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令和5年(2023年)1月5日(木) / 日医ニュース

「心の問題を考える―その後のサポートへ繋げるために」をテーマに開催

「心の問題を考える―その後のサポートへ繋げるために」をテーマに開催

「心の問題を考える―その後のサポートへ繋げるために」をテーマに開催

 令和4年度家族計画・母体保護法指導者講習会が昨年12月3日、「心の問題を考える―その後のサポートへ繋げるために」をテーマとして、WEB会議で開催され、演者からは周産期喪失者に対する心のケアの重要性が指摘された。
 講習会は担当の渡辺弘司常任理事の司会で開会。冒頭あいさつした松本吉郎会長は、「近年、出産年齢の高齢化により、出生前検査に対する関心が高まっており、女性が安心して子どもを産み、育てるための環境づくりへのきめ細やかな支援等、産婦人科医の果たす役割がますます重要になっている」と強調。今回の講習会のテーマもそれらの状況を踏まえて選んだものであることを説明するとともに、講習会の内容が受講者にとって実り多きものとなることに期待感を示した。
 引き続き、渡辺常任理事が、母体血を用いた出生前遺伝学的検査(以下、NIPT)に関するこれまでの検討経緯や、日本医学会内に設けられた出生前検査認証制度等運営委員会で行われているNIPTを実施する医療機関の認証等について概説。NIPT実施の際の情報提供に当たって、今後必要なこととしては、NIPTを検討している妊産婦等に適切な意思決定をしてもらうために、多様な職種の人が関わる支援体制の構築を挙げた。

「心のケア」をテーマに三つの講演

 その後は、「心のケア」をテーマとした三つの講演が行われた。
 白土なほ子昭和大学医学部産婦人科准教授は、同大学病院産婦人科で実施しているNIPTについて、全妊婦に対して検査情報を提供し、受検前には必ず遺伝カウンセリングを実施していることなどを紹介。「検査に関わる方は、NIPTで陰性の結果を得た後であっても、受検を後悔したり罪悪感を感じている女性もいることを心に留めておいて欲しい」と述べた。
 その他、一般女性、一般妊産婦、検査施設を対象に実施した調査で、(1)一般女性、一般妊産婦共に「NIPTを行った方が良い」と考えている人の割合は約15%であった、(2)NIPT選択者の特徴として、高年齢、ART(生殖補助医療)経験有り、高世帯年収、高学歴、海外経験が抽出され、不安傾向やうつ傾向を示す女性が受検しやすい―ことなどが明らかになったことを紹介。支援者も負担を感じていることも多いとして、ケアを担う医療スタッフの負担軽減策も検討する必要があるとした。
 管生聖子大阪大学大学院人間科学研究科人間科学専攻臨床心理学研究分野准教授は、人工妊娠中絶は、中絶実施を決めるまでの時間に限りがあり、「わが子の死」と捉えられやすく、当事者を追い詰めてしまう可能性があるとするとともに、「カウンセリングに当たっては患者の心の動きに思いを馳せながら話を聞くことが大事になる」と述べた。
 その上で、「心のケアには、医療スタッフだから、家族だから、友人だからできるケアがあり、多次元に行われることが理想であるが、全ての施設に臨床心理士などのスタッフがいるわけではないこと」「スタッフ間でも心理的なケアができる体制をいかにつくっていくか」が今後の解決すべき課題との考えを示した。
 石井慶子聖路加国際大学看護学研究科客員研究員は、20年間にわたる周産期喪失体験者への支援活動を基に、周産期喪失の悲嘆には「感情的反応」「認知的反応」「行動的反応」「身体的反応」があり、人によってその反応はさまざまであることを説明。患者の「多様な悲嘆」「困難」を支えるためには、グリーフケアでは直後の悲嘆を軽減することが難しく、「体験者の想いを聴く」「個別の状況を理解する」「状況に応じて丁寧な説明をする」「患者の願いを受け止め、支える」「心身の健康不安を支える」「悲嘆は長く続く場合もあることから、長期的な支援を行う」こと等が必要になると主張した。
 総括を行った相良洋子日本産婦人科医会常務理事は、「流産・死産・中絶を経験した女性への心理的支援」に関連する厚生労働省課長通知と事務連絡の内容を概説。女性への心理的支援に当たって、令和3年度子ども・子育て支援推進調査研究事業「子どもを亡くした家族へのグリーフケアに関する調査研究」で作成したリーフレットや手引きの活用を呼び掛けるとともに、産婦人科医には、(1)流産や死産、中絶を経験した女性には、心理社会的葛藤があることを認識しておく、(2)患者に対して、十分な情報提供を行う、(3)ゲートキーパーとして、専門的な支援につなげる手助けをする―ことなどが求められるとした。
 指定発言では、山本圭子厚労省子ども家庭局母子保健課長が「成年年齢の引き下げに伴い、母体保護法第3条但し書きの『未成年者』も『20歳未満』から『18歳未満』を指すことになったこと」「医療機関、障害者施設等における旧優生保護法に関連した資料の保全に関して、再依頼を行ったこと」等を説明。
 また、全都道府県・市町村の母子保健主管部(局)担当者を対象として実施した調査結果についても触れ、流産や死産を経験した女性やその家族に対して相談窓口を設置しているところが、前回の令和2年度よりも大きく改善していることなどを紹介した。
 その他、これまで都道府県等が実施していた「女性健康支援センター」「不妊専門相談センター」を令和4年度に統合し、「性と健康の相談センター事業」を創設したことを説明し、その活用を求めた。

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