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令和6年(2024年)2月5日(月) / 南から北から / 日医ニュース

手術は楽し♪♪

 もう現役を退いて久しいのですが、手術場は自分にとって趣味と実益を兼ねた最高の仕事場でした。エピソードにも事欠きません。二つほど紹介したいと思います。
 手術場の天井には、無影灯といって、術野にできるだけ影を作らないように、一つの親機の中にいくつかのライトを組み合わせた照明器具が、二つ程つるしてあります。外科の手術は3~4人で、それこそ額を突き合わせて一つの術野を見つめるのですが、30~40年前は、白熱灯で照度も低かったのです。手術場には、"外回り"の看護師さんがいて、滅菌された手術器具を出したり、ガーゼのカウントをしたり、無影灯の角度調節をしていました。
 その頃、消化器外科の手術といえば、私、T先生、S先生が集うことが多かったのです(名誉のために名は伏せておきます)。
 「今日は暗いなあ。無影灯、調節してよ」
 「これでどうですか」
 「まだ暗いなあ」
 「これでは?」
 「まだまだ暗いぞ。何とかならんのか」
 きっと頭にきたのでしょう、看護師さん曰く、
 「先生達の頭が大きすぎるんですよ!」
 「......我慢するかぁ......」
 今は、LEDとやらになり、術者が自分で焦点などを調節するようになっています。きっといらついた看護師さんの"パブリックコメント"が大きかったのでしょう。
 手術場には、場面に応じて手術器具を手渡す"器械出し"と呼ばれるもう一人の看護師さんがいます。ベテランとなると、術野を絶えず見ていて、場面場面に応じて適切な器械を手渡してくれます。
 ただ、このような場面に遭遇することはめったに無く、大抵は、「コッヘル」「メイヨ」「メッチェン」などと術者が口頭で指示して、手渡してもらいます。術者の方も手渡された手のひらの感覚で、何を持ったかが分かります。が、使いたい器械の名をど忘れすることもたまにあります。断っておきますが、当時はまだ、"たまに"です。その時は、仲の良い(?)夫婦の会話よろしく、「あ、あれじゃ」と言ってしまいます。看護師さんの方も、「これかな?」といくつか順番に手渡します。
 「違う、あれじゃ」
 「これかな?」
 「ちがう、あれじゃ!」
 しばらくあって、次に手渡された手のひらには、何やら生温かいものが......。
 「んっ、これは何か??」
 よほど困ったのでしょうね、見ると私の手のひらの中には、看護師さんの手があったのでした。一気に場が和んだのは言うまでもありません。アフターファイブも大盛り上がりでした。
 手術場は厳格な場所で、それなりに張り詰めていましたが、日常の癒やしもまた手術場にありました。

愛媛県 松山市医師会報 第351号より

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