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令和5年(2023年)11月5日(日) / 南から北から / 日医ニュース

歴史は繰り返す

 2022年11月8日、皆既月食と天王星食の同時観測という400年ぶりの天体ショーがありました。皆既月食の際に惑星食が起きるのはとても珍しく、何と442年ぶりとのことです。
 その日、私はひそかに一人ワクワクしながら超特急で仕事を終わらせ、自宅に帰ろうとすると父から「今日皆既月食があるのを知っているか? 孫達はこのことを知っているか?」と興奮気味に電話がありました。私には小学校3年生と1年生の娘がいます。女の子はあまり興味がないだろうと思いながら帰宅すると、子ども達は学校で聞いてきたのか、貴重な天体ショーを見ようと張り切っています。私は、部屋からおもちゃの天体望遠鏡を引っ張り出し、子ども達と代わる代わるのぞき込みました。天王星が月に飲み込まれる瞬間を興奮しながら観察する長女を見ていると、過去の記憶と情熱が沸々と湧き上がってきました。
 1986年2月、私が10歳の時、ハレー彗星(すいせい)が地球に最接近した日、いつも忙しくしていた父が珍しく興奮して私を油山(あぶらやま)まで連れていき、望遠鏡をのぞき込みました。その時私は、父がなぜそこまで興奮しているのかも分かりませんでしたが、父と初めて2人で夜更かししたということがとてもうれしく、また帰りに食べたラーメンが格別においしく感じたことを思い出しました。それ以来私は宇宙の虜(とりこ)になりました。『Newton』という宇宙雑誌を読み込み、宇宙の誕生、ブラックホール、ダークマターなど宇宙の謎にのめり込み、小学校で宇宙博士と呼ばれるようにまでなり、「将来はNASAの飛行士になる!」と言っていました。両親も何となくうれしそうで、私に宇宙映画を見せてくれたり、宇宙雑誌を買ってくれてさりげなく応援してくれていたように思います。そんな私の夢も、1年後父が任天堂のファミリーコンピューターをわが家に持ち込んでしまったことであっという間に蒸発してしまいましたが......。そんな姿を見て父は何を思ったのだろうか。何となく寂しそうに見えたような。
 奇(く)しくも長女は今10歳。私が忘れてしまったあの夢を、情熱をこの子に、と淡い期待が芽生え、私は妻に頼んで庭に晩ご飯を用意してもらいました。この瞬間が、この味が、子ども達の記憶に残りますように。本当に楽しい時間を過ごすことができました。
 それから一カ月後、この原稿を書いている隣で娘達はニンテンドースイッチのスプラトゥーン3ではしゃぎ回っています。望遠鏡は......、ああ、あんな所に転がって......。気付くとあの時の父と同じ顔をしていました。

福岡県 筑紫医師会報 第221号より

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