開発が始まったので、そりゃ優秀だろう、と思いました。
初めのうちは感激して敬語で話し掛けたりしましたが、その後あまりの頭の悪さにうんざりして、「ねえSiri、分かればで良いんだけどさ」で始めたりするので、ますますトンチンカンな答えをするようになりました。
しかし先日、数年ぶりにSiriを使ったところ、相変わらずの頭の悪さに変わりはなくても、"接遇"が飛躍的に向上しているのに驚きました。こちらが質問している途中で「えーと......」としばらく詰まると、「ちゃんと聞いていますよ」と気遣ってくれる。かなり難しい質問をすると、Siriはしばらく黙った後に、「すみません、次はもっと頑張りますから、もう一度言ってくれますか?」とけなげに聞き返してくるのです! それまでユーザーに散々罵倒されて学習したのでしょう。もっと肝心なところを学習してくれたら良かったのですが。
しかし、もしSiriが意図的に「ユーザーの意思を聞き出す手法」として接遇を学習したとしたら......かなり恐ろしい人工知能の話ですね。名作SF映画「2001年宇宙の旅」の中で、極度に発達したAIのHAL9000がとうとう最初の殺人を犯す時、しどろもどろの会話になってしまうシーンがありました。
ところで私自身は日常、忠実に仕事してくれる素晴らしいAI搭載機器を使用しています。それは私の古い電気ポットで、水を入れてスイッチを入れると、何と沸騰したことをAIが判断し、「カチッ」と音を立てて電源を切るのです!