大曲センター長
大曲センター長
国民向けシンポジウム「新たな感染症に立ち向かうために~新型コロナの教訓を踏まえて~」をこのほど無観客で行い、その模様を収録した動画を2月下旬から日本医師会公式YouTubeチャンネルで公開した。
本シンポジウムは、日本における新型コロナウイルス感染症への対応を振り返り、全国の医師を始めとした医療従事者並びに関係者の努力によって、諸外国と比べて新型コロナによる人口当たりの死亡者数が低く抑えられるなど、世界有数の実績を達成できたことをアピールするとともに、今後の課題や対策について国民と共に考え、共有しておくことで、いつ起きるか分からない新たな感染症に備えていくことを目的として開催されたものである。
冒頭、ビデオメッセージであいさつした松本吉郎会長は、「諸外国に比べて、コロナによる日本の人口当たりの死亡者数や陽性者の致死率が低く抑えられた要因の一つには、国民の皆さんの協力ばかりでなく、医師を始めとした多くの医療従事者達が、休日・昼夜を問わず、感染者の検査や治療、ワクチン接種などに取り組んだことがあったことを忘れてはならない」と強調。今後いつ起きるか分からない新たな感染症に国民と医療従事者が一体・一丸となって対応していくためにも、今回のシンポジウムをぜひご覧頂き、正しい情報を知ってもらいたいとした。
3名の演者が講演
続いて、三題の講演が行われた。
大曲貴夫国立国際医療研究センター病院副院長/国際感染症センター長はコロナ禍を振り返り、日本のコロナへの対応は世界からも的確であったと評価されていることを紹介。その上で、この評価は、国民の協力なしには実現できなかったと強調した。
コロナ禍を経験して学んだことについては、「パンデミックは国家の危機管理として対応する必要があることだ」と指摘するとともに、日本に足りなかった点として、(1)平時の備え(パンデミックとパンデミックの間で次にどう対応すべきかという備え)、(2)変化する状況へのより適切な対応、(3)正確な情報発信と共有―の3点を挙げ、その詳細を説明した。
(1)では、検査や医療提供、ワクチン接種について、より柔軟かつ強固な体制の構築が必要だったとした他、国と都道府県等との連携、感染症の専門人材や医薬品の研究開発に対する投資の不足、デジタル化の遅れを指摘。(2)では、感染拡大の波が何度も押し寄せ、その都度変わっていく状況の中で、適切なタイミングで柔軟な対応ができたとは言えなかったとした。
更に、(3)では、情報共有の重要性を強調するとともに、「適切な情報をいかに伝え、国民にいかに納得してもらえるかが国の感染対策の成功のカギになると言っても過言ではない」と述べた。
森井大一日医総研主席研究員は、昨年5~6月に掛けて行った欧州医療調査の結果を基に、欧州3カ国と日本の違いについて解説した。
まず、①イギリスでは、登録制のかかりつけ医(GP)がコロナ対応を行わなかったため、高度急性期入院医療を担う病院に患者が集中してしまった②ドイツでは、病院の病床機能を守るために診療所が防御壁となって、コロナ患者に対応した③フランスは、第1波においてはイギリスと同じ対応であったが、第2波では一般の開業医が声を上げ、方針を転換した―ことなどを紹介。コロナのような新興感染症に対しては、どの機能をどこで担うのかをあらかじめ考えておく必要があると指摘した。
また、危機対応を考えるに当たっては、中央統制を強めれば強めるほど、関わる医療機関の数が減るという「危機対応のパラドックス」を認識しておく必要があるとした。
釜萢敏常任理事は、これまでの日本医師会の対応として、「COVID―19JMATの創設・派遣」「感染防止対策を実施して医療機関が掲示するための『みんなで安心マーク』の制作」「新型コロナワクチン接種推進への協力」などを説明。
今後の新興感染症への取り組みについては、まずは封じ込めが大事になるとし、その中心的な役割は感染症指定医療機関が担うべきであり、その間に可能な限り多くの医療機関が対応できるように準備をしておくことが重要になるとの認識を示した。
診療所の役割については、診療所を新たに開設するような場合は、ゾーニングや隔離スペースを設けることが求められるとするとともに、そのための国の支援も必要になると指摘。日本医師会としても診療所を対象とした感染症対応の研修を行うなどして、その対応力の維持・向上を目指すとした。
パネルディスカッション
その後のパネルディスカッションでは、これまでのコロナ対応を振り返るとともに、未知の感染症について今後どう対応していくべきなのかなどについて、演者の間で活発な討議が行われた。
釜萢常任理事は、会員の先生方や医師会から提供を受けたコロナの診療風景などを写した写真を、本シンポジウムの冒頭に続き紹介。「これらの写真からも、多くの医療従事者が国民の生命と健康を守るために従事したことは明らかだ」と指摘した。
また、今後については、新興感染症が起きた時にどのように対応すべきか日頃から考える習慣を身につけることが求められるとした。
大曲センター長は、政府の対応として、「内閣感染症危機管理統括庁」が、また厚生労働省に「感染症対策部」がそれぞれ設けられた他、「行動計画」の見直し作業も進められていることを紹介。その他、「各自治体でも情報が提供されるようになっているが、正しい情報がさまざまな方々に届けられるようにすることが大事になる」と述べるとともに、子どもの時から感染症教育を受けられる機会を増やすことも必要なのではないかとの考えを示した。
森井主席研究員は、パンデミックと言っても平時の延長として対応を考えていく必要があると指摘。そういった意味においても、国民が信頼できるかかりつけ医をもつことが重要になるとした。
更に「医療機関で院内感染が起きた場合に、その施設を非難することは慎重であるべき」と述べるとともに、情報を正しく活用するメディアリテラシーを身に付けるよう呼び掛けた。
なお、今回のシンポジウム開催に当たっては、初の試みとして、日本医師会LINE公式アカウントを友だち登録されている方から演者への質問を募集。250を超える質問が寄せられ、その一部については3名の演者から回答を行った。