米国や欧州には、ナースプラクティショナー(以下、NP)という看護師の形態があることをご存じでしょうか。
NPは米国などで1960年代より発達してきた制度で、「診療看護師」や「開業看護師」と訳されることもあります。米国において、NPは自ら開業し、自己の判断で患者の対応をし、一部の薬剤処方もできる看護師です。
米国ではNPは医師過疎地域(米国は広いため、日本とは比較にならないほど医師過疎地域があります)における医療の担い手として定着してきた経緯があります。
日本では、看護師は訪問看護ステーションの開設が認められており、看護師が訪問看護を行うと医療保険と介護保険の請求をすることが可能ですが、訪問看護には医師の指示が必ず必要であり、自らの判断で行うことはできません。多くの国では看護師が医師に成り代わって診断をして、処方や処置を行うことはできず、当然ながら医療保険に請求することもできない仕組みになっています。医行為は医師のみが行えるのが先進国では一般的な考え方です。
しかし、医行為に当たる診断、処方、処置などを医師のみではなく、NPにも行えるように規制緩和をしようという考えがあります。医療費の伸びを抑えるために、医師による医療より安価な医療に道を開くという考えです。昨今のNPは前述の米国の医師過疎地域における医療の担い手とは少し違うニュアンスになってきています。
先進国、中進国ともに多くの国々は高齢者の増加や医療レベル向上により、医療費が上昇しており、これを抑制したい人達がこのような考えを主張し始めています。
フランスは20年ほど前までは日本と同じようなフリーアクセス、自由開業制を採用していました。ですが、医療費上昇を抑えるために、日本と同様のフリーアクセスに制限が掛けられ、住民が受診できる医療機関をあらかじめ登録する制度(いわゆるGP制度)が導入されました。
この登録制度が始まって約20年が経過し、住民が登録した開業医が引退することが増加してきました。
都市部では開業医も多いため、自分の「かかりつけ医」が引退しても代わりの医師を見つけることは容易ですが、地方では「かかりつけ医」が見つからないことも増えているようです。
また、フランスの医師は土日には休暇を取る、数週間のバケーションを取る、夜間は診療をしないことも多く、「かかりつけ医」に連絡が取れない、診療が受けられないということもままあるようです。
この数年、フランスでは新しい「かかりつけ医」が見つからない、「かかりつけ医」が休んでいるということが政治問題化し、コロナ禍でそのことが更に大きな問題となってきました(日本でも今回のコロナ禍における「発熱難民」をもって、診療拒否が起きたと言う人達がいますが、欧州での「診療を受けられない」という事態とはレベルが違います)。
フランスでは「かかりつけ医」が診察をした後に、補完的に診療をすることができるNPは以前から制度化されていましたが、2023年1月にNPに直接受診ができる制度「NPダイレクト」法が成立しました。
ただし、NPの数は医師に比べ二桁ほど少ないため〔医師数約22万人、NP 5000人(2023年度目標値)〕、シンボリックな対応とも思われます。
「NPダイレクト」は、すぐに大きなインパクトにはならないでしょうが、フランスにおいても徐々にNPは増加してくるでしょうから、開業医にとっては大きな問題となってくる可能性があります。
日本においてもNPの制度化を目指す人達がおり、今後も注視していく必要があると考えます。
(日医総研副所長 原祐一)
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