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令和6年(2024年)4月5日(金) / 南から北から / 日医ニュース

人間VSスギナ

 私の趣味は草むしりである。あっそれじゃうちの裏庭の雑草を抜いてもらおうかな?などと思われると困るので断っておくが、うちの庭の草むしりである。
 趣味というと「渓流釣りです」とか「ピアノでございます」とか言うと、「おーさすが高尚な趣味をお持ちですね」と言われて会話が弾むのだが、草むしりと言うとアホかと思われてしまう。罰ゲームとかシルバーとか何か奴隷労働のようなものを連想されるらしい。しかし、そもそも趣味ってやっていて楽しければ何でもいいのではないのかな。
 草むしりを無心にやっていると、般若心経を唱えているように(般若心経のことはよく知らないが)雑念が払われ(多分)精神衛生上すこぶるよろしい。小さな草だと思って抜いたら思いもよらず長くしっかりした根がズルズルと丸ごと取れた時などは、この上ない喜びである。ちょうど耳かきをしていて思いもよらぬでかい耳あかが取れた時の喜びと同じものである。そういう意味で耳かきを趣味として扱っても悪くはないのだが、そんなでかい耳あかが毎日取れるような人は喜ぶ前にまず耳鼻科に行った方がいい。
 それと反対に、引き抜こうとして茎と根の間がぶちっと切れて根が残った時などは本当に悲しい。だから草むしりはゆっくりと腰を下ろして草を一本一本抜いているのだ。ヒマ人と言わば言え。私に言わせると、雑草を束にして力でめりめりと全部抜こうとするなんてあり得ないことなのだ。電動草刈り機なんて論外ね。一草入魂である。
 大抵の雑草はオオバコとかメヒシバなどのように、生命力があってタイヤにひかれてもへっちゃらなんであるが、それでも一度ひっこ抜けばそれで終わりである。でも中には、小さいくせに抜いても抜いてもまた生えてくるゴキブリのようにしつこいやつらがいる。スギナとドクダミである。
 ドクダミは深い所に根のネットワークを張り巡らせ、コンクリートの割れ目からでも生えてくるゾンビのようなやつである。おまけに臭い。ただドクダミは性格が悪いためか日陰を好むため、私の大事な芝生には生えてこない。
 問題は日陰だろうが日なただろうがどこにでも生える雑草界の総番長、ラスボス・スギナである。こいつもドクダミ同様地下の深い所に根を張って、抜いても抜いても次の日にはまた生えてくる最強最悪の雑草である。まず私の経験では除草剤は無効。毎年うちの病院の中庭に勝手に生えてくるため超強力除草剤を原液で撒(ま)いているが、翌年また元気に生えてくる。除草剤をエサにしているとしか思えない。このスギナが私の芝生にはびこっているのだ。
 これを私は毎日見付け次第引っこ抜いている。無造作にやると芝も一緒に抜いてしまうので、一本一本精神集中してスギナのみを抜くようにしている。うまくいくと長い根と地表部で枝分かれしたスギナがまるで珊瑚(サンゴ)のように良い形で抜くことができる。実に喜ばしい。立派な珊瑚が取れたらスマホで記録している。魚拓のようなものかな。
 これを私は毎朝やっている。モグラたたきのようできりがないが、そのうちスギナが根負けして「参りました」「もう勘弁して下さい」と言うまで続けるのだ。一生かも。

福島県 会津医師会報 通巻699号より

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