神村裕子常任理事と齋藤義郎有床診療所委員会委員長(徳島県医師会長)及び河野雅行副委員長(宮崎県医師会長)他7名の委員は11月9日、第1回有床診療所委員会の開催に先立ち、小石川養生所跡を訪問した。
小石川養生所は、徳川吉宗将軍の時代に町医者であった小川笙船(しょうせん)が目安箱に投書したことにより、ちょうど300年前の1722年に小石川薬園内に創設され、江戸時代を通じて約140年間、内科、外科、眼科を診療科として、江戸の貧しい町民に無償で医療を提供していた施設である。その創設日となる12月4日は、現代の有床診療所とも理念が共通することから、「有床診療所の日」に制定されている。
今回訪れたその跡地は、2012年9月19日に「小石川植物園(御薬園跡及び養生所跡)」として国の名勝及び史跡に指定され、同養生所で使われていた井戸の水は、1923年の関東大震災の際に、飲料水として役立てられたことでも知られている。委員と神村常任理事の一行は、本年が300周年の節目に当たることから、その跡地の井戸周辺を散策し、往事の先人の志を偲(しの)んだ。
今回、同地を訪れた齋藤委員長は、小石川養生所は、主に外来や往診をしていた当時の医療施設とは異なり、患者を多数収容できる入院機能を持っていたことに触れ、「今日の有床診療所の原点はまさにここにある」とした上で、「現代の有床診療所は『かかりつけ医機能』を担う医療施設としての側面を持っており、今後も維持していかなければならない」と強調。その一方で、「人口の多い都市部と、過疎や高齢化が進み、出産数も減少している地方では有床診療所が担う役割が異なる」として、患者が有床診療所に求めるものは何か、地域ごとに原点に立ち返って検討する必要があるとした。
更に、齋藤委員長は「患者は有床診療所に対して、病院や無床診療所では提供が難しい医療サービスを求めているのではないか」とし、「その要望にどのように応えていくか、また、地域によって異なる医療ニーズにどのように対応していくか、医師自身も考えなくてはならない時期に来ている」と述べ、今期の委員会でも検討していく意向を示した。