日本医師会は11月10日に三師会で、15日には四病協と相次いで合同記者会見を行い、令和6年度診療報酬改定に向けて、適切な財源の確保を求めた。
三師会合同記者会見
松本吉郎会長は令和6年度診療報酬改定について、「議論が本格的に動き始めているが、現在、医療界の中を分断するような動きがある」と指摘。そうした中で、日本医師会、日本歯科医師会、日本薬剤師会の三師会がそろって会見したことに関しては、「医療界が一体・一丸となって、診療報酬改定の大きな方向性において、声を一つにして歩んでいくべきという強い思いがあったからだ」と説明した。
次に、賃上げについては、今年の春闘で平均賃上げ率3・58%、人事院勧告では3・3%の上昇が示されていることに触れ、「医療界においても、これらと匹敵する賃上げを実現し、岸田文雄内閣総理大臣が掲げる『賃上げ』という国の重要政策を踏まえて、更に加速すると見込まれる来春の春闘にも匹敵する対応が必要」とするとともに、全従事者数の13・5%にも上る医療・介護就業者約900万人に対し、公定価格の引き上げを通じて賃上げ対応をすることは、わが国全体の賃金上昇と地方の成長の実現につながり、経済の活性化も見込めるとの見方を示した。
物価高騰対応に関しては、「30年近く類を見ない物価高騰の局面を迎えており、今後も続くことが見込まれる。一時的な支援ではなく、恒常的な対応が必要」と主張。公定価格により運営する医科医療機関、歯科医療機関、薬局等は上昇分を価格に転嫁することができないことから、国民の生命と健康を守るため、医療・介護分野における物価高騰、賃金上昇に対する取り組みを進め、質の高い適切な医療・介護を安定的に国民に提供する必要があるとした。
更に、そのためには、最低限人事院勧告3・3%に匹敵する賃上げ、物価高騰、加えて日進月歩する技術革新への対応のための十分な原資が必要不可欠であると指摘。今後、令和6年度診療報酬改定に向け、原資となる適切な財源の確保をしてもらうためにも、本会見の内容を踏まえた要望書(『令和6年度診療報酬改定に向けて』)を取りまとめ、三師会が一体となって政府・与党に働き掛けを行っていく方針を示した。
続いて、意見を述べた高橋英登日歯会長は、まず、財政制度等審議会財政制度分科会(以下、財政審)の「医療機関は疲弊していない」という旨の主張に対し、強い不快感を示すとともに、「現場のことを見ていないのではないか」と指摘。令和6年度診療報酬改定をマイナス改定にすべきという主張に反論した。
また、コロナ禍において国が行ったさまざまな支援について、あくまでもコロナと闘うための費用であったことを強調。こうした支援を基に、コロナと闘い収束させたとした上で、「医療界のための原資という誤解をして欲しくない」と述べた他、歯科材料に関して円安による負担増や感染予防策で急増した医療廃棄物の処理が大きな負荷となっていることを説明した。
山本信夫日薬会長は、日薬の調査では、令和4年度の薬局の賃金ベースアップ率は、全産業のアップ率に遠く及んでいないこと、及び直近の医療経済実態調査では、約30%の薬局が赤字であったことを紹介。「ベースアップができる状況にはない」と強調するとともに、一部の大型薬局を除き、大半を占める中小薬局では人材確保にも窮しているとした。
その上で、医薬品が必要な方に適切に届くという保証がなくては、国民が安心して働くことや、健康不安を解消することもできず、国が目指す経済活動の更なる活発化も望めないとの見方を示し、適切な財源の確保を求めた。
日本医師会・四病協合同記者会見
松本会長はまず、今回、四病協と声明を取りまとめるとともに、合同記者会見を行った意義について、「財務省による医療界を分断するような動きがある中で、診療報酬改定の大きな方向性において、医療界が一体・一丸となって、声を一つに歩んでいくべきとの強い思いがあったからだ」とした。
また、物価高騰への対応については、緊急避難的な対応だけでなく、恒常的な対応が必要とした他、公定価格により運営する医療機関等は、物価高騰、人件費等の上昇分を価格に転嫁できないことを指摘。11月10日に閣議決定された補正予算において、入院中の食事療養等への新たな対応や光熱費等の物価高騰への継続支援が取りまとめられたことについても、「あくまでも当面の対応であり、今後、診療報酬改定でしっかりと対応して欲しい」と述べた。
その上で、松本会長は、「国民の生命と健康を守るためには、医療・介護分野における物価高騰・賃金上昇に対する取り組みを進め、質の高い適切な医療・介護を安定的に提供しなければならず、そのためには、人事院勧告3・3%を大きく上回る賃上げと、物価高騰、日進月歩する技術革新に対応できる十分な原資が必要不可欠」と主張。今後は、令和6年度診療報酬改定に向けて、大幅な診療報酬引き上げの改定となるよう、本会見の内容を踏まえた声明をもって、病院団体を始めとする医療界が一体・一丸となり、政府・与党に対して働き掛けを行っていく姿勢を示した。
島弘志日本病院会副会長は、日病からの意見として、物価高騰や賃金上昇などにより、病院では経営環境の厳しさが増していることから、令和6年度診療報酬改定においては、特に入院基本料の引き上げを強く要望する考えを表明。全国の病院から入院基本料の引き上げに関する嘆願書を募ったところ、日本の病院の半数以上から嘆願書が提出されたことを明らかにし、日本中の病院からの悲痛な訴えと捉えているとの認識を示した。
その上で、財政審において、診療報酬の本体をマイナス改定とすることが適切とされたことに対して、「仮に入院基本料の引き上げがなされなかった場合には、人件費や設備維持費などの費用を制限することにつながり、その結果、入院医療の質を担保できなくなる」との懸念を示した。
猪口雄二全日本病院協会長は、まず、本年10月以降の重点支援地方交付金の措置が講じられたことに謝辞を述べるとともに、来年4月以降の改定においても、同様の措置または診療報酬改定がなされることを強く要望。その一方で、重点支援地方交付金は、その使い道の決定権が都道府県にあるため、地域によって差があることを指摘し、都道府県に対して、確実に各医療機関に補助を行うよう求めた。
加納繁照日本医療法人協会長は、民間病院の立場から医療機関の窮状を解説し、「2023年では医業利益率マイナス1・2%を下回り、ほとんどの民間病院で赤字が出てくる」とするとともに、このまま赤字経営が数年続けば、日本の医療を支えている民間病院が閉院してしまい、医療体制が崩れてしまうとの危機感を示し、「次回の診療報酬改定では、これまでにない大幅なプラス改定を求める」と強く要望した。
長瀬輝諠日本精神科病院協会顧問は、医療機関への支援として、光熱費関係、食材料費関係が重点支援地方交付金の対象に加えられたことに関して、日本医師会や厚労省などに対して謝意を述べた上で、物価高騰に係る対応及びコメディカルの賃金の引き上げについて解説した。
また、財務省が、新型コロナ対応で医療機関は潤沢に内部留保があると喧伝(けんでん)し、内部留保から賃金引き上げ分の原資を賄うよう主張していることに触れ、「内部留保のある医療機関はほとんど無く、あってもごく一部である」と反論。松本会長が以前の会見で「ストックは賃上げの原資とするものではなく、フローによって賃上げを行うべき」と述べたことに賛意を示し、「持続的な賃上げを行うためには診療報酬での対応が最適である」として、大幅なプラス改定を要望した。
その後の記者との質疑応答の中では、日本医師会と四病協の役員は口をそろえて、「役割分担の違いはあるけれども全ての病院と診療所はしっかり連携して、患者に対して一連の治療を行っており、分断した評価はあり得ない」と強調した。