オーブンを使った料理を母がよく作ってくれていた。その中でも「ローストビーフ」は絶品で、デミグラスソースと、薄く切れば切るほどおいしい塊肉を、誕生日などにお願いして作ってもらっていた。肉の部位は「トモサンカク」。他の部位でもおいしいけれど、その部位だと格別。試行錯誤の末「トモサンカク」にたどり着いたのだと母は言っていた。
肉の周りにすりおろしたニンニク、塩こしょうをたっぷり塗り付け、オーブンに掛ける。デミグラスソースは必ずみじん切りのタマネギを妙め加える。母は仕上げにオーブンの受け皿に落ちた肉汁を加えていた。その味が忘れられず、さすがにガスオーブンは無理なので大きめの電子レンジみたいなウォーターオーブンを使って作る(家内に作ってもらう)。そのせいか肉汁が出てこないので、僕にはその「デミグラスソース」ができなかったが、家内がいろいろ味の調整をしてくれてその味は完コピされた。
ウォーターオーブンは「鶏の丸焼き」ができる大きさを基凖で選ぶ。中に詰め物をするとその詰め物に魔法が掛かるが、母が作ってくれていた詰め物はいまだ再現できない。パンの耳を詰めただけでも十分おいしいが、その詰め物と食べる鶏肉は本当に別格だったのだ。
「サーモンパイ」も普通のレシピにはない秘密があり(ゆで卵と春雨を入れるとおいしくなります!)、記憶をたどって大体同じ味ができるようになったが、最近サーモンが高くてなかなか作れません。「フランス風ハンバーグ」という、トマトソースにハンバーグを浮かせ、マッシュしたジャガイモを周りに回し、チーズを乗せてオーブンしたのもよく食べていたのですが、味の記憶をたどって、いつかその味を子どもに食べさせるのが一つの夢です。あと、「アルゼンチン風重ね焼き」のジャガイモとひき肉の重ね焼きも、もう食べられない母の伝説のレシピです。結構探しましたが、そのレシピは見付かりません。
母から子に伝承していく味は貴重な無形文化遺産だと思いますが、途絶えていくのが本当に残念です。これだけ便利なネット社会になっても、本をいろいろ探しても、レストランに行っても、無いものが本当にたくさんあります。長女が「レシピ教えてね」、と家内に言ってくれていたのがとてもうれしかった今日この頃です。