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令和5年(2023年)3月5日(日) / 日医ニュース

「母子保健におけるメンタルヘルス、こころの問題」をテーマに開催

「母子保健におけるメンタルヘルス、こころの問題」をテーマに開催

「母子保健におけるメンタルヘルス、こころの問題」をテーマに開催

 令和4年度母子保健講習会が2月12日、日本医師会館大講堂で3年ぶりに対面で開催された。
 渡辺弘司常任理事の司会で開会。冒頭、あいさつに立った松本吉郎会長は、子育て支援に関する予算確保に向けて省庁の垣根を越えた議論が行われており、更に、本年4月にはこども政策に関する司令塔機能を担う「こども家庭庁」が創設されることに言及。「日本医師会として、次世代を担う子ども達の未来を見据え、実効性のある施策の実現に向け、引き続き積極的に政策提言を行っていく」との姿勢を示した。その上で、本講習会のテーマについても触れ、コロナ禍による社会環境の変化が、妊産婦のメンタルヘルスや子どものこころの問題に深刻な影響を与えていることがその背景にあると説明し、本講習会がその解決のために少しでも役立つことに期待感を示した。
 シンポジウムでは、福田稠熊本県医師会長/日本医師会母子保健検討委員会委員長、三牧正和帝京大学医学部小児科主任教授/同委員会副委員長が司会を務め、5名の講師による講演が行われた。
 「最近の母子保健行政の動き」と題して講演した山本圭子厚生労働省子ども家庭局母子保健課長は、産後のメンタルヘルスについて、母子保健事業としては、産婦健康診査事業に対し2回分の助成を行うようにしたことで事業実績が増加していることや、令和5年度から産後ケア事業を拡充し、利用者の所得にかかわらず必要な全ての妊婦に利用者負担の減免支援を導入すること等を報告。また、「成育医療等の提供に関する施策の総合的な推進に関する基本的な方針」の改定については、関係者の連携・協議・計画の策定支援等、都道府県による広域的な連携を国が支援することが盛り込まれる方向となっていること、母子健康手帳の見直しに関しては、実証事業の検証を行い検討していくことになったこと等を説明した。
 「周産期領域におけるメンタルヘルス―福田病院での実践を通して―」の講演では、大塚まどか社会医療法人愛育会福田病院臨床心理室主任が、医師、助産師、看護師、社会福祉士、公認心理士などの多職種による母子支援を行っている「母子サポートセンター」の取り組みを紹介。また、周産期の心理臨床について、妊娠・出産・育児に同行し、妊産褥婦(じょくふ)の心に寄り添い、母子を抱える器となることが求められているとして、その具体的な役割を説明した。
 「小児科領域におけるメンタルヘルスの諸課題」と題して講演した永光信一郎日本小児心身医学会理事長/福岡大学医学部小児科主任教授は、母子保健領域のメンタルヘルスにおける小児科医の役割としては、(1)母と子のサインに「気づき」と「つなぐ」、(2)発達障害/こども虐待/育児不安の理解、(3)こどもと親の睡眠について尋ねること、(4)乳幼児・学童・思春期の健診頻度について検討―などがあると指摘。(1)に関しては「周産期メンタルヘルスの知識」「クリニックスタッフへの教育」「産科・精神科・行政との連携」が重要になるとして、こころの診療の連携地図を紹介した。
 また、テレビ映像を用いて、発達障害の特徴を説明した上で、被虐待児と発達障害の症状が似ていることや睡眠と行動はリンクすること等を説明。更に、日米の乳幼児健診の回数を比較し、日本の乳幼児健診の頻度を増やすことを提案した。
 「女性のライフサイクルを意識したメンタルヘルス対応」の講演では、大坪天平東京女子医科大学附属足立医療センター心療・精神科部長・教授が、女性は男性よりうつ病になりやすく、その要因としては、心理社会的要因と性ホルモンの変動及び神経症的性格傾向が考えられると説明。その他、現在の女性は戦前と比較して月経回数が9倍多く、女性ホルモンの波にさらされていると指摘した上で、女性の性周期との関連性があるとして、月経前症候群(PMS)、月経前不快気分症候群(PMDD)や妊娠期・産後のうつ病、更年期のうつ病の診断基準や対応についても解説した。
 「大分県における医療機関(産婦人科・小児科・精神科)と行政の連携した取り組み事例について」では、河野幸治大分県医師会長/日本医師会母子保健検討委員会委員が、「大分県ペリネイタルビジット事業」「ヘルシースタートおおいた」に続き、平成28年度から行っている周産期メンタルヘルスケア体制整備事業「大分トライアル」を紹介した。
 その取り組みでは、産科医療機関においてメンタルヘルスチェック質問票を用いて精神的リスクのある妊産婦の早期発見に努めるだけでなく、ハイリスク妊産婦に対しては医療機関(産科・精神科・小児科)と行政との連携による受け皿を構築。特にハイリスクのケースでは、行政事業システムの整備強化、特に要保護児童地域協議会の対応が求められることから、今後も地域の多職種連携強化の取り組みを進めていく考えを示した。
 その後の討議では、シンポジストと参加者との間で活発な質疑応答が行われ、講習会は終了となった。

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