第11回「日本医師会 赤ひげ大賞」(日本医師会・産経新聞社主催、都道府県医師会協力、太陽生命保険特別協賛)の表彰式を3月3日、都内のホテルで開催し、来賓の岸田文雄内閣総理大臣は5名の赤ひげ大賞受賞者と15名の赤ひげ功労賞受賞者の功績をたたえた。 また、引き続き行われたレセプションには、秋篠宮皇嗣同妃両殿下がご臨席され、受賞者らと懇談を行った他、加藤勝信厚生労働大臣が祝辞を述べた。 |
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本賞は、現代の"赤ひげ"とも言うべき、地域の医療現場で長年にわたり、健康を中心に住民の生活を支えている医師にスポットを当てて顕彰することを目的に、平成24年に創設したもので、今回で11回目となった。新型コロナウイルス感染症の影響により、レセプションの実施は4年ぶり。
表彰式
表彰式では、冒頭の主催者あいさつで松本吉郎会長が、来賓の岸田総理を始め、多くの関係者の下で、表彰式を挙行できることに謝意を示した上で、コロナ禍によって地域で働くかかりつけ医の重要性が高まる中、今回の受賞者はいずれも、各地域において献身的に医療活動に従事し、患者からの信頼も厚い、まさに「現代の赤ひげ先生」であるとして、「その活動には一人の医師としても頭が下がる」とたたえた。
また今回、新たな試みとして、医学生にも選考に携わってもらったことを説明。「将来このような医師になりたいという視点から、受賞者の選考をして頂いたが、一人でも多くの学生に将来、地域医療に従事して頂けることを願ってやまない」と期待を寄せた。
来賓祝辞では、岸田総理が「受賞された皆さんは、小児医療、精神保健を始め、地域に密着した医療を実践して、地域医療を支えておられ、この受賞は、全国津々浦々で地域医療に携わっておられる医師の方々の励みとなる」と称揚。政府としては、地域において必要なかかりつけ医機能を確保する仕組みを設けるべく医療法の改正案を今国会に提出した他、新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置付けの5類変更に伴う公費支援は、段階的な移行を行うところであるとし、引き続きの協力を求めた。
その後、選考委員でもある黒瀨巌常任理事が、選考の経過として、昨年6月1日付で日本医師会より都道府県医師会宛てに推薦依頼文書を発出し、医学生を加えた選考委員で「候補者推薦書」による事前審査を行い、その結果を基に11月10日の選考会で受賞者を決定、本年1月11日に公表したことを報告。「選考には困難を伴ったが、受賞者には本賞にふさわしい方々を選考できたと考えている」と述べ、本賞が各地域の医師の励みとなり、地域医療の更なる充実や後進の育成へとつながることを期待するとした。
表彰では、5名の赤ひげ大賞受賞者の活躍をVTRでそれぞれ紹介した上で、主催者である松本会長が表彰状を、近藤哲司産経新聞社代表取締役社長がトロフィー並びに副賞を手渡し、各受賞者が謝辞を述べた(下段「大賞受賞者が喜びを語る」参照)。
その後は、赤ひげ功労賞の表彰に移り、15名の受賞者がスライドで紹介され、代表して佐賀県の朝長弘道医師に松本会長が表彰状を授与した。
閉会のあいさつに立った近藤産経新聞社社長は、「多くの人が100歳まで生きられる時代を迎えたが、国民一人一人の健康を支えるのは地域に深く根差した医療であり、その医療活動に携わる医師、地域医療関係者の皆様である。その崇高な使命感と行動力に改めて感謝と敬意を表する」として、更なる活躍に期待を寄せた。
レセプション
引き続き行われたレセプションは、約160名の参列者の歓迎の拍手の中、松本会長の先導により、秋篠宮皇嗣同妃両殿下をお迎えして開式した。
来賓の加藤厚労大臣は、3年を超える新型コロナとの闘いにおける尽力に謝意を示すとともに、「地域医療を支える先生方には、病気の治療だけでなく、地域の人々のさまざまな思いを受け止め地域での生活を支える、治し支える医療が求められている。年齢を重ねても健康を維持し、病気になっても重症化を防ぎ、住み慣れた地域で長く暮らすことができる社会を支えているのは、かかりつけ医の皆様方である」と祝辞を述べた。
選考委員でもある羽毛田信吾氏(恩賜財団母子愛育会会長)による乾杯のあいさつの後、秋篠宮皇嗣同妃両殿下は、受賞者、選考委員、医学生等のテーブルを回りつつご懇談され、長年の努力と取り組みの成果をたたえられた。
そして、喜悦(きえつ)の拍手が鳴りわたる中、再び松本会長の先導により、ご退場された。
その後、会場では、本事業に特別協賛している太陽生命保険の副島直樹代表取締役社長のあいさつと、「医学生から赤ひげ先生への質問」が行われた。質問コーナーでは、5名の大賞受賞者と、今年度、選考委員として参加した岩手医科大学の医学生4名、日本医師会の提供番組「赤ひげのいるまち」に出演した広島大学の医学生2名が登壇。医学生は感想や抱負を交えて質問を投げ掛け、各受賞者は自らの経験を踏まえ、患者が安心感を抱ける診療となるよう心遣いをしていることや、社会の背景まで含めて診る大切さなどを語った。
大賞受賞者が喜びを語る
大阪府の尾﨑眞理子医師は、15年前より小児科診療から子育て支援へと仕事を広げたとし、「つどいの広場には約7万7000組の親子が集い、保育士や心理士が見守る中、子育ての相談を受けてきた。病児保育室には1万2000人以上の子どもが入室するなど、少しは地域の子ども達や保護者のお役に立てていると思う」と謙遜。「この賞に恥じないよう、これからも小児医療と子育て支援に尽力していきたい」と述べた。
兵庫県の石島正嗣医師は、「45年前に開業した当初は精神科を標榜し、患者が来るか心配だった」と回想。地元での開業であったため、地域の人達の協力を受けつつ、障害者の援助などの福祉事業を展開する他、医師会で認知症の電話相談を立ち上げるとともに、精神疾患への理解を深めるための市民講座なども開催してきたとし、「現在は院長を娘に譲っているが、もう少し頑張っていきたい」と意気込みを語った。
徳島県の桜井えつ医師は、戦後、無医地区に赴任した父親を通して見た、医療の恩恵にあずかれない人達の姿や、昼夜を問わず患者に尽くす父の姿を自身の原点として、地域医療に邁進(まいしん)してきたことを説明。また、女性医師の活躍の場を広げるための活動にも取り組んできたとし、「一人前の医師になるためには多くの方々の支援や協力が必要だが、生涯医師を続けることが地域医療、社会への恩返しになる」と強調した。
大分県の藤野孝雄医師は、「故郷に戻って30年間、仕事に対する情熱の根底には、生まれ育った臼杵(うすき)や臼杵の人達が好きという思いがある」とし、自身の祖先も同じ地で約200年町医者を続けてきたことを紹介。糖尿病対策、認知症対策などにおける多職種との連携、在宅当番医制度の改革は一人でなし得たものではなく、行政や周囲の協力を得て、多くのハードルを乗り越えることができたとして改めて謝意を示した。
89歳と今回の最高齢受賞者である鹿児島県の大久保直義医師は、昭和45年に開業以来、保育園、特別養護老人ホームや介護老人保健施設、グループホームなどを立ち上げる中で、乳児から高齢者まで多くの人と接してきたことを回想。「自分自身が超高齢者となった今、人間の幸福とはそれぞれの年代で何らかの役割を与えられ、価値を認めてもらうことなのではないかと思う」とし、それが健康のもとにもなっているとした。
なお、当日の模様や大賞受賞者の功績などをまとめた小冊子『日本医師会 赤ひげ大賞 かかりつけ医たちの奮闘』は、『日医雑誌』6月号に同梱予定である。
「赤ひげ大賞」受賞者(5名)
順列は北から・敬称略
受賞者の年齢は2023年1月11日現在
尾﨑眞理子(おざき まりこ) 医師
71歳 大阪府 尾﨑医院 理事
中小規模の製造業が集積する中核都市で、30年にわたり小児医療に取り組み続けてきた。共働き家庭が多い地域で子育て世帯を支えるべく、平成19年に自己資金で地域子育て支援拠点事業として、主に乳幼児をもつ親とその子どもを対象とした「つどいの広場」を、翌年には「病児保育室ウルル」を開設。赤字が続く中、尾﨑医院がその運営を支え続け、開設以来14年間で12,000人以上の子ども達を預かっている。今後も子育て支援に真摯(しんし)に取り組む姿勢を示している。
石島 正嗣(いしじま まさつぐ) 医師
79歳 兵庫県 青心会メンタルクリニック 医療法人社団青心会 前理事長
昭和53年の開業以来、精神科医療が手薄な地域で精神保健分野を支えてきた。認知症や独居老人が社会問題化する前から着目し、平成4年に認知症電話相談事業を創設。24年間1人で市民の相談に応じ、適切な医療の提供や行政につなぐ大きな役割を果たしてきた。更に自らケアマネジャーの資格を取得した他、社会福祉施設の嘱託医や小中学校精神科コンサルタントを長きにわたり務めた。心や精神について正しい知識をもってもらうための講演活動なども続けている。
桜井(さくらい) えつ 医師
76歳 徳島県 住友医院 副院長
40年の長きにわたり、地域のかかりつけ医として、昼夜を問わず町内外の住民の医療及び疾病予防に献身的に取り組み続けてきた。農山村地域の特性のため、山奥などへの訪問診療もこなしている。また長年、小学校の校医や幼稚園の園医として、子ども達の健康増進に努めるだけでなく、学校保健の普及向上に貢献してきた。更に通常の医療活動の傍ら、女性医師が働きやすい環境の整備や性差を考慮した女性医療の推進を目指して積極的に活躍している。
藤野 孝雄(ふじの たかお) 医師
71歳 大分県 藤野循環器科内科医院 理事長・院長
平成5年に継承開業以来、少子高齢化が進む地域で、患者に寄り添う医療を続けている。夜間当番医には積極的に参加し、多職種と連携した在宅医療にも取り組んでいる。「臼杵市糖尿病ネットワーク」を発足させ、市内における腎症からの新規透析導入の減少に貢献。また、「臼杵市の認知症を考える会」を設立し、医師会、行政、大分大学神経内科と共同で認知症の啓発・早期発見・予防活動を続けており、科学的エビデンスを有する発症予防プログラムの開発につながった。
大久保直義(おおくぼ なおよし) 医師
89歳 鹿児島 希望ヶ丘病院 理事長
昭和45年の開業以来52年の長きにわたり、医療・介護・福祉の分野で患者に寄り添い、地域医療に貢献してきた。住み慣れた地域でその人らしい暮らしができるよう老健施設やグループホーム等を開設。講演会などを通じて、地域の健康教育にも力を入れてきた。学校医として学校保健活動に尽力した他、病院には専門の小児発達外来を設け、行政とも連携を図ってきた。昭和の生活道具や昆虫標本などを展示した「重富民俗資料館」も開設し、市民の交流の場を提供している。
「赤ひげ功労賞」受賞者(15名)
順列は北から・敬称略
中野 智紀(なかの ともき)(埼玉県)
新田 國夫(にった くにお)(東京都)
佐藤眞紀子(さとう まきこ)(神奈川県)
大瀧 達郎(おおたき たつお)(福井県)
野尻 眞(のじり まこと)(岐阜県)
水本 弘(みずもと ひろし)(静岡県)
清水 信(しみず しん)(三重県)
田代 博(たしろ ひろし)(京都府)
梅川智三郎(うめかわ ともさぶろう)(奈良県)
森本 忠雄(もりもと ただお)(広島県)
八木 正人(やぎ まさと)(香川県)
古賀 正昭(こが まさあき)(福岡県)
朝長 弘道(ともなが ひろみち)(佐賀県)
寺尾 敏子(てらお としこ)(熊本県)
嘉手苅 勤(かでかる つとむ)(沖縄県)