第12回「日本医師会 赤ひげ大賞」(日本医師会・産経新聞社主催、都道府県医師会協力、太陽生命保険特別協賛)の表彰式を3月1日、都内のホテルで開催し、地域住民の健康の保持増進とまちづくりに尽力してきた5名の赤ひげ大賞受賞者と14名の赤ひげ功労賞受賞者の功績をたたえた。
また、引き続き行われたレセプションには、秋篠宮皇嗣同妃両殿下がご臨席され、受賞者らとの懇談が行われた。
本賞は、現代の"赤ひげ"とも言うべき、地域の医療現場で長年にわたり、健康を中心に住民の生活を支えている医師にスポットを当てて顕彰することを目的に、平成24年に創設したものである。
前回より、赤ひげ大賞の選考に地域医療を志す医学生の視点も反映させることとし、今回は選考委員として岐阜大学と佐賀大学の医学生が加わった。
表彰式
表彰式で主催者あいさつに立った松本吉郎会長は、令和6年能登半島地震に触れ、「今年は大変心痛む幕開けとなった。本会では、発災直後から都道府県医師会の協力の下、『JMAT』という日本医師会災害医療チームを派遣しているが、今後の復興には何よりも、地域に愛情をもって尽くす医師の存在が欠かせない」と強調。
その上で、19名の受賞者について、「いずれも、各地域において献身的に医療活動に従事され、患者さんの信頼も厚く、地域にとって欠かすことのできない方々ばかりで、一人の医師として改めて心から敬意を表する」と述べ、日本医師会としても引き続き、地道に地域医療を守っている医師達の活動を支えていくとした。
来賓祝辞では、公務で出席がかなわなかった岸田文雄内閣総理大臣がビデオメッセージを寄せ、「受賞された皆さんは、おのおのの地域において、在宅医療や救急医療を始め、地域の生活と密着して地域医療を支えて頂いている。崇高な使命感と行動力はまさに現代の赤ひげ先生であり、今回の受賞は、全国津々浦々で地域医療に携わっておられる医師の方々の励みとなるものである」と称賛。政府としては、地域ごとに必要な医療を必要な時に受けられる体制を確保するため、昨年5月の医療法改正を踏まえ具体的な制度設計の検討を深めていくとし、「受賞された皆様の取り組みがさまざまな地域で広がっていくよう後押ししたい」と述べた。
その後、選考委員でもある黒瀨巌常任理事が、選考の経過として、昨年6月1日付で日本医師会より都道府県医師会宛てに推薦依頼文書を発出し、選考委員で「候補者推薦書」による事前審査を行い、その結果を基に11月9日の選考会で受賞者を決定、本年1月10日に公表したことを報告。「受賞された先生方は長年にわたり、地域住民の健康確保のために親身に取り組んでこられた方々ばかりであり、選考には困難を伴ったが、最終的には本賞にふさわしい方々を選考できたと考えている」と述べ、本賞が各地域の医師の励みとなり、地域医療の更なる充実や後進の育成へとつながることを期待するとした。
表彰では、5名の赤ひげ大賞受賞者の活躍をVTRでそれぞれ紹介した上で、主催者である松本会長が表彰状を、近藤哲司産経新聞社代表取締役社長がトロフィー並びに副賞を手渡し、各受賞者が謝辞を述べた(下段「「大賞受賞者が喜びを語る」参照)。
引き続き、赤ひげ功労賞の表彰に移り、14名の受賞者がスライドで紹介された後、代表して鳥取県の森本益雄医師に松本会長から表彰状が授与された。
閉会のあいさつに立った近藤産経新聞社社長は、「日本では人生100歳時代が到来しつつある。医療に求められる役割は病を治すだけでなく、健康に暮らしていくことができる時間をいかに長くすることができるかにまで広がっている」とした上で、その成否は地域医療を担うかかりつけ医が握っているとの認識を示し、更なる活躍に期待を寄せた。
レセプション
引き続き行われたレセプションは、約180名の参列者の歓迎の拍手の中、松本会長と近藤産経新聞社社長の先導により、秋篠宮皇嗣同妃両殿下をお迎えして開式した。
来賓祝辞では、武見敬三厚生労働大臣(三浦靖厚労大臣政務官代読)が、「地域医療には病気の治療だけではなく、地域の人々のさまざまな思いを受け止め、地域での生活を支える、治し支える医療が求められている。そしてそのような住み慣れた地域での生活を支えているのが、かかりつけ医の皆さんである」と述べ、厚労省としてはそのかかりつけ医機能が十分発揮されるよう、制度面から支えていく意向を示した。
選考委員でもある羽毛田信吾氏(恩賜財団母子愛育会会長)による乾杯のあいさつの後、秋篠宮皇嗣同妃両殿下は、受賞者、選考委員、医学生等のテーブルを回りつつご懇談され、長年の地域住民への献身と功績をたたえられた。
そして、喜悦の拍手が鳴りわたる中、再び松本会長らの先導により、ご退場された。
その後、会場では、本事業に特別協賛している太陽生命保険の副島直樹代表取締役社長のあいさつと、「医学生から赤ひげ先生への質問」が行われた。
質問コーナーでは、5名の大賞受賞者と、選考委員として参加した岐阜大学の医学生5名、佐賀大学の医学生4名が登壇。地域医療を志す医学生からの質問に、受賞者は自らの経験を踏まえ、体力づくりの重要性や地域医療ならではの喜び、多職種それぞれと同じ目線でチームづくりをする大切さなどを語った。
大賞受賞者が喜びを語る
千葉県の清水三郎医師は、開業以来、産婦人科と救急外来を中心に地域医療に向き合う中で2006年に夜間救急医療体制の崩壊が起きたとし、行政と協力するとともに住民とも対話を重ねて夜間救急の維持・再生を実現したことを述懐。更に、育児の不安を背景とした安易な救急車利用の状況を変えるべく、未就学児の保護者に対して子どもの救急講習会を開催し、適正受診への理解を得てきたとし、今後も続けていく姿勢を示した。
岐阜県の安福嘉則医師は、「診療所が本当に安心できるよりどころでありたいと思っていた」とし、そのために、何かあれば診療時間外でも頼れる存在であるよう、また、目の前の患者を心から受け止めるよう心掛けてきたと強調。一方で、医師である自身が患者に思いやられていた面もあったとし、「個人的な損得や好き嫌いの感情からの行動ではなく、真心を尽くすことでお互いが幸せになれる」との持論を述べた。
愛知県の亀井克典医師は、恩師の言葉を受け、どのような立場になっても現場を離れないこと、24時間365日、主治医になった患者や家族のことを考えて行動することを肝に銘じて歩んできたとし、管理者や経営者となった後も臨床現場に立ち続けてきたことを紹介。「今、医師の働き方改革が叫ばれている。オンとオフの切り替えは大事なことではあるが、臨床医の原点は患者さんやご家族に常に寄り添い続けることである」と強調した。
奈良県の武田以知郎医師は、自治医科大学を卒業後、最新の医療を携えてへき地を良くしようと張り切って臨んだ地域医療を通じて、「病を診る、人を診る、地域を診るということを教えてもらった」と回顧。孤独になりがちな状況を改善すべく、代診のシステムやインターネットを用いた情報共有、地域医療の研修受け入れなどに取り組んできたことにも触れ、「今回の受賞を契機として、今後は地域医療の面白さを若い医師達にも伝えていきたい」と述べた。
福岡県の北野明子医師は、小児科医としての48年の経験を基に、「"子どもの疾患は感染症が主で育児は母親"という時代から、"アレルギー疾患や心身症が増え、育児も両親で"という時代に変化しつつある」と振り返った上で、保護者の負担軽減や子どもの健やかな成長に寄与すべく、病児保育施設、親子支援館、保育園を開設してきたことを説明。「今後も、子ども達の輝かしい未来のために寄り添っていきたい」と意気込みを語った。
なお、大賞受賞者の功績や当日の模様などをまとめた小冊子『日本医師会 赤ひげ大賞 かかりつけ医たちの奮闘』は、『日医雑誌』5月号に同梱予定である。
「赤ひげ大賞」受賞者(5名)
順列は北から
受賞者の年齢は2024年1月10日現在
清水 三郎(しみず さぶろう) 医師
84歳 千葉県 清水三郎医院 院長
昭和56年の開業以来、千葉県内の医師数が最も少ない医療圏で医療に従事。地域の課題であった二次救急医療体制の空白日解消に取り組み、破綻(はたん)の危機に瀕(ひん)していた夜間救急医療体制の拡充に尽力してきた。平成21年からは、小学校入学前の小児の保護者を対象にした「子どもの救急講習会」を開始。夜間に子どもの具合が悪くなった時の対処方法や適正受診の必要性などについての理解を広げ、夜間救急診療所で働く医療従事者の負担軽減にもつながっている。
安福 嘉則(やすふく よしのり) 医師
76歳 岐阜県 関市国民健康保険洞戸診療所 医師
医師の定着しなかった山間地域の国保診療所に腰を据えるべく居を構え、以来41年間にわたり地域医療に心血を注いできた。隣接市町村への往診、訪問看護体制の整備や在宅医療、リハビリテーションの強化、学校保健にも取り組む。患者と医師・医療スタッフなどによるカラオケ大会の他、地域の伝統食文化を掘り起こした生活習慣病に対する食生活改善も展開。平成19年に自身が患った胃腫瘍も乗り越え、なお一層、地域住民とのふれあいを大切にしている。
亀井 克典(かめい かつのり) 医師
66歳 愛知県 かわな病院在宅ケアセンター センター長
医師不足地域の公的病院での勤務を経て出身地の名古屋に戻り、在宅医療を中心に地域医療・介護連携による都市型地域医療の構築に尽力。多職種ICT連携ツールを普及させ、かかりつけ医相互支援による在宅看取りサポートシステムを実現させた。平成31年には総合的な在宅ケア提供の拠点として在宅ケアセンターを設立。現在、訪問診療の患者数は800名、在宅看取りは年間250名を超える。在宅ホスピスにも取り組み、地域全体の緩和ケアの質の向上にも貢献している。
武田以知郎(たけだ いちろう) 医師
64歳 奈良県 明日香村国民健康保険診療所 管理者
自治医科大学を卒業後、へき地など一貫して奈良県内の地域医療に従事。初期研修医や総合診療専門医の地域研修など、後進の育成にも積極的に携わる。平成22年に同県明日香村に着任してからは村民のかかりつけ医として尽力、「イチロー先生」と呼ばれるなど、村民の信頼も厚い。在宅医療、多職種連携、医学教育、ACPなど地域医療をめぐる課題解決にも取り組み、令和5年には、同村の人々の暮らしを守る姿がドキュメンタリー映画にもなった。
北野 明子(きたの あきこ) 医師
72歳 福岡県 きたの小児科医院 院長
九州大学を卒業し、小児科講座に入局後、福岡市立こども病院・感染症センターで研鑽(さん)、南アフリカ共和国への留学を経て、昭和61年に開業し、一貫して小児医療に従事してきた。自身も3人の幼い子どもを育てながら、保育園児の生活習慣病予防健診や予防接種の啓発活動にも取り組み、平成12年には地域で初めてとなる病児保育室を開設。令和3年には病児保育室併設の企業主導型保育所「ピッコロ保育園」を設立するなど、多職種連携による子育て支援を実践している。
「赤ひげ功労賞」受賞者(14名)
順列は北から・敬称略
横倉 稔明(よこくら としあき)(茨城県)
水上 潤哉(みずかみ じゅんや)(神奈川県)
河合 邦夫(かわい くにお)(福井県)
原(はら) まどか(山梨県)
疋田 順之(ひきた のぶゆき)(静岡県)
前沢 義秀(まえざわ よしひで)(三重県)
片山 久史(かたやま ひさし)(京都府)
松尾 晃次(まつお こうじ)(和歌山県)
森本 益雄(もりもと ますお)(鳥取県)
松下 明(まつした あきら)(岡山県)
梶原 四郎(かじはら しろう)(広島県)
洲﨑日出一(すさき ひでいち)(徳島県)
西 征二(にし せいじ)(鹿児島県)
松嶋 顕介(まつしま けんすけ)(沖縄県)
お知らせ |
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第12回「日本医師会 赤ひげ大賞」に関連した動画2本を日本医師会公式YouTubeチャンネルに掲載しています。ぜひご覧下さい。 ■第12回「日本医師会 赤ひげ大賞」表彰式 https://www.youtube.com/watch?v=2Mfmhhf-72c ■BSフジ「密着!かかりつけ医たちの奮闘~第12回赤ひげ大賞受賞者~」 https://www.youtube.com/watch?v=ufdpR-HfDjk&t=533s |