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令和5年(2023年)11月5日(日) / 日医ニュース

高齢者雇用

 87歳になる母は、父が亡くなってから22年間、新幹線で一駅の隣町で、一人暮らしをしている。私が顔を出せるのも週に1回程度だ。
 5年前、母が82歳の時、会話がかみ合わないことに違和感を覚えた。母は友達と会うことも少なくなり、膝の痛みで日課の散歩もせず、テレビを見る毎日だと言う。「何とかしないと」と思った私は、当時、職員は十分にいたのだが「人が足りないので、診療所を手伝ってくれないか」と頼み、新幹線通勤で週5日働いてもらうことになった。母は結婚以来、働いたことが無いので心配はあったものの、背に腹は代えられない。
 心配は良い方に裏切られた。不思議なことに膝の痛みも消え、朝から夕方まで見事な仕事ぶりである。台風や大雪で新幹線が止まりそうな日は「来なくていいよ」と言うのに、内緒でホテルを押さえて前日入りする。
 休憩以外は手を休めることもなく、庭掃除、洗濯、給茶機や軽食の準備、シュレッダー、番号札の整理等、自ら仕事を探しては黙々とこなし、「仕事が楽しくて仕方ない」と言う。
 初めは「理事長の親だから無理して頑張っているのだろう」と思ったが、さすがに5年間は続かない。
 父の入院の際、外科の師長が「これほど献身的に尽くした人を見たことがない」と言ったのを思い出した。これが母の本当の姿なのだ。
 ある時、看護師の仕事の一部を手伝いたいと言った母に「それは無理」と答えると、「父さんが亡くなった後、看護学校に行けば良かった」と嘆いた母を見て、「本当に良い看護師になっただろうな」と思った。

(グレートさくら)

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